第43話 金縛り

 今日も大船おおぶねさんはひとり討伐に出ている。

 俺は魔力の余裕をみてリフォームの真っ最中。

 とつぜんダンジョンに咆哮が響き渡った。

 ビリビリとダンジョンが揺れた感じがする。


 大船おおぶねさんからヘルプ要請は出ていない。

 だが嫌な予感がする。


藤沢ふじさわ、何号室だ」

「【マッピング】。32号室です」

「急ぐぞ」


 スクーターに乗りフルスロットルで現場に急ぐ。

 32号室が見えた。

 スクーターを乗り捨てて、状況を把握する。


 大船おおぶねさんはオーガに滅多打ちにされていた。

 何度も吹っ飛ばされボロ雑巾みたいになっている。


「まだ生きてます!」


 藤沢ふじさわが叫んだ。

 助けないと。


「【リフォーム】、槍」


 オーガは床から突き出た槍を飛び退いて避けた。

 藤沢ふじさわが、大船おおぶねさんに駆け寄る。


 オーガは大きく息を吸い込むと、咆哮を放った。

 俺の心臓が止まったように錯覚。

 くそっ、金縛りという奴か。


 藤沢ふじさわ大船おおぶねさんに、上級ポーションを飲ませるのが間に合っただろうか。

 オーガがニタリと笑ったのが見えた。


 考えろ。

 打開する手を考えるんだ。

 喋れないから新たにスキルを発動することはできない。

 だが、さっき発動したスキルがまだ残っている。

 これを使えば。


 オーガよ、止めを刺しに歩いて来い。

 オーガはゆっくりと歩いて来て先ほどの槍の横を通り抜けようとした。

 今だ。

 リフォーム変形、鎌。

 槍が鎌に変形。

 オーガをざっくりと斬り裂いた。

 どうやら勝ったようだ。


 10分ほど経ち、金縛りが解けた。


大船おおぶねさん!」


 大船おおぶねさんに近寄り揺さぶる。


「まだあちこちが痛い。揺するなよ」

「すいません」


「助かったよ。お嬢ちゃんもありがとよ。上級ポーションが間に合わなかったら死んでたかもな」

「良かったです。間に合わないかと思って」


 藤沢ふじさわが泣いている。

 俺はハンカチを差し出した。


「強敵でしたね」

「おうよ。先手必勝で咆哮を止められりゃ良かったんだがな。つい出方を窺ってしまったぜ」

「もう歩けますか」


 大船おおぶねさんは立ち上がり、体に異常がないか確かめた。


「俺も歳だな。引退も近いか」

「引退したら、相談役になって下さい。大船おおぶねさんの知識は役に立ちます」

「そん時がきたらよろしく頼むよ」


 死骸をフォークリフトで片付けながら考えた。

 冒険者稼業は大変だなと改めて思う。

 いつ死ぬか分からない危険な職業だ。

 スキルホルダーの2割ぐらいしか冒険者にはなっていない。

 戦闘に役立たないスキルもあるが、二の足を踏む人も多いのだろう。


 メッセージを録画し始めた。


「今日、死にかけました。金縛りを使うオーガです。スキルホルダーのモンスター退治は義務みたいに考えてましたが、これはモンスターとの戦争だと思います。冒険者になるならよく考えるべきです。スタンピードを阻止するなどの明確な目的を持つべきです」


 そこで、カメラを止めた。

 俺自身も何を言いたいか分からない。

 だが、信念がある冒険者が増えて欲しいと思う。


 御嶽みたけ青年の部屋にお邪魔した。


「どうです。生きたくなりましたか?」

「ならないですね。魔力が続く限り家族の霊と話してますが、寂しさは埋まりません」

「何かやられてみてはどうですか」

「趣味ですか。今までやっていた趣味も試してみたのですが、何もかもが虚しい。やっても少しも楽しくないのです」


番田ばんださんの所には行きましたか」

「ええ、猫は可愛いですが、楽しくないのです」


 この青年の何が問題か分かった気がする。

 自分一人が生き残って楽しんだりしたら、バチがあたるとでも思っているのだろう。


「霊の声を届ける仕事はどうですか」

「難しいです。インチキだと言われることもありますし。霊が家族を良く思ってないなんてこともあります」


「感謝されたりはしないのですか」

「されます。やって良かったなと思うこともしばしばです。こんな私でもお役に立てるんだなと」


「みんな死んだ家族の言葉を聞いて、喜びながら悲しんだでしょう」

「ええ」

「そうです。人が死ぬと悲しいんです。御嶽みたけさんも出来る限り生きて下さい。私は今日死に掛かってたですが生きていて良かったと思います。俺は悲しんでくれる人間が一人でもいる限りは生きますよ」


「死に掛かったのですか。羨ましい。冒険者をやってみたい」

「馬鹿を言っては困ります。何のためにモンスターを倒すのか大儀が無い人には許可できません」

「大義ですか。それができたら連れてってくれますか」

「そうですね。それができたら。死ぬためになんてのは駄目ですよ」


 御嶽みたけ青年がおかしな方向に行かなきゃいいけど。

 余計なことを言ったかな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               20,332万円

依頼金          100万円

上級ポーション3個             921万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            100万円 21,263万円 21,163万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -84億円


 上級ポーションが3個出るのが普通になってきた。

 宝くじに当たったりしないのに、億の金を手にするとはな。

 人生分からないものだ。

 スタンピードが起こって破産一直線でなければ良いのだけど。

 ネガティブはやめておこう。

 きっとオーガ100体ぐらいで、リフォームスキルで扉を閉鎖して、被害なしで済むさ。

 そう思うことにした。

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