第51話 こんなのでは終わらんよ

 ものの見事に俺の会社のSNSは炎上した。


「先輩、どうします?」

「反撃する。尻手しってを横領で刑事民事共に訴える」

「そうこなくちゃ。実は良いネタがあるんですよ。尻手しってが載せた証拠書類。あれを分析したら、印鑑の色が違いました」

 尻手しっては自分の朱肉を使ったのだな。

 間抜けな奴だ。

 だが、犯罪なんてそんなもの、どこかでボロが出る。


「でかした」

「反論するネタとして良いと思いませんか。まだあるんです。証拠書類の筆跡鑑定したら、先輩の名前を書いたのは尻手しってだと分かりました」

「それは有力な証拠だな。だが、筆跡鑑定は精度がある。尻手しってを確実に有罪に追い込みたい。今は朱肉の色の反論だけに留めたい」

「今は反論だけですか」

「そうだ。少し不安がらせて、泳がす。訴えるのは何時でもできる」


 俺は会社のホームページに朱肉の色の反論を載せた。

 そして、週刊誌の記者を呼んだ。

 片倉かたくら少年の美談と、救急センターの上級ポーション提供のことと、横領は捏造だという情報を提供した。


 尻手しっては朱肉の件で焦ったのか、証拠書類の写真を削除した。

 3流犯罪者だな。


 俺はそのこともホームページに書いた。

 尻手しっては不味いと思ったのかだんまりを決め込んだ。

 SNSの炎上は止まり、逆に尻手しってのSNSが炎上した。


 こんなのでは終わらんよ。

 俺は死んだパーティメンバーの家族と会うことにした。


「奥さん、悔しくはないですか? 殺人を犯した尻手しってがのうのうと生きていて」

「悔しいです。でもあの映像だけでは駄目みたいです」

「裁判費用は持ちますから、尻手しってを民事で告訴してみませんか。刑事は被害届を出せばそれで終わりです」

「はい、やりたいです」


 俺と懇意にしている弁護士に電話を掛けたところ、知り合いの弁護士に話を持っていくと弁護士は言った。

 民事で勝てば裁判費用は相手に請求できる。

 賠償金も取れるし良いことだらけだ。


「当座の費用として1000万円用意します。足りなくなったら言って下さい」

「ありがとうございます」


 尻手しっての野郎、きっと慌てふためくぞ。

 尻手しっての被害にあったパーティメンバーの家族全てから裁判するという同意が得られた。

 集団訴訟になるらしい。


 少し怒りが収まった。


 蜘蛛モンスターの殺処分ロッカーを2部屋作るように手配する。

 あれは売れるだろうな。

 オーク呪術師とドッペルオークの殺処分ロッカーも作ることにする。

 この2体はオークキングと比べると肉の味が落ちるそうだ。

 だが、作らないという選択肢はない。


 オーガは旨味がないので、追加の殺処分ロッカーは作らない。

 カイザーウルフは5部屋で十分だろう。

 海外でカイザーウルフ毛皮の売り上げが伸びたら、カイザーウルフの殺処分部屋を増やそう。


 殺処分ロッカーは数時間で出来上がった。

 今は試運転中。


藤沢ふじさわどうだ?」

「【マッピング】、死んでます」


「じゃあ開けよう」


 何メートルもある蜘蛛が足を縮めて死んでいた。


「カニ♪ カニ♪ カニ♪」

「カニじゃなくて、エンペラータランチュラな」

「もう、カニだと思わないと喉を通りません」

「足1本を俺達用にとっておこうと思ったが、やめるか」

「もう、いけずですね」


 もうひとつの蜘蛛は、メイズスパイダー。

 蜘蛛の殺処分ロッカーの掃除は大変だ。

 死ぬ前に蜘蛛糸を吐くからだ。


 何もせずに死んだら良いのにな。


「掃除係のアルバイトを雇うか?」

「2つぐらいなら私達で十分じやないですか」

「それもそうか。でもこの蜘蛛糸、かなり強度があるぞ。なんでこんなに取れ難いんだ」


「油を塗っておくと蜘蛛糸くっ付かないらしいですよ」

「おお、サンキュウ」


 油を塗って蜘蛛糸がくっつくのが緩和された。

 蜘蛛からは素材として糸袋が採れた。

 スパイダーシルクの布が作れるらしい。

 高級品だ。


「1階層、ザコ部屋を制覇したら、藤沢ふじさわにスパイダーシルクのドレスをプレゼントしよう」

「本当ですか。やった」


「蜘蛛肉は嫌で、糸は良いのか」

「絹だってカイコの糸ですよね。カイコは普通食べません」

「珍味として食べる地域もあるそうだぞ」


 乙女心は複雑だ。

 俺は美味けりゃワニの尻尾でも食うけどな。

 話の種にカエルと雀の姿焼きを食ったことがある。

 美味かったから、悪感情はない。

 ナマコなんかもたまに食うし。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               48,950万円

殺処分ロッカー4つ  2,108万円

裁判費用       1,000万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計          3,108万円 48,950万円 45,842万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  100億円


 裁判費用なんか惜しくない。

 スタンピードが起これば紙屑同然だ。

 起こらなければ、金持ちでウハウハなので1000万ぐらいの散財は惜しくない。

 どっちにしても惜しくない。

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