第11話 トラップ
「停まれ!」
「何です?」
「トラップだ。そこの少し先、石の色が違うだろ。こんな分かり易いのは低階層だけだがな。ほらよ」
ふう、危うく串刺しにされるところだった。
「【リフォーム】。トラップは潰しました」
「念のためだ」
今度は何も起きなかった。
「階層が進んだら、トラップはどうしたらいいんですか?」
「勘だな。勘で避けろ。それか罠探知のスキルを持った奴に頼れ。ソロでやれるのは低階層だけだ」
トラップ対策は低階層を抜けたら考えよう。
結局はありそうだという勘が全てか。
トラップをリフォームスキルで潰せるのが分かったのが、収穫かな。
オークナイトが前方からやって来る。
有利な位置取りのために俺達が少し下がると、オークナイトとトラップの前で止まった。
こいつらトラップの位置を把握してやがる。
でもそこは既に潰した場所だ。
オークナイトが来ないので、遠距離から串刺しにする。
トラップゾーンを跡を上手く使えば安全地帯ができるな。
「ダンジョンは修理したりしないんですかね」
「しないな。聞いた事がない。トラップも壊せばそれっきりだ」
「ダンジョンのアップデートはないんですか?」
「ないな。地形が変わったりはしない」
「神は馬鹿なんですかね」
「いいや、俺は人類を愛していると思っている。文明が進み過ぎておかしなことになったから、修正したいのだろう」
「地震やゴミ問題やエネルギー問題を解決してますからね」
「ただ、神は人間個人の一人一人はどうでも良いらしい」
「文明を作り変えるように軌道修正してるわけですか」
「そうだな。そう思う」
神の思惑は分からない。
だが俺はそれに振り回されている。
文句をいうと環境破壊を止めなかったお前が悪いと言われそうだ。
事実、俺は子供の頃、環境破壊のニュースを見ても活動をしようとはしてなかった。
大人になってもしていない。
文句を言うことはできないってことだな。
このダンジョンにあるモンスターリスポーンを全て潰したら、神は何か言って来るのだろうか。
たぶんダンジョンがひとつ潰されても何も思わないのだろうな。
そんな気がした。
安全地帯を利用してオークを何体か倒して今日は上がりだ。
励ましの手紙は相変わらず届いている。
最近はこれに目を通すのが楽しみだ。
スタンピードの時にモンスターに足をやられ、歩けなくなった少年からの手紙がある。
手術する勇気がありませんと書いてあった。
手術に失敗したら足の切断も視野にいれないといけないそうだ。
失敗を恐れて手術をしない選択肢。
失敗を恐れずに挑戦するべきか。
俺にはどっちがいいのか分からない。
挑戦するべきだとは軽々しく言えない。
俺は手紙を書き始めた。
歩けない生活に慣れるのもチャレンジだし。
手術を選ぶのもチャレンジだ。
どっちもチャレンジだから、よく考えてよりやりたい方を選ぶべきだと書いた。
俺は養殖部屋を覗いた。
ポーションが出ていれば一緒に送ってやろうと思ったからだ。
運のいいことにポーションが出ていた。
手紙と一緒に少年の下へ送った。
別の手紙にはエリクサーが必要ですと悲痛な訴えがあった。
考えた。
これが上級ポーションだったとして少年と同じように送るべきだろうかと。
少年にポーションを送ったのは軽率だったか。
線引きを考えないといけない。
養殖部屋が完成すれば毎日のようにポーションは手に入る。
無償で譲るのは違うと考えた。
できるだけ市場に流して、価格を下げる方向がいいと思う。
経緯を話すと。
「慈善事業をやるならまず自分を救ってからよ。自己犠牲は美しいけど、破滅したら周りに悲しみを作ってしまう」
「そうだな。俺自身を救わないことには話は進まない。非情だと思う人もいるかも知れないけど、そういう人は文句を言わず、自分が誰かを救えば良い」
俺は少年に手紙を追加で書くことにした。
内容は『ポーションのことは他の人には内緒にして下さい、無理にとは言いませんが、返還するかあなたが成長したら、払ってくれると嬉しいです』だ。
ポーションの押し売りみたいになってしまったが、なんとなくこれでいいんだという気持ちになった。
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俺の収支メモ
支出 収入 収支
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繰り越し 1,234万円
依頼金 150万円
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計 150万円 1,234万円 1,084万円
相続税 2,000万円
示談金 3,000万円
遺産(不動産) 0円
ダンジョン -100億円
残り、1千万円ちょっと。
なんだか金が減っても動じなくなった。
変なテンションになっているとも言える。
だから少年にポーションを送ってしまったのかも知れない。
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