第55話 デモ

「大変です」


 朝飯を終えて、仕事に取り掛かろうとした時に、藤沢ふじさわが駆け込んで来た。


「そんなに慌ててどうした?」

「近隣住人がデモをしてます」

「何だって!」


 慌ててダンジョンから出ると、プラカードを持った人達が大勢いて、色々なことを叫んでる。


「ダンジョンは出て行け!」

「地価の下がった補填をしろ!」

「ポーションを我々にも配れ!」

「壁を建設してスタンピードを防げ!」


 あー、地価が下がってご愁傷様と言ってやりたいが、感情を逆なでする行為だ。

 こういうのは金で黙らせるに限る。


 デモはニュースになっていて、かなり大ごとだ。


 俺が金を出して区にやらせよう。

 俺は区長にアポを取った。


「住民運動を抑えたいので、金を払って黙らせる方向が良いと思うのですが。金は寄付しますので、区が責任もって、説得と配布をお願いしたい」

「厄ネタみたいな案件を持ち込みますね」

「俺が金を払うと言っても住民は納得しないでしょうし」

「こちらとしても人気取りができそうな案ですから、乗りましょう」

「とりあえず。最初は△△町の1世帯ずつに5万円払いたいですね」

「それだと1億3,070万円になるな」

「くれぐれも、俺の寄付でやっているという説明を、忘れないで貰いたい」

「分かっているよ、安心したまえ。壁は区の方で作ろうか」

「良いのですか?」

「まあ、こっちにも得があるから」


 政治家は箱物が好きだな。

 オーガの一撃に耐えられるような物ができるかは疑問だ。

 今の出入り口の扉はダンジョンの壁を使って作ってあるから、強度はダンジョンの壁と同じだ。

 スタンピードの時は封鎖するつもりだけど、それを壊して出てくるような奴だぞ。

 ただの鉄板とコンクリートで防げるとは思えない。


 だが、近隣住民が安心するというのであれば、その価値はある。


 区長のインタビューがテレビに流れた。


『△△区長として、デモの参加者の不満を和らげる政策を提案します』


 びしっと決めた軍畑いくさばた区長がそう言って映像は始まった。


『それはどういう政策でしょうか?』


 アナウンサーが尋ねた。


『まず、住民説明会を開きます。納得のいくまで話し合いたい。そしてダンジョン交付金を支払います。今は年間1万円ほどですが、区がやろうとしている第三セクターの事業いかんでは増額するつもりです。そして、主な財源はダンジョン分譲コーポレーションからの寄付で捻出しています。ダンジョンはけして負の遺産ではない。それを言いたい』


『ダンジョンに対する国の対応についてどうお思いですか?』

『もっと国民に寄り添った政策を取るべきです』


『現在、地震や火山災害がなくなってダンジョン災害があるわけですが、どう思われますか?』

『世界は変革されてこのような形になりましたが、もっとよりよい未来が描けるはずです。ダンジョン災害は人災です。防げます』


『ありがとうございました』


 短いインタビューだが、俺の意向に沿った内容だと言える。

 第三セクターの利益の一部を回すというのは驚いたが、ほんの一部なんだろうな。

 でも30部屋もポーション養殖部屋を抑えれば。

 そして、その部屋に殺処分ロッカーを置いて運用すれば。

 結果は言うまでもないだろう。


 区長のインタビューが効いたのか、立て札と張り紙を残してデモ隊は消えた。


「先輩、後々いろいろと揉めそうな案件ですね」

「地価が下がって大変なのは分かるから、利益を少しぐらい還元しても良い」

「住人が図に乗らないでしょうか」

「確実に乗るな。でも区は同意書みたいな書類を取るだろう。それさえ押さえてしまえば、あとはどうにでもなる」

「悪徳政治家ですね」

「まあな、善人というだけでは生き残れない。ダンジョンという敵が強大なのだから、なるべくリソースはそちらに割きたい」

「ですね。悪徳政治家な先輩も素敵です。痺れます。どこまでもついて行きます」


「金で解決できないことはあるけど、大抵は金で解決出来てしまうんだよな。そうは思いたくないけど」

「ですね。ですが、私と先輩の絆は金では切れません」

「俺も同じ思いだ」

「先輩♡」


「よう、大変だったな」


 大船おおぶねさんが、遅めの討伐にきた。

 電話して遅くして貰ったのだ。

 区長とかデモ隊の動静などは気にしなくてもいいのだけど、討伐関連の仕事は気を散らさないでやりたい。


「ええ、大変でした」

「外野の言うことをいちいち真に受けてたらダンジョンのオーナーは出来ないぞ。どこのダンジョンでもオーナーは憎まれる。スタンピードで怪我人や死人が出るからな」

「でも、出来るなら仲良くやりたい」

「まあな、生卵を投げられるような事態は誰も勘弁だからな」

「じゃあ。今日も頑張りますか。残すは2部屋とボス部屋。それで1階層制覇だ」


 ついにここまで来た。

 100階層はあろうかというダンジョンの100分の1がもうそろそろだ。

 頑張らないと。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               24,748万円

寄付金       13,070万円

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計         13,070万円 24,748万円 11,678万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  105億円


 一世帯あたり給付金5万円は少ないが、そのうちまた同じようにやりたい。

 下がった地価の分を全て補填は出来ないが、誠意を見せるのは良いだろう。


 俺もダンジョンの被害者だが、彼らもだ。

 儲かっているし、おすそ分けぐらい構わないと思う。

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