第56話 ハエトリ蜘蛛

 あとふた部屋ということで、俺達は大船おおぶねさんの後をついて行った。


「蜘蛛か。強敵だな」


 大船おおぶねさんの感想。

 象より大きい蜘蛛が待ち構えていた。

 足なんか丸太ほどはある。

 足はさほど長くなく、ずんぐりとした体形だ。

 巣は張ってない。


「硬そうですね」

「それだけじゃないかもな」

「足の肉はたくさん詰まっていそうです」


「討伐したら、バーベキューにしよう」

「やった」


「じゃあ威力偵察と行きますか」

「そうだな一当てしないことには分からん」


「じゃあ行きますよ。【リフォーム】槍ドリル」


 回転しながら槍が出て来て、蜘蛛はそれを飛び退いて避け、何かを吐いた。


「【リフォーム】盾」


 緑いろの液体が盾にべったりとついた。


「たぶん毒だな」


 大船おおぶねさんの見立ては正解だろう。

 触っただけで猛毒に侵されそうだ。


「毒液は即死だと思った方がよさそうですね。頭上からの落石で気を引こうとしても、複眼ですから、どれだけ効果があるか」


「先輩、巣を張らないタイプの蜘蛛だとハエトリ蜘蛛みたいですね」

「なるほど。だとすれば動くものに反応するな」


 台車を取ってきて、カイザーウルフの死骸を温めて載せる。

 そして、それを蜘蛛モンスターに向かって突っ込ませた。

 蜘蛛モンスターはそれに反応して飛び掛かってきた。


「【リフォーム】槍ドリル」


 蜘蛛モンスターは槍ドリルに貫かれた。


「やったか」


 俺は盾となっている壁から身を乗り出した。


「先輩、危ない」


 蜘蛛モンスターが最後の力を振り絞って毒液を吐く。

 俺は大船おおぶねさんに突き飛ばされて、事なきを得た。

 起き上がった時には大船おおぶねさんは蜘蛛モンスターの頭に剣を突き立てていた。


「油断大敵だぞ」

「はい」


 蜘蛛モンスターは透明に近い白濁した血を流して死んだ。

 遠距離攻撃に徹しられたら、危ないところだった。


「よし、バーベキューだ」


 丸太ほどもあるカニに似た肉を食うのは初めてだ。

 捌くのもノコギリを使う。

 手が凄く疲れたと言っておこう。

 焼き始めると香ばしい匂いが漂った。

 肉を箸でつまんで口に。

 うう、ジューシィ。

 これは凄く美味いな。

 ビールが進む。


「先輩、美味しいですね。蜘蛛肉の中では最高ランクです」

「これはヒット商品の予感」


「おう、うめぇな。買い取り業者の兄ちゃんも遠慮せずに食え」

「はい」


「蜘蛛肉に何か名前を付けて売ったらどうかな。ブランド肉って奴」

「この美味さだと商標登録する手間にも釣り合いますね」


 この蜘蛛はエレファントスレイヤーと名付けた。

 象を食うかは分からないが、名前だから良いだろう。

 蜘蛛肉の総称ねぇ。


「Sクラブ肉でどうかな」

「カニだと主張するのはいいですね」


 買い取り業者の賛同が得られた。


「精々高く買い取ってくれよ」

「はい、この蜘蛛の毒液のサンプルも少し調べましたが、解毒剤の材料になりそうです」

「それは良い報せだ。殺処分部屋を作らないとな」


 バーベキューを終え、エレファントスレイヤーの殺処分部屋を作った。

 これで益々儲かるはずだ。


 残すはあとひと部屋。

 俺はバーべキューを終えてからこそっと偵察に行った。

 いたのは一つの胴体に3つの頭を持ったカイザーウルフだった。


 口の端からチロチロと炎がこぼれている。

 うわっ、これも強敵の予感。


「先輩、抜け駆けは厳禁ですよ」


 急に声を掛けられて跳び上がるほど驚いた。


「びっくりした。藤沢ふじさわか。しないよ。死闘の予感がするからな」

「頭がみっつあると凄く強そうですね」

「まあな。偵察も終わったから帰ろう」


 御嶽みたけ青年の所に蜘蛛肉をもってお邪魔した。


「これでも食って元気を出してくれ」

「ありがとうございます」

「霊媒師の仕事はどうだ?」

「慣れてきたんで、上手くやれていると思います。ただ触れ合いたいという要望が多くて困ってます。私に憑依させるような能力はありませんから」

「そうだな。霊がどう思っているか伝えただけでは不満も残るか」

「ええ。触れ合えるなら、私は死んだ家族と触れあいたい」


 そう言って御嶽みたけ青年は涙を流した。


「もどかしいのは分かるが気をしっかり持ってな」

「はい、話せるだけでも贅沢なのは分かってますから」


 いつか話せるだけじゃなくて触れ合える日が来るといいな。

 そうすれば御嶽みたけ青年の生きる気力も湧くのだろう。


 尻手しってに対する冒険者パーティを殺害した損害賠償民事裁判が始まった。

 刑事の方はまだ起訴には至ってない。

 証拠を集めてから逮捕して起訴するようだ。

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俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               11,678万円

依頼金          100万円

上級ポーション3個             924万円

彫像10体                  10万円

カイザーウルフ60体          6,000万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

殺処分ロッカー大   1,054万円

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計          1,154万円 22,008万円 20,854万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  105億円


 買い取り業者の見立てでは、エレファントスレイヤーの買取価格は一体120万円らしい。

 キロ辺りにするとだいぶ安い気がする。

 1トンだとして、魔石を抜いた本体は70万だから、キロ700円ぐらいか。

 まあカニじゃないからな。

 蜘蛛肉としては高いほうなのだろう。

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