第32話 平穏な1日

戸塚とつかのおじさん、スキルが芽生えたよ。香川かがわのお姉さんに調べて貰ったんだ」

「それは良かったな。それでどんなスキルが生えたんだ」


「フリートフッティドって言って、足が速くなるスキルなんだ。まだリハビリ途中だけど、早く全開でスキルを使えるように頑張る」

「そうか、リハビリ頑張って偉いぞ」


 香川かがわさんの部屋のインターホンを押した。


「はーい」||

戸塚とつかです」


 ドアが開いて香川かがわさんが顔を見せた。


「何か新しい発見でも」

「いいえ、少し聞きたい事が。Sランクダンジョンだと1日でスキルが芽生えるのは知っています。他のダンジョンでは1日ではスキルは生えませんよね。どのぐらい差があるものなのですか」

「そうですね。AランクはSランクの50分の1ぐらいの魔力濃度です。スキルで確かめました」


「ダンジョンの外はどうなんです?」

「ダンジョンの外だと魔力は急速に薄くなります」

「となると、家の家を取り壊して、マンションを建てて中に住んでも、そう簡単にスキルは生えないか」

「ええ、今の濃度だとダンジョン上の建物の2階部分では50日は住まないとスキルは覚醒しないと思われます。3階部分だと2500日程度でしょうか」


「ダンジョンの中の空気が売れたらとかも考えましたが、それも駄目ですよね」

「魔力は素粒子の一種だと思われます。物体を貫通するようです。普通の缶詰では駄目ですね。ですがその発想は良いと思います」


 なかなか上手くはいかないな。

 魔力の缶詰とかできたら大金持ちだろうけど。

 魔力を蓄えると言えば魔石だ。


「魔石からは魔力は漏れないのですか」

「ええ、私のスキルで見てみましたが漏れてません」


「魔石を魔力電池化できたらいいのに」

「魔石からエネルギーは取り出せても魔力は取り出せません。充電池みたいに使えたら確かに利便性は上がります。研究してみる価値はありそうなテーマですね」

「すいません。しょうもない話でお手間を取らせてしまって」

「いいえ、有意義でしたよ」


 ネットで調べたうち以外のSランクダンジョンは山と湖の底だ。

 人間が安易に立ち寄れる場所じゃない。

 山の方のSランクダンジョンは道は出来ているらしいが、近隣に建物や家はない。

 住める環境ではないようだ。


 香川かがわさんは良い所に目を付けたな。

 俺が同じ事をしたら、関係が悪くなりそうだ。

 今後とも良い関係を築くために、ダンジョン覚醒塾の事業は頭から除外するとしよう。


 さて、仕事しますか。

 いつも通り、魔力の余力を十分残して、リフォームの手伝いをする。


 配線やハイプはのべ面積にすると少ない。

 僅かな魔力で出来る。

 大物はユニットバスぐらいだ。

 これは入口を広げないといけなので手間が掛かる。


 こういう作業は討伐を終えてからだ。

 討伐は大抵1時間経たないうちに終わる。


 俺は無線で3チームから討伐完了の連絡を貰った。

 今日はヘルプの出番はないらしい。

 平穏な一日で良かったよ。

 フォークリフトで死骸を入口まで運ぶ。


 色々な仕事に慣れてきた気がする。

 さあ頑張ってリフォームしないと。

 汚水溜めを作るのも難敵なんだよな。

 面積が広いから、魔力をたくさん使う。


「先輩、フィールド型の階層を制覇したら、一軒家が欲しいですね」

「そうだな。そんなのもありか。どういう家が良い?」

「黄色の屋根で、白い壁、庭にはプールがあって、滑り台もほしいですね。犬も飼いたいです」


「それには頑張って稼がないと。家一軒建てるのは金が掛かるだろうな」

「はい」


 俺は空き時間を使って、せっせとダンジョンの余った壁や床を使ってキャラクター像を作った。

 ダンジョンの通路を広くしてとか、床や壁を削ってほしいという箇所はたくさんある。

 通路はフォークリフトがまず入らないといけないし。

 広場的な場所も欲しい。

 ちまちまとリフォームスキルで削っては、像を増産している。


「先輩、試しに作って貰ったブロックが好調です」


 ええー、本当だ、俺の像より売れている。

 ただの四角いブロックだぞ。


「俺、像作るのを辞めようかな」

「需要の問題ですよ。庭に頑丈なブロックが欲しいという人が多いだけです。像も売れているじゃありませんか」

「像は3つしか売れてないのに、ブロックは100個を超えているんだぞ」


「思うに、キャラクターが良くないのでは。アニメのパクりは違法ですよ。ダンジョンのモンスターをかたどってみてはどうですか」

「やってみるか。材料ならいくらでもある」


 オーガやオーク、カイザーウルフの像を作る。

 何回も見ているし映像資料もあるので簡単にでき上がった。

 さっそくネットオークションに出品したところ、落札された。

 誰が買うんだろうな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し               16,025万円

依頼金          300万円

上級ポーション2個             606万円

彫像10体                  10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            300万円 16,641万円 16,341万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -88億円


 ダンジョンのことがなければ、彫像だけでも食っていける。

 引退したら、それで生活していこうかな。

 ブロックの金は小遣いに回したのでこれには載っていない。

 ブロックを作るより有意義な魔力の使い方があるはずだ。

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