第37話 三角飛び

 大船おおぶねさんが遅まきながら討伐に来た。

 大船おおぶねさんなら、安心だ。

 ヘルプの出番が減るかな。


『討伐してない部屋が空だ。彷徨い出たぞ』

「分かりました。住人に部屋から出ないように言ってから探索します」


「すいません、モンスターが出ました。リフォームを一時中断して避難して下さい」

「おうよ」

「討伐が終わったら知らせてくれ」

「お茶にしますか」


 職人はこれでいい。


「モンスターが通路にいます! 部屋から出ないようにして下さい!」


 俺は上溝うえみぞさんの部屋の扉越しにそう声を掛けた。


「はい」


 あとは番田ばんださんと、香川かがわさんと、片倉かたくら少年と、橋本はしもとさんと、御嶽みたけ青年か。

 番田ばんださんと橋本はしもとさんは仕事で留守だな。

 片倉かたくら少年はまだ住んでいない。

 ポーションの確認にたまにくるだけだ。


 御嶽みたけ青年は知らせると、死にたいなどと言いそうだ。

 知らせないでそっとしとこう。

 香川かがわさんの所に行こう。


「モンスターが通路にいます! 部屋から出ないようにして下さい!」

「承知しました」


藤沢ふじさわ、スキルで彷徨っているモンスターの場所を特定してくれ」

「【マッピング】。いました。いま9号室の前です」


大船おおぶねさん、9号室の前だそうです」

『了解』


 俺達も現場にスクーターに乗って急いだ。

 いた。

 オーガだ。

 角が1本ある。

 通常オーガに角は2本だ。

 異常固体という奴だな。


「先手必勝。【リフォーム】、槍」


 オーガは槍を飛び退いて避けた。

 くそっ、初手を外したか。

 次にオーガはどう出る。

 オーガがダッシュしてパンチなら、俺は盾だ。


 オーガはこちらをじっと見ている。

 次の瞬間オーガが動いた。


「【リフォーム】、盾」


 オーガは三角飛びして俺に襲い掛かったらしい。

 盾をかいくぐっていた。

 俺は胸を殴られ、吹っ飛ばされた。

 意識があるのが不思議なぐらいだ。

 確実にあばら3本はいっているな。


「先輩!」

「騒ぐな」


 俺は上級ポーションを飲んだ。

 さあ、第三ラウンドといこうじゃないか。


 こっちの手数はあと2回。

 ここはどうする。

 攻撃2回は、避けられたら後が無くなる。

 搦め手の何かが欲しい所だ。


 俺は唐辛子スプレーを投げまくった。

 唐辛子スプレーはオーガとの間に落ちる。

 計算通りだ。

 オーガは警戒している。

 だがもう攻撃は成功したようなものだ。


「【リフォーム】、手」


 床から針金ののような手が出て、オーガに向かって唐辛子スプレーを噴射しまくった。

 オーガは目をやられ掻きむしった。


「【リフォーム】、槍」


 ふぃー、なんとかなった。

 このオーガが馬鹿でよかった。

 唐辛子スプレーが何なのか理解できなかったのだろう。

 理解してても床から手が出て来て唐辛子スプレーを噴射しまくるとは考えも及ばなかったはずだ。


「成長したな。後ろで見ていたが安心して見てられたぜ」


 大船おおぶねさんがいつの間にか来ていてそう言った。


「まだまだです。大船おおぶねさんが来ていたのに気づきませんでした」

「忍び足で近寄ったからな。スキルではないが、こういう小技は役に立つ。今日の依頼は破棄しようか」

「いいえ、オーガが部屋から出たのを発見してもらいましたし、いざという時はヘルプに入ってくれたんですよね」

「まあな。だが、ほとんど何にもしてない」

「授業料だと思ってくれたらいいですよ。今までにもたくさん教わりましたから」

「じゃあ、依頼金はありがたく貰っておく」


 ここでけち臭いことを言っても大船おおぶねさんは気にしないだろうが。

 人との付き合いは持ちつ持たれつだ。

 大船おおぶねさんとの縁は大事にしたい。


「先輩。危なかったですね」

「おう。三角飛びには参った。あんな動きをしてくるとはな」

「油断じゃないですか」

「いいや、モンスターの質が上がっているんだ。今回のも異常種だった」


 唐辛子スプレーの遠隔攻撃を思いついてなかったら、危なかった。

 でもその時は大船おおぶねさんが助けてくれたに違いない。


「仲間、欲しいですね」

「ああ、欲しいな。仲間は必要だ。スカウトする金ならある。だが、仲間はよく考えて選びたい。命を預けるのだからな」

「ですね。女の子はノーサンキューと言いたいですが、性別の選り好みはしてられません」

「だよな」


 俺は上溝うえみぞさんの顔が浮かんだ。

 彼女ならSランクダンジョンも容易いのだろうな。

 なんせ魔力を自由自在に操って、スキルを再現してしまうのだから。

 でも、お嬢様だからなぁ。

 ちょっと誘いづらい。

 なんか切っ掛けがあればいいけどな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               18,058万円

依頼金          100万円

上級ポーション2個             610万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            100万円 18,678万円 18,578万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -84億円


 段々と増えていく金を見ると嬉しくなる。

 でもこのぐらいではスタンピードの補填には足りない。

 時間さえあればと思わないでもない。

 頑張るしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る