第27話 ドッペルゲンガー

『こちら、11号室。大変な事になった』

『了解、駆け付ける』


 11号室に駆け付けて入ると、どらにゃんの尻尾の面々が7人いる。


「えっと異常なし。あれっ、双子なんかいたっけな」

「モンスターが化けているんですよ。見破れなくて困ってます」


 リーダーの社家しゃけさんが窮状を訴えた。


「こんなの簡単ですよ。【マッピング】。あなたがモンスターです」


 藤沢ふじさわが指を差したその瞬間、モンスターは藤沢ふじさわに化けてタックル。

 ゴロンゴロンと転がった。


 まいったな。

 どっちがモンスターか分からなくなったぞ。

 藤沢ふじさわに聞いても互いを指差すに違いない。


藤沢ふじさわ、スキルは解除するなよ。【リフォーム】」


 床から槍が2本出て藤沢ふじさわをかすめる。


 一人は何もしなかった。

 もう一人は飛び退いた。


「【リフォーム】」


 俺は飛び退いた方をリフォームの槍で貫いた。


 貫かれた藤沢ふじさわは正体を現し醜いオークとなった。

 こいつをドッペルオークと呼ぶことにする。


「スキルまではコピーできなかったようだな」

「強敵でした」


 社家しゃけさんがしみじみと言う。


「先輩なら、本物の私を見分けてくれると思ってました」

「これで駄目だったら、藤沢ふじさわの恥ずかしい失敗談を話して反応を見るところだった」

「やめて下さい。絶対にダメですから」

「泣きそうな目で見るなよ。虐めているみたいじゃないか」

「先輩なんか知りません」


 ドッペルオークの死骸を運び出しながら、実はスキルを使わなくても本物が分かってたと言おうとしたがやめた。

 何気ない仕草まで詳細に覚えていたなんて言ったら、藤沢ふじさわが図に乗りそうだ。


 ドッペルオークは人の中で正体を隠しひっそりと生きているのかも知れない。

 恐ろしいモンスターだ。


「てなことがあったんですよ」


 討伐を終えた大船おおぶねさんに説明する。


「目に見えなかったり、化けていたりするモンスターはいる。だがスキルの目は誤魔化せない。どのダンジョンの出入り口でも判別できるスキル持ちは置いている。スタンピードが起こってモンスターが解き放たれた時の対策だが、街一つのあぶり出せるような強力なスキル持ちが派遣されるらしい」

「対策は考えているみたいですね」


「あとこれは公然の秘密だが、サーモグラフィでも大まかなモンスターと判別は可能だ」

「あれって伝染病の発見のためじゃなかったんですね」

「そういうふうにも使っているが、モンスターの発見にも一役買っている」


 体温で判別できるか。

 それなら容易いな。


 住居希望の冒険者が来た。

 番田ばんださんという男性。

 マッチョではげている。


 何となくいかついが、目が優しいので、良い人に見える。


「いいねぇ。俺は重度の花粉症で、一年中鼻水を垂らしているんだよ。仕事でダンジョンの中にいる時が救いだったが、ダンジョンに住めるのなら住みたいぜ」

「ではこちらに」


 ダンジョンの中の部屋に案内する。


「まあまあだな。窓がないのが嫌だな」

「モニターで映像を出すのならできます」

「おお、そうしてくれるか」

「他には何か? 要望をどんどん言ってくれると助かります」

「そうだな。ワンルームだと。ちょっと嫌だな」

「パーテーションは作れます。他には?」


「窓だがよ、映像だけでなく風がほしい」

「空気穴は開けられますよ。風も入ってくるでしょう」

「頼むぜ。それとペットは大丈夫か」

「ええ、問題ありません」

「5千万円だったな」

「はい」

「良い買い物をしたぜ」


 やった部屋が売れた。

 紹介してくれた香川かがわさんに感謝だ。


 追加で15部屋改装することにする。

 どんどん部屋が売れるのは良いことだ。


 アルミサッシをリフォームスキルで埋め込む。

 モニターを設置してパソコンとつなぐ。

 空気穴も開けておいた。

 風がもって吹いてた方が良いなら換気扇を付けるべきだろうな。


 パーティションはリフォームスキルで簡単にできた。

 ダンジョンでない床とかに久しぶりにスキルを使ったような気がする。

 本来はこっちがスキルの本来の用途だろう。


 番田ばんださんは猫5匹を連れて夕方には引っ越してきた。


「愛猫家ですね。世話が大変そうなので、俺にはできそうにないですが」

「家族だから、世話なんかつらくはない。逆につらいことがあっても慰めてくれる。猫ちゃんはいいぞ」

「どらにゃんの尻尾と話が合いそうです」

「あのパーティに入りたかったが、冒険者クラスが合わなかった。俺はCランクだからな」

「それなのにSランクダンジョンに住むのですか」

「隣の部屋に猫アレルギーの人がいて目の敵にされたんだよ」

「ちょっと待って下さい」


 猫の抜け毛だけ、ゴミ回収できるようにできないかな。


「【リフォーム】」


 やってみたところどうやら成功したようだ。


「抜け毛が自動回収されるようにしました。ノミとかも回収されるはずです」

「それは助かる。掃除が大変だったんだ。言っておくが苦じゃないぞ。ちょびっと大変だっただけだ」


 番田ばんださんに喜ばれた。

 ダニアレルギーなどにも応用が効く技だな。


――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               10,501万円

依頼金          300万円

分譲販売                5,000万円

紹介料          500万円

工事依頼金        900万円

木材など材料費    3,000万円

上級ポーション               301万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計          4,700万円 15,801万円 11,102万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -92億円


 部屋も着実に売れている。

 この分で行けば100億円ぐらいは楽に行きそうだ。

 そうしたら、100億円超えた分を人数割りするとかに、補填の規約を改訂しよう。

 そうすれば住んでも良いという人が増えるに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る