第9話 確認棒

 今日も朝から通路にあるモンスターのリスポーン潰し。

 ちなみにどこまでやったかは、ゴミ回収機能を1センチぐらい潰して、印つけている。


 不用意に角を曲がったら、ひそんでいたオークシールドにシールドバッシュを食らった。

 大船おおぶねさんが、すかさず斬り捨てた。


「大丈夫か?」


 大船おおぶねさんが手の差し伸べたので、手を取って立ち上がる。

 体のあちこちが痛い。


「打ち身だけで済んだようです。もしかしたら骨にひびが入っているかも」

「これ飲んどけ」


 差し出されたポーションを飲む。


「これって下級ポーションですか?」

「ああ、5万円ぐらいだが、よく効く」

「すっかり痛みがとれました」


「角を曲がるときは注意しろ。それと部屋の入口だな。死角にモンスターが潜んでいる時もある」

「どうやって対策したらいいですか?」

「慣れてくると勘で分かる。棒の先に鏡を取り付けたやつを使うのも有効だ」

「フォークリフトに乗ってた方が良いのかな」

「オークの身長だと操縦席を攻撃するのにちょうどいい高さだ。お勧めはできない。それに座っていたんじゃ、とっさに飛び退けられないだろ」

「身軽さをとるのなら、生身ですか」


 フォークリフトに乗って進むのはちょっと不味そうだ。

 棒の先に鏡は少し恰好が悪いが、四の五を言ってはいられない。


 100均の伸縮する指示棒に、これまた100均の小さな鏡を付ける。

 確認棒の完成だ。


 角に来るたびに棒で確認する。

 部屋の入口に近づく時もだ。

 なぜなら部屋から腕を伸ばして、引きずり込むことがあるからだ。

 そう考えるとダンジョンは気が抜けない。


 頭上にも注意しないといけない。

 スライムや蜘蛛系モンスターは天井に張り付いていることもあるからだ。


 今までなんて気楽にダンジョンを歩いていたんだろう。

 運が悪かったら死んでいたところだ。


「ダンジョンの恐ろしさが分かったみたいだな」

「はい」


 危険を肌で感じ取れるようにならないといけないようだ。

 しばらく進むとまた曲がり角があった。

 確認棒を差し込む。

 鏡の先にオークが映った。


「【リフォーム】。驚かせやがって」


 オークは串刺しになった。

 これは精神が持たないな。


「今日はここら辺でやめます」

「引き際も大事だ。それと帰り道もだな」

「分かってますよ」


 配信の再生数をチェックする。

 累計で10万ぐらいだ。

 登録者数は255人。

 ぜんぜん伸びていない。


 素人にしては健闘しているよ。

 だが、駄目だ。


 何で駄目なのか分かった。

 臨場感に欠けるからだ。


 モンスターの息遣いが聞こえて、攻撃の風切り音が聞こえるような、迫力ある映像が撮れないとだめなようだ。

 確認棒を前に恐る恐る進む映像なんか求められていない。


 俺は他人の映像をチェックした。

 なんか攻撃は派手なんだけど、モンスターが弱い気がする。

 というか小さい。

 ザコオークって小さいんだな。

 俺が毎日相手をしているオークのでかいことと言ったら。


 俺の映像はモンスターの迫力では負けてないどころか勝っている。

 俺の攻撃が地味なんだ。


 地面から串刺しだけだものな。

 かといってハンマーなんか作って殴るのは論外だ。

 外す危険性もあるし、致命傷にならない可能性もある。

 地面から剣を生やして、ダンシングソードとかやっても弱くなるだけだ。

 シンプルが一番強い。


「先輩、動画配信は何か考えないと」

「俺もそれをいま考えてた」

「CGでエフェクトを作って効果音を入れるのはどうでしょう?」

「いいかも。実際の討伐と違うが、派手になる分には見栄えがする」


「必殺技の技名を叫ぶのもあとから付け加えられますよね」

「ちょっと恥ずかしいがやってみるか」


 槍の串刺しは、スキュアークロウ《串刺し爪》とした。

 おっ、再編集された動画の再生回数が伸びている。


 動画をチェックしてみる。

 串刺しの前になるとスローモーションになる。

 そして、チャラリーとジングルが鳴って、必殺スキュアークロウの俺の声が入り、ズブリという音と共に槍が刺さる。

 串刺しにされるとモンスターの体内から光が飛び散るが、いったいどういうスキルなんだと思わないでもない。


 オークを運ぶフォークリフトにもエフェクトと効果音を付いているのには笑った。

 コメントを見ると『わらた』とか『笑』とか『w』が付いている。

 チャンネルの名前も必殺串刺し人となっていた。

 色物路線で定着しそうだ。


 飽きられるまでに次のアイデアを捻り出したい。


 人気のある動画を見る。

 女冒険者の動画が大人気なのは、仕方ない事だ。

 それとチャンバラみたいに派手な剣劇も人気だ。

 とうぶんは色物でいこう。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し                1,547万円

依頼金          150万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            150万円  1,547万円  1,397万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 こう思うことにした減っていく分は投資してるのだと。

 マイナスじゃないんだ。

 いわば在庫。

 あとで絶対に金を生む。

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