第22話 新戦術

 前の会社の後輩である辻堂つじどうから電話が掛かってきた。


『先輩、助けて下さいよ。もう会社はめちゃめちゃです』

『そのうち横領の金を振り込むから、金銭的には楽なはずだ』

『納入が遅れて得意先がカンカンで、さらに人が辞めたんです』


 俺はある考えが浮かんだ。

 それは前の会社を買い取ってしまおうというものだ。

 1日1千万円の収入があるなら、いずれはそういうことも容易い。

 全部屋が売れればもっということなしだ。

 売れた部屋は部屋代は入らないが、ひと部屋10万円の管理費は入っている。


『辛抱しろ。いずれ俺が乗り込んでやる』

『分かりました。先輩の言うことを信じます』


 俺は辻堂つじどうに隠しカメラを設置するように言った。

 この間の槍の太さの件の成功体験を踏襲するというのは、犯罪心理からきている。

 もしもと思うが、もしもの時のためだ。


 さてと、俺は色々な戦術を試したいと思ったが、たぶん藤沢ふじさわは反対するんだろうな。

 どう言おうか。

 正直に言ってみるさ。

 藤沢ふじさわに嘘はつけない。


「新しい戦術を色々と試したい」

「その様子ですと、言って聞かなさそうですね」

「分かってくれるか」

「入口のそばで戦闘して下さい。それならすぐに通路に逃げられます」

「分かったそうしよう」


 初戦はカイザーウルフだ。


「【リフォーム】……【リフォーム】」


 通路にいて、部屋の中に30個のまきびし型突起を設置する。

 そして部屋に入った。


「キャイン!」


 カイザーウルフは突起を踏んで足が止まった。

 チャンス。


「【リフォーム】。あれっ貫通しない。何で?」


 カイザーウルフに槍は刺さったが、突き抜けてはいない。

 細くなると貫通力が低くなるらしい。


「たぶんですけど、隆起する力は先輩の魔力を使っているからじゃないですか」

「だよな。止めだ【リフォーム】」


 やっぱり2.5センチの槍はカイザーウルフを貫通しなかった。

 だが、痙攣して舌を出してぐったりしたところを見ると死んだらしい。


『18号室、討伐が完了した。死骸の運び出しを頼む』


 別の部屋から無線で討伐の完了が告げられた。


『了解しました』


 フォークリフトで死骸を片付ける。

 貫通力が細くなると上がる仕様だったら良かったのに。

 なかなか上手くはいかないな。


 片付けながら考える。

 オーガだと2.5センチではきついかもな。


 次はオーガのいる部屋を選んで入った。


「【リフォーム】やっぱり駄目か」


 2.5センチの槍はオーガの体には刺さらなかった。

 オーガは俺の方をみるとニヤっと笑った。


「【リフォーム】今度はどうだ」


 5センチの槍は刺さったが軽傷だ。

 オーガの目つきが変わる。


「ウガァァァ」


 残像を残して、オーガが消えた。


「【リフォーム】、盾」


 一センチの厚さぐらいの盾だが、オーガのパンチを防いだらしい。

 残像から実像になったオーガが盾にパンチを叩きつけた格好で止まっていた。


 オーガの脳みそは高速思考してないらしい。

 パンチを出すと決めたら、障害物があってもパンチする。

 もっとも普通の盾なら木っ端みじんだ。


「【リフォーム】。今度こそやったか」


 10センチの槍は見事オーガを貫いた。

 うーん、さすがオーガだ。

 でも自分の動きに脳みそが追い付いてないのは馬鹿としか言いようがない。

 もっとも、体が大きくなると動きはゆっくりになる傾向が普通の生物だ。


 たぶん魔力を使ってパワーとスピードを出しているんだろう。


「先輩、気が済みましたか」

「ああ、十分だ」


 大体、10センチがAランクモンスターに対する適正な太さか。

 やってみないと何事も分からない。


 1センチの盾でも、盾は通用するな。

 あと何かまきびし以外に広範囲攻撃とかあると良いんだが。

 これは今後の課題にしておこう。


 死骸の片付けの仕事を1日してから、上の家のリビングでコーヒーを飲んだ。


「今日は順調でしたね」

「ああ、死骸を運ぶ以外の連絡はなかった。こういう日もあるさ」

「もうひと部屋売れたら、もう討伐はやめませんか。依頼を出して今みたいに、緊急の対応だけすれば、いいのではないでしょうか」

「そう行きたいのはやまやまだが。たぶんオーガが2体同時になったら、大船おおぶねさん以外はきついんじゃないかな」

「そうかも知れません」

「逃げるのは悪手だ。だけど、出来る仕事は他の人に振っていくつもりだ」


 この階層の攻略が終わったら、パーティを増やすことを考えた方がいいかも知れない。

 誰か良い人がいればな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し                4,617万円

カイザーウルフ(魔石のみ)          50万円

オーガ                    55万円

毛皮コート加工代      30万円

依頼金          300万円

上級ポーション               304万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            330万円  5,028万円  4,698万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -98億円


 藤沢にあげる予定の毛皮が手に入ったので加工に出した。

 出来上がったらプレゼントしよう。

 今日は5部屋解放できた。

 おれが討伐した方が懐に優しいのは分かるが、オーガ戦はちょっと苦戦した。

 危ない橋はできるだけ渡らない方が良いと思う。


 上級ポーションが一つ出た。

 これからは解放される部屋も増えるから、かなりの確率で出るだろう。

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