第42話 子供連れ狼

『ちょっと来てくれ。俺にはこいつを殺せない。27号室だ』

「了解」


 大船おおぶねが殺せない強敵か。

 どんなのだろう。


 駆け付けると、カイザーウルフがいて、子供が3匹。

 母親は俺達を睨み殺すほどの視線で見ていた。


「どうにかなんねぇか」

「こう言っちゃなんですけど、モンスターの飼育は難しいです。政府の機関でも何人か飼育員が殺されているようです」

「分かっているよ。心を鬼にしなけりゃあってことは」

「先輩、どうにかならないですか」


「この部屋を封印することはできる。だが、いずれ壁をぶち破ってあふれ出てくる」

「でも」


 どうするかな。

 母親だけ殺して、子供を政府機関に売るというのも非情だ。

 かと言って見逃すこともできない。

 母子共々殺すというのも非情だ。


 これにない選択肢は母子全員を捕まえるだ。

 カイザーウルフを閉じ込めておける檻は特注品になるんだろうな。

 捕獲作戦はし烈を極めるに違いない。


 麻酔銃が使えればな。

 方法はある麻酔銃の弾を手で握りぶっ刺せば良い。

 そうすれば、手に持っている間は魔力が流れているから刺さる。

 問題はどうやるかだ。

 まあできるんだけどね。


「母子共々捕獲しましょう。政府機関で飼育してもらうことにします」

「そうか。甘い決断だが、討伐出来ない俺がとやかく言うことじゃねぇ」

「先輩、ありがとうございます」

「今回は特例だ。次にこういうことがあっても同じ行動をとるとは限らん」

「それで、作戦はどうする?」


「身動きできないようにダンジョン格子で挟みます。後は麻酔薬をぶすっと」

「よし、麻酔薬は任せとけ」


 大船おおぶねさんが去って行き、しばらくして麻酔薬を手に現れた。


「よし、やりますか。【リフォーム】ダンジョン格子」

「すまんな」


 身動きの取れなくなったカイザーウルフに、大船おおぶねさんが麻酔薬を次々に刺していった。

 そして体を傷つけないようにフォークリフトに載せる。


 外に運び出すと研究所の人達が来ていた。


「ご協力ありがとうございます」

「実験動物にはしないで下さい」


 俺は要求を伝えた。


「分かりました。なるべくそのようにします」

「後で会いに行ってもいいですか」


 藤沢ふじさわが尋ねる。


「はい、強化ガラス越しですが」


 いつかモンスターと共存できる世界になったらいいな。

 戦いはどんなものでも悲しい。

 犠牲者の出ない優しい世界になることを祈っている。


 今回の動画の配信は反響を呼んだ。

 可哀想という意見に対して、殺すべきという声も多い。


 たぶん正解なんてないんだ。

 釈然としない気持ちを抱えて番田ばんださんの部屋へ行く。

 番田ばんださんは俺達の話を聞いて、割り切れないよねと言った。


「猫もさ、やたらめったら構ってやれば良いって、もんじゃない。責任を持たないといけないんだよ。増えすぎないように手術したりしてさ。手術は残酷だという人もいるけど、確かに割り切れないんだよな」

「そう考えると複雑ですよね」

「情をやたらめったら移すのは危険だ。よく野良猫に餌をあげている人をみるけど正直複雑だよ」


「でも、あの母親の何が何でも子を守るっていう意志を見た時に、モンスターも人間と同じなんだなって」


 と藤沢ふじさわ


「冒険者は罪深いよな」


 と俺。


「そういうのを考えたら、家畜の肉は食べられなくなる。割り切らないと。猫を飼うのも一緒だよ。どこかで割り切らないと、野良猫を全て保護は出来ない。怪我や病気の猫を見たら、出来る限りはするけど、際限なくは出来ないからな」


 番田ばんださんが少し悲しそうに言った。

 インターホンが鳴る。

 とうやら上溝うえみぞさんが来たようだ。

 これまでの話をすると、彼女は。


「そういう問題の答えは出ないですよ。私は運命に従うことにしてます。猫ちゃんに会ってびびっときたら、うちの子にします。所詮、人間のエゴでしかないです。運命ですよ」


 番田ばんださんが頷いている。


「また、ひとり減った」


 小声で小さくガッツポーズする藤沢ふじさわ

 まあな、運命としか言いようがないよな。

 殺したとしても運命だし、助けたとしても運命。

 なるべく助けたいのは人として当然だ。

 でも助けられない場合もある。


 保健所の犬猫全てを助けたりできないものな。

 出来ることを運命に沿ってやる。

 これだけだ。

 今回の対応はまあ良かったとしておこう。


 今回は出来る限りのことをした。

 次回も出来る限りのことをする。

 それで良いと思わないとやっていけない。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               21,745万円

依頼金          100万円

上級ポーション3個             912万円

彫像10体                  10万円

相続税        2,235万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計          2,335万円 22,667万円 20,332万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -84億円


 毎日、上級ポーションが3個も湧いて出ればいうことはない。

 亡くなってから10ヶ月以内だったが、相続税を払った。

 見積より高くついたが、これは仕方ない。

 ひとつ肩の荷が下りた気分だ。

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