第58話 住人説明会

 今日の午前中の予定は住民説明会だ。

 俺は前の席には座らない。

 サングラスとマスクを着けて、後ろの方でこそっと見ていた。


 区から説明がなされた。


「いったいいくら土地の価格が下がったと思うんだ!」

「たった5万円ぽっちでお茶を濁すつもりか!」

「壁は機能するのか?!」


 怒号が飛び交う。


「えー、皆さまのご怒りはもっとも。しかしですねよく考えてほしい。ダンジョンができて得をした者はおりません」


 区長がマイクを握った。


戸塚とつかの野郎はどうなんだ!」


 立ち上がってそう怒鳴ったのは尻手しっての野郎だ。

 奴がデモの火を点けたのか。

 許せん。


戸塚とつかさんはスタンピードが起これば何百億という負債を背負わなければならない。はたしてそれが得でしょうか」

「そんなのスタンピードが起こらなければ丸儲けだろうが!」

「えっ、今の言葉を聞きましたか。スタンピードが起こらなければ丸儲け。スタンピードが起こらなければ、みなさんの土地の価格も戻るのではないですか」

「くっ! 屁理屈だ!」

「最初の給付金の財源は戸塚とつかさんの寄付です。これからも利益が出れば還元すると言っています。それなのにその言い草はまるで、たかりですね」

「たかりと言ったな。訴えてやる!」

「どうぞご自由に。ではこれで第1回説明会を終わらせて頂きます」


 説明会はこんな感じか。

 これから区長の切り崩し工作が始まるのだろうな。

 俺は週刊誌の記事で知っている。

 集会などに金をばら撒いて懐柔するんだ。

 そうすると、反対の署名を集めたのが、表を変えて賛成の署名として提出されたりする。

 しかもこれをやっているは行政じゃないんだよ。

 欲の皮が突っ張った住人が率先して工作するんだ。

 あれっ表紙が違いますねなどと囁くだけで良い。


 俺がそれをやるわけではないが、悪人に加担している気分だ。

 給付金はこれからも追加でちょくちょく出すよ。

 だから許してくれ。


『横領の容疑で尻手しって賢吾けんご容疑者が逮捕されました。容疑者にはその他にダンジョンで殺人を行った容疑もあります』


 昼飯を食いながらニュースを見ていたら、そんなニュースが流れた。

 いよいよ、尻手しっても終わりか。


 辻堂つじどうから電話が掛かってきた。


『先輩、やりましたね。専務の尻手しっても辞職しました。もう社内は凄い騒ぎです』

「だが、会社の根っこは変わってない。社長は悪人ではないけど、社員を大切にしない人だ。ブラックとも言える環境を作ったのもあの人だからな」

『ですね。うちの会社。労働組合を作ろうとしたら、親睦会なる組織を作ってそれを潰したんですよね』

「そうだな。親睦会はたまにただで旅行とか連れていっているけど、研修旅行の名目だから税金対策のひとつにしか過ぎない」

『その研修旅行も酷いですよね。社員に宴会の出し物とか練習させるんですから。それで幹部の気に入った部署には金一封でしたっけ。あんなのガス抜きにもなってない。出し物を練習している時間、寝たいですよ』

「そうだな。それにそんなのは氷山の一角だ。退職させるための部署とかあるのを知っているか?」

『ええ、病気になった人とか、反抗的な社員とかが、移動させられるのですよね』

「そうだ。そういう悪い膿をみんな出さないといけない。それにはまだ辛抱していてくれ」

『はい、信じて待ってます』


 社長はやり手なのは知っている。

 俺が考える理想の会社は利益が出ないのだろう。

 だが、知ったことか。

 社員が幸せでとんとんぐらい儲けていればいい。


「先輩、色々と動き始めていますね」

「まだ序の口だ。こんなものでは終わらせない。影に徹して、俺の政党を国政に打って出させる。まだ夢物語だが、いつか叶うと信じているよ」

「いいですね。影の総理になった先輩を見てみたいです」


 とりあえずの目標は10階層制覇&リフォームだ。

 10階層も殺処分部屋や、ポーション養殖を行えば、巨万の富を築けるに違いない。

 腐った国の制度も改革できるはずだ。


 部屋を見て回る。

 リフォームが済んだ部屋と殺処分部屋を見ていると、ダンジョンは災害であり資源なんだなという思いにとらわれる。


 何年掛かっても最下層までリフォームしよう。

 そして他のダンジョンもリフォームして回るんだ。

 世界中のダンジョンをリフォームし尽くす。

 夢のような話だが、コツコツやればできるはずだ。


藤沢ふじさわ、これからもよろしくな」


 藤沢ふじさわにカイザーウルフのコートをプレゼントした。

 毛皮は忙しい合間にひと狩りいって確保しておいた奴だ。

 先日、出来上がってきた。


「約束、覚えていたんですね」

「忘れないよ。アクセサリーもそのうち出来上がる。何か記念の時に贈ろう」

「待ってます」


 終りみたいな雰囲気だが、まだまだ終わらんよ。

 俺の活躍はこれからだ。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               31,374万円

上級ポーション3個             906万円

彫像10体                  10万円

カイザーウルフ60体          4,800万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 41,926万円 41,926万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  105億円


 ついに、カイザーウルフの買取値段が下がった。

 一体100万円から、一体80万円だ。

 魔石の価格はいつも通りだから、下がったのは毛皮の値段だ。

 まだ下がると買い取り業者から言われた。

 毛皮は贅沢品だからな。

 肉は消費されるから、そんなに値段は下がらない。

 日本全体で消費される量になるにはまだ足りないから、値段はとうぶん下がらないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る