第10話 オークピエロ
再編集された動画の再生回数の伸びは止まった。
どうやら攻撃がワンパターンなのがいけないらしい。
といっても串刺しくらいしか思いつかないし、安全のためには串刺しが一番だ。
「これは駄目だ」
「何でです?」
「言わなきゃ分らんか。ダンジョンの戦いを神聖視するつもりはない。だが、討伐は人間の存亡をかけた戦いだ。茶化していいもんじゃねぇ」
「分かりました。元に戻します」
戦争の映像を茶化していいのかと言ったら、それは良くないと答えるだろう。
そういうことだな。
俺もちょっと調子に乗ってた感じがしてた。
今日も通路にあるモンスターのリスポーン潰し。
オークナイトを難なく串刺しにして倒す。
「じゃあ、フォークリフト持って来ます」
俺がそう言った時に、ダンジョンの地面が光った。
モンスターリスポーンだ。
「【リフォーム】」
モンスター出現の瞬間を狙って、串刺しにしようとした。
出てきたのは顔を白塗りにして鼻を赤く塗ったオーク。
そのオークはいきなりバク転した。
ちっ、さけられた。
俺の攻撃はあと2回。
「ブヒヒヒッ」
オークが笑っている。
「気をつけろ。こいつはオークピエロだ。トリッキーな動きで何人も犠牲になっている」
本にも載ってない種類の奴だ。
さすが、
「【リフォーム】」
オークピエロは刺してきた槍の刃を掴んで、倒立した。
くっ、馬鹿にしやがって、槍の先端をウニにする。
オークピエロは手を離し空中で手を叩いた。
大きな音がして、耳がキーンとなった。
くっ、やられた。
流石だ。
オークピエロの着地地点を予測して。
「【リフォーム】。何だと」
オークピエロは出てきた槍の途中を掴み、ポールダンスした。
しまったもう攻撃ができない。
勝利を確信したのかオークピエロが笑いながら、迫ってきた。
俺は、ある小説の技を思い出した。
それは、しゃがんで避けると同時に足を出して転ばすというものだ。
俺の足は見事オークピエロの足に直撃。
オークピエロはよろけた。
何時の間に動いたんだ。
オークピエロの首が転がり落ち、血の噴水が起こった。
今回は危なかった。
「お前さんの敗因はスキルの他の攻撃手段がないことだ。だが足払いはよかったぞ」
武器を持たないと駄目かな。
剣なんか使える気がしない。
持つとその重さに動きが鈍りそうだ。
「スタンガンはどうですか?」
「魔力で覆われるから電撃は届く。だが、片手持ちサイズだとモンスター気絶させるほどのパワーはない。精々、少し怯ませる程度だ」
俺はスタンガンを主武器にすることにした。
それと唐辛子スプレーだ。
毒の類は効くとのこと。
だがダンジョンで毒は禁じ手だ。
まず第一に冒険者が病気にかかる率が高くなる。
発展途上国では今でもそれをやって多数の死者を出している。
唐辛子は目に入らなきゃ俺達に害はない。
痴漢撃退みたいな装備だが、俺が使いこなせるとしたらこんな所だ。
今日の討伐は終りだ。
地上に帰って、
コーヒーを飲んで生きて帰れたことをかみしめていたら、
「危なかったですね」
「まあな」
「はっきり言います。討伐を辞めませんか」
「それじゃ自殺するのと変わりない」
「そうですけど、今だって自殺行為と一緒じゃないですか」
「戦わないといけない時がある。そういうのに目を背けていたから今の俺がある。もう見ないふりはやめたんだ」
「しょうがないですね。ファンレターが届いてますよ」
手紙がきていた。
スタンピード災害で亡くなった人の家族からだ。
『頑張って下さい、くじけないで』と書かれている。
家族を亡くして大変なのに俺を応援してくれるんだな。
そんな手紙が26通もある。
俺は正直、自分のことだけで精一杯だ。
他人を思いやるきもちなんか吹っ飛んでしまっている。
でもそれじゃ駄目だと手紙は言っている気がする。
何か凄く困難なことを成し遂げようとして、段々と周りにサポートしてくれる人達が増えることがある。
それは理念が立派だからだ。
それに人々が感動してサポートしてくれる。
スタンピードは起こさせない。
そう心に決めた。
カメラの録画スイッチを押した。
「スタンピードは災害なのだから防げない。どこかそう思ってませんか。間引きすれば防げるんです。人の手が足りてないだけです。戦えない人は冒険者を支援しませんか。頑張ってという声掛けだけでも良いんです。そして冒険者の皆さま、金のことだけじゃなくて、無理のない範囲で格上のダンジョンに挑戦してみませんか。スタンピードは絶対に起こさせない。そういう運動を始めてみませんか」
録画スイッチを切った。
こんな映像でも感動してくれる人が一人でもいたら儲けものだ。
やっている意味がある。
もし俺が死んだとしても、意思を継ぐ人が出て来てほしい。
そう強く思った。
――――――――――――――――――――――――
俺の収支メモ
支出 収入 収支
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
繰り越し 1,397万円
唐辛子スプレー100本 10万円
スタンガン 3万円
依頼金 150万円
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計 163万円 1,397万円 1,234万円
相続税 2,000万円
示談金 3,000万円
遺産(不動産) 0円
ダンジョン -100億円
補助金は全て使い切った。
これからは遺産に手をつける。
伯父さん、有難く頂戴します。
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