第15話 通路制覇

 通路のモンスターのリスポーン潰しもあとわずか。

 挟み撃ちの回数がグンと減った。

 リスポーン地点を全て潰したら、後は通路をうろうろしている残党を始末するだけだ。


 この通路は行き止まりで、ここで最後だ。

 やっと終わった。


 後ろから足音がしてくる。

 くっ、逃げ道がない。

 袋小路に入った俺達が間抜けだったのか。

 まあいい。

 通路のリスポーンは全て潰せたし、残党を片付けるのに向こうから来てくれれば手っ取り早い。


 遠くに見えたオークはオークピエロだった。

 こいつは苦手だ。

 オークピエロは指を咥えた。

 むっ、何の仕草だ。


「早く始末するんだ」


 珍しく焦った様子の大船おおぶねさん。


「【リフォーム】」


 床から出た槍はオークピエロを貫いた。

 だが、遅かったようだ。

 オークピエロが何をしたかったのか分からされた。

 ダンジョン内に響き渡る指笛。


 オークピエロは笑ったまま死んだ。

 足音が複数聞こえてくる。

 くそう仲間を呼びやがった。

 前にやった召喚とどっちがきついだろうか。


「【リフォーム】【リフォーム】【リフォーム】」


 ダンジョン格子を使い安全地帯を作る。

 オーク達が現れた。

 ダンジョン格子が破られた時が最後だ。


「2倍体で済めば良いがな。4倍体、いや8倍体ぐらいいくかも知れない」


 戦闘が始まった。

 俺は唐辛子スプレーで、大船おおぶねさんは剣を振るう。

 オーク達は仲間が倒されると死骸を食い始めた。


 2倍体が続々と増える。

 大船おおぶねさんがきつそうだ。


 ダンジョン格子には何度も拳や武器が叩きつけられる。

 その度にダンジョンが震えるような気がした。


 2倍体から4倍体は簡単に生まれないようだ。

 だが相変わらずオーク達は死骸を食っている。

 そのうちの1体の皮膚が裂けて、肉が増殖し始めた。

 ダンジョンの通路の天井に頭がつく巨大オーク。

 巨大オークはハイハイの姿勢をとった。

 ダンジョン格子に頭突きするオーク。


 やがてダンジョン格子はミシミシという音を立て始めた。

 そして、ダンジョン格子は折れた。


 これが8倍体か。

 ハイハイで押しつぶされるなんてな。


 大船おおぶねさんは膨らみ続ける8倍体に何度も斬りつけたが、皮膚ではじかれた。

 俺達はじりじりと後退。

 袋小路の最奥の壁に背中がついた。

 もう後戻りは出来ない。

 なぜか、藤沢ふじさわの顔が浮かんだ。


「諦めるな。足掻け」


 大船おおぶねさんの声。


「そうだよな。最後に一矢報いないと。【リフォーム】」


 床からの針は8倍体の頭を貫いた。


「グヒィィィ」


 8倍体の増殖が止まった。

 死んだのか。


「助かったな」

「ええ。どうやら俺は成長しているようです。前は4分の1魔力が回復するのに30分かかってましたが、今は15分ぐらいです」

「だろうな。そりゃあ、Bランクモンスターをほいほい倒してたらそうなるさ。このダンジョンで鍛えたら、半年ぐらいで、クールタイムが1分ぐらいにはなる」

「なんとなく希望が持てます」


「ところでこれからどうする?」

「一人でやるつもりです。部屋なら挟み撃ちを受けることはなさそうですし」

「美味しい仕事をありがとな。割引はできないが、お前さんからの依頼なら優先的に受けるよ」


 1時間ほど経つとゴミ回収機能が働いて、8倍体のオークの死骸は綺麗さっぱりなくなった。

 今回ほど死を感じたことはない。

 スタンピードで8倍体なんかが生まれたら大惨事だな。


 地上に帰りコーヒーを飲んで、生きて帰れたことに感謝する。


 ノートパソコンで配信のチェックをする。

 配信の再生回数の伸びは低調だ。

 だよな。

 遠距離から串刺ししている映像だけでは、見せ場も何もない。


 せめて大船おおぶねさんの活躍を撮れたらな。

 でもその提案は戦いは見世物じゃないと拒否された。

 大船おおぶねさんなりのこだわりがあるんだろう。

 それは尊重したい。


 これで補助金は全て使い切った。

 それどころか遺産の1千万もあまり残ってない。


 これからは部屋のリスポーンを潰して、宝箱の養殖場を作ろう。

 大船おおぶねさんには頼れないから、しばらくは自分でやらないと。


藤沢ふじさわ、今日はお祝いしよう。通路の制覇記念だ」


 パソコン部屋をノックして俺はそう言った。


「ゴチになります」


 藤沢ふじさわから嬉しそうな返答があった。

 出前がきたので、特上寿司をぱくつきながら、ビールを飲む。


「今回も危なかったですね。巨大な頭の壁が迫ってきた時はどうなることかとヒヤヒヤしました。生きて帰ってきているのですから、助かったとは分かっているのですが」

「俺も死んだと思ったよ。藤沢ふじさわの顔が浮かんだら、なぜか生きて帰らないといけない気がしてな」

「そうですか。なら許してあげます。お小言はなしにしましょう」


 俺はほろ酔い気分になったところでカメラの録画スイッチを入れた。


「みなさん、みなさんには大切な人がいますか。想像してみて下さい。その大切な人がダンジョン災害で亡くなる。架空の話ではありません。あり得る現実です。どうか皆さん、高ランクダンジョンに救いの手を」


 カメラのスイッチを切って、考えた。

 まだ何か足りない。

 こんなメッセージじゃ駄目だ。

 たぶん思いは届かない。

 そんな気がした。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し                  534万円

依頼金          150万円

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計            150万円    534万円    384万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 遂に通路を制覇した。

 これからは養殖部屋を作っていくだけだ。

 残金は少ないけど希望が持てる。

 ここから反撃が始まると言っても過言ではない。

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