第35話 観光客騒動

 テレビを点けると、ダンジョン分譲コーポ―レーションの番組をやっていた。

 今日だとは聞いていたが、素直に嬉しい。

 地方局だから、視聴率はあんまり望めないだろう。

 ダンジョン分譲コーポ―レーションの後はスキル覚醒塾だ。

 香川かがわさんも500万円払ったのかな。

 俺に便乗してただでとは考えたくない。


 いや、疑ったら悪い。


 インターホンが鳴った。


御嶽みたけです。スキル生えました」

「あさいちで区役所に行ったのか?」

「はい。ちょっと生きてみようかなと思いました。スピリチュアリズムというスキルで死者と話せるんです」


 それはまたなんというか。


「家族と話したんだろ。なんて言ってた」

「自分の分まで長生きしてほしいと」

「それは生きなきゃな」

「まだ心の隙間は完全に埋まりません。ですがスタンピードが起こるまでは精一杯生きてみようかなと」

「それがいい。どうせならそのスキルを活かして生きろよ。世の中には死んだ家族と話したい奴もいるだろう」

「はい、同じような境遇の人達を救いたいと思います」


 御嶽みたけ青年が少し元気になってよかった。

 仕事に行こうかと思ったら、階段をどやどや見知らぬ若者が降りてくる。


「へぇ、こうなってるのか」

「安全に入れるダンジョンはここだけだぜ」

「美香つまんなーい」

「そういうなよ。オーガの写真撮ったら帰るからさ」


「君達、ここは私有地だ。勝手に入って貰っては困る」


 俺は若者を咎めた。


「けちだな」


 そう言っている間にも次々に若者が降りて来て、ダンジョンの中を歩き始めた。

 スマホで撮影しながら歩くところは完全に観光客だ。

 こいつら、危機意識って物がないのか。


 俺は入口に看板を設置した。

 私有地につき許可なき者の立ち入りを禁ずると。

 そして警察に電話した。


「もしもし、勝手に私有地に入られているんですけど、どうにかなりませんか」

『どこですか?』

戸塚とつかダンジョンです」

『申し訳ないです。ダンジョンの中は危険地帯となっておりまして、自衛隊の管轄になっています。残念ですが、救助要請ならともかくダンジョンに入られたということですと、自衛隊も手が出せないかと』


 もういい。

 俺は電話を切った。


 これで怪我人が出たら俺の責任とかにならないよな。

 なるような気がする。

 入口に門番を置かないとだめか。

 くそう、要らん出費が増える。


 相場は一日2万円ぐらいか。

 それは後で考えるとして、とりあえず扉を作ろう。

 リフォームスキルで扉を作った。

 よし、入った若者を外に出すか。


「もしもし、警察ですか。戸塚とつかダンジョンです。いまから不法侵入した若者をダンジョンの外に出します。捕まえるなりお説教するなりして下さい」

『了解しました。不法侵入で逮捕に向かわせます』


 すぐにパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「藤沢はここで警察官と話してくれ。俺は若者を捕まえてくる」

「はい、気をつけて」


 ダンジョンの中を歩いて若者を捕まえる。

 ほとんどは大人しく出口まで行ってくれたが。


「おっさんよう。俺らを舐めてるのか」


 ナイフをちらつかせる奴が出てきた。


「【リフォーム】。金縛りの刑だ。しばらく反省してろ」

「横暴だ。なんの権利があって」

「一般人でも現行犯は逮捕できるんだよ」

「くそっ、放しやがれ」


 さて、こういう馬鹿はほっといて。


「おう、大変そうだな」


 討伐に来た大船おおぶねさんに、声を掛けられた。


「あっ、大船おおぶねさん、討伐は少し待ってもらえますか」

「こっちも素人に首を突っ込まれたら、やりづらい。安全が確認されたら言ってくれ」


 くそう、世話が掛かる。


 オーガの部屋の入口で記念撮影している馬鹿がいる。

 危ないぞと声を掛けようとしたら、オーガがぬっと手を出して若者をさらった。


「全く。【リフォーム】、槍」


 槍はオーガの手を貫いた。

 若者はなんとか手から逃れ。

 腰が抜けたのかハイハイしながら部屋から出てきた。

 ズボンはションベンでびしょ濡れだし、顔は涙と鼻汁でぐしゃぐしゃだ。


「これに懲りたら、ダンジョンには入らないことだな」


 若者は仲間が肩を貸して、よたよたと出口に向かって歩き始めた。

 世話が掛かる。


 一通り巡回してから、拘束している若者を連れて、ダンジョンの外に出た。

 お巡りさんはパトカーの中で話を聞いている。

 問題ない奴は帰すらしい。


「お巡りさん、こいつはナイフを出してきました」

「ほんとうか?」

「ちょっと見せただけだ」

「ちょっと来てもらおうか」


 若者は警官に連れて行かれた。


「ご苦労様」


 俺は藤沢ふじさわに声を掛けた。


「先輩、大変でしたね」

「念のため。スキルで調べてくれ」

「いいですよ」


 藤沢ふじさわとダンジョンに降りる。


「【マッピング】通路に人はいません」

「やれやれだ」


「猫が一匹いますが」


 猫というと番田ばんださんのところかな。


「よし捕獲しよう」


 俺達は猫を追った。

 そして追い詰めた。

 途中部屋に寄ってビーフジャーキーを取って来たので、それをちらつかせた。

 猫に人間用は不味いから、捕まえたら番田ばんださんにおやつを上げるように言おう。


 ビーフジャーキーの匂いにおびき寄せられたところを御用にした。


「ふう、もう脱走するなよ」

「にゃー」


 こうして、騒動が終わった。

 この日の討伐が順調に進んだのは良かった。

 トラブル続きじゃ目も当てられない。

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俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               16,340万円

依頼金          300万円

上級ポーション2個             608万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            300万円 16,958万円 16,658万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -86億円

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