第21話 戦術オーガ
『24号室、緊急要請。身に着けていたポーション瓶を割られて残りわずかだ。補給頼む』
声は
『24号室、了解』
俺はポーションが入ったポーチを腰に巻くと、スクーターに跨りエンジンを掛けた。
「先導、頼む」
「了解です」
俺も遅れないようにスロットルを開ける。
スクーターは加速を始めた。
十字路だ。
どちらかに曲がるつもりだな。
俺も速度を落とす。
そして、次の分岐を左。
また、左。
ややこしいことこの上ない。
どうやら着いたようだ。
スクーターのスタンドも立てずに、飛び降りた。
入口から一瞥して、状況を把握する。
灼熱の剣の一人が戦闘不能になって転がっている。
腰に着けたポーチがぐっしょりと濡れている所から察するに、この人がポーション係なのだろう。
敵はオーガだ。
オーガは鼻をヒクヒクさせて俺のポーチを凝視した。
こいつ、回復役から狙う習性があるな。
ならば。
「【リフォーム】ダンジョン格子」
安全地帯をまず作った。
そこから手を伸ばして、倒れている回復役に中級ポーションを飲ませた。
「危なくなったら、安全地帯に逃げて下さい」
「仲間をやられて背中を見せられるか。全力で行くぞ。【フリートフッティド】【ホークアイ】」
「おうよ。【テッドリィ】【チャンスアップ】」
「いくぜ。【パワーイクスプロウシブ】【メガトンブロウ】」
物凄いスピードでオーガの背後に回り込んだ。
そして背中を斬りつける。
オーガは後ろを向こうと隙を見せた。
格闘家の人が掌をオーガの腹に沿えて気合を発した。
オーガの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
最後の一人があっけなくオーガの首を刎ねた。
「ふぅ、
「さっきポーションを飲んで痛みも消えたぜ」
「全力、出したから、しばらく休憩だな。ポーション代はつけといてくれ。帰りに払う」
それにしてもタフだな。
オーガに殴られたら、俺なんか1発であの世行きになるに違いない。
回復役を先に潰すという頭があるモンスターか。
侮れないな。
だがあり得る戦術だ。
一撃で殺せるなら、最大火力の奴を潰す。
自信がないなら、回復役を潰す。
こういう戦術もいろいろと考えないとだな。
今は部屋に1体しかモンスターがいないが、階層が進むと何体も相手にしないといけなくなるはずだ。
いまから考えておこう。
考えてみれば俺の戦術は槍と盾とダンジョン格子があるが、戦術の幅は狭いな。
剣を使う人は腕、足、胴体、首筋のどこを狙うかで戦術が違ってくる。
これに位置取りや、スキルの要素が加わる。
俺のはスキルありきだ。
別にスキルありきでも、良いんだが、もっと搦め手がほしいな。
「先輩、先輩」
「何だ?」
「やっと気づいてくれた。使ったポーションの補充はどうします。ダンジョン協会にお使いに行ってもいいですよ」
「ええと安全を考えると、
「先輩がそこまで背負いこむことはないんじゃないですか。彼等だってプロですから、普通のダンジョンでは助けは来ません」
「まあな。でも安全策を取りたい」
ポーションをもっと買い込んでおけばよかったか。
今日の仕事が終わったら中級を10本ぐらい買っておこう。
ちなみに上級ポーションの買取は300万円だが、売り値は500万円する。
ダンジョン協会がぼったくっていると思うだろうが、これには訳がある。
鑑定料と封印のためだ。
鑑定料は10万で済んで、鑑定書が付く。
そして封印だ。
劣化防止、時間停止、その他にも色々とスキルが掛かっているらしい。
ちなみに下級はそういうのは掛かってない。
上級ポーションが腐るのは許せないという執念を感じさせる。
ポーションの等級は、最下級、下級、中級、上級、エリクサーの5段階。
最下級はちょっと良い傷薬レベル。
包丁で深く切ったのが治る感じだ。
下級は何針が縫う怪我が治る。
中級は骨折が治る。
上級は切り落とされた手とかも繋がる。
エリクサーは欠損部位も治る。
そんなイメージだ。
色は最下級から、赤、橙、緑、青、紫。
協会から買う時は1万円、5万円、50万円、500万円、1億1千万円。
協会に売る時は5千円、3万円、30万円、300万円、1億円だ。
相場で多少変動するが、だいたいそんな感じだ。
エリクサーは夢がある値段になっている。
Aランクダンジョンの中層からボスを討伐すると出ると聞いているが命がけだ。
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俺の収支メモ
支出 収入 収支
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繰り越し 5,317万円
依頼金 300万円
中級ポーション10個 450万円
中級ポーション 50万円
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計 750万円 5,367万円 4,617万円
相続税 2,000万円
示談金 3,000万円
遺産(不動産) 0円
ダンジョン -98億円
このダンジョンにたくさんの冒険者が立ち寄るようになれば、ポーション売買で儲けられるのにな。
いまはギルドの売値で使ってもらっている。
今日のギルドは中級ポーションが安かった。
安い時に買いだめした方が良いな。
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