第33話 テレビ取材

「少し耳寄りな話があるのですが」


 香川かがわさんから、そう言われた。


「へえどんな?」

「500万円払えば、テレビ局が取材にきて放送してくれます」

「そういうのは取材費をこっちが貰う側だと思ってた」

「いろいろとあるのですよ」


 テレビ局のADに話を聞いた事がある。

 ドラマロケでホテルとか使う場合に、スタッフの部屋代だとか飲み食い代はホテル側で無料で用意するのだとか。

 学生時代の話だから、今はどうなっているか知らないが、まあ色々とあるのは分かる。

 だが、500万は大きい。

 会社勤めしてた頃の俺の給料一年分を超える。

 それでもCMを打つよりお買い得なのは分かる。

 CM1本100万円とかざらだそうだから。


 ここは勝負すべきか。

 攻めだな。


「お願いします」


 スタッフの人が来て打ち合わせが始まった。


「ええと、ダンジョンの中の部屋を改装して、分譲販売するのですよね」

「ええ」


「何か、視聴者が食いつきそうなネタがありますかね」

「宝箱が産まれる瞬間を撮るなんてどうでしょう」


「いいですね。ポーションをプレゼントとかできますか?」

「上級ポーションは無理ですが下級ポーションだったら5本ぐらい、視聴者プレゼントできますよ」


「ではそれでお願いします」

「部屋の紹介とかもしてくれるんですよね?」

「もちろん」


 とんとん拍子に話が進んで行く。

 何ヵ所かテレビカメラを仕掛けたところ、すぐに宝箱が産まれる瞬間が撮れた。


「撮れちゃいましたね」

「撮影なんてこんなものですよ。何週間、粘っても、結局撮れないなんてことは、しょっちゅうです。じゃあ部屋とインタビューを撮って帰りますか」


 部屋の撮影はすぐに終わった。

 さすがアナウンサー、文章を間違える事無く一発でオッケーが出た。


 俺の番だ。

 もう、緊張して噛み噛みの酷いものだった。

 テイク10ぐらいでやっとオッケーが出た。

 今はオッケーが出た映像を確認しているところ。


「今回、お邪魔したのは、ダンジョンを分譲販売するという試みをなされているダンジョン分譲コーポレーションさんです。こちらが社長の戸塚ちつかさんです。なぜこのような試みをされたのですか?」

「Sランクダンジョンともなりますとスタンピード災害の規模はCランクと比べて段違いです。それこそ大人と子供ぐらいの差があります。その損失補填を一人で背負うのではなく、たくさんの人と分かち合えたらなと考えて始めました」


「デメリットばかりだと、背負ってくれる方が現れないのではないですか」

「そうなんです。それで部屋に住むと自動後片付け機能や、その他のダンジョンならではの機能を盛り込みました。一番のメリットは15日に1回ぐらい、1本300万円はする上級ポーションが湧くことです」

「それは凄いですね。まさに金の卵を産むガチョウ。夢のような話をお届けしました」


 短い紹介だが、まあいいだろう。


 さて、スタッフも帰ったので討伐の時間だ。


「皆さんお待たせしました」

「午後からの仕事もたまには良い」

「うずうずしてたぜ」

「一日1時間ぐらいの仕事ですから、いつでもオッケーですよ」


 やる気になっているみんなを見送って、俺はリフォームの現場に顔を出した。


「お疲れ様です」

「配線を埋める所はテープで仮止めしといたぜ」

「汚水溜めを早く作ってくれねぇかな。出ないとユニットバスが入らない」

「ユニットバス入れる入口の拡張も頼むぞ」


「分かりました。ホワイトボードに書いておいて下さい」

「もちろん書いといたぜ」


 今日の討伐は30分掛からずに終わった。

 魔力が空になるまでスキルを使ってから、フォークリフトで死骸回収に向かう。

 大忙しだ。


「先輩、私の仕事があまりないのですが」

「事務処理を振っているだろう」

「あんなのはいまどきAIで一瞬です」

「じゃあ、宝箱の見回りとポーションの回収を頼めるか」

「はい」


 藤沢ふじさわがスクーターに乗って、ポーションの回収に出掛けた。

 ああ、忙しい。

 リフォームスキルがもっと使えればな。

 そうなったら最強だな。

 建築現場で大活躍すること請け合いだ。


 フィールド型の階層が出たら、そこに建てる家は俺がやりたい。

 きっと楽しいだろう。


「ユニットバス用が入るように入口を広げます。【リフォーム】。冒険者さん、ユニットバスを運んで下さい」

「あいよ。【ストレングスアップ】。どっこらせ」


 次は汚水溜めだな。


「チョークで印がつけてあるから。【リフォーム】」


 魔力が切れたな。ちょっと深さが足りない。

 休んだら続行だ。


「お茶にして下さい」


 俺は3時近くになったので声を掛けた。


「もうそんな時間か」


 職人さんが手を止める。


「私がやります」


 帰って来た藤沢ふじさわが、お茶を淹れる。

 これでスタンピードさえなければ、長閑な光景と言えるんだけどな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               16,341万円

依頼金          300万円

上級ポーション2個             614万円

プレゼント用ポーション5個 25万円

広告費          500万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            825万円 16,965万円 16,140万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -88億円


 趣味の彫像作りは今もやっている。

 20センチぐらいの大きさだと、魔力もさほど食わない。

 趣味は必要だ。

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