第8話 挟み撃ち

 今日も通路にあるモンスターのリスポーン潰し。

 オークジェネラルが前からやって来る。

 その時、後ろから足音がして、オークメイジが来た。


「くっ、挟み撃ちだ」

「慌てるな。ひとつずつだ。どちらかは俺が受け持っても良い」

「はい。【リフォーム】」


 まずはオークメイジをやる。

 慌ててたのか外してしまった。

 不味い。

 オークメイジから火球が飛んできた。


「【リフォーム】」


 床を変形して盾を作る。

 火球は盾に当たり爆炎を上げた。

 ダンジョンの床製の盾はびくともしなかった。


「今度こそ、【リフォーム】」


 オークメイジは串刺しになった。

 振り返ると大船おおぶねさんは既にオークジェネラルを倒していた。


「後ろから見てたが、焦って初撃を外したな」

「ええ」

「焦りは禁物だ。工夫しろ。例えばだ普通の槍ではなく、トライデントみたいに、みつまたなら範囲が広い。細くなると威力は減るが、貫通力は増えるはずだ」

「剣山みたいに針がたくさんあるイメージでもいいですね」

「そうだな。工夫しろ」

「槍が伸びて、先端がウニみたいになって、爆発するように伸びるイメージもいいかも知れません」

「とにかく、絶対に外せない時は工夫しろ」


 うん、勉強になった。

 脳天まで貫く槍はたしかに強力だが、それ一辺倒ではいけないのかもな。

 ウニは使える場面はないようだが、みつまたはありかも知れない。


 それとモンスターのリスポーン潰しで、閃いた。

 1メートルの四角ではなくて、格子状にすればいいんだ。

 30センチの格子にすれば、フルパワーで通路10メートルのリスポーン地点は切り刻める。


 1日のリスポーン潰しの進展が早くなった。


 フォークリフトを使ってオークの死骸を運ぶ。

 その後、ここまでの通路のリスポーンを潰したら良い時間になった。


「お疲れ様でした」

「ああ、お疲れ。飲みにでも行くか」


「じゃあ、部下の藤沢ふじさわも誘います」


 家に入り、パソコン部屋のドアをノックした。


「どうぞ」

「今日はもう上がろう。飲みにいくつもりだが、来るか?」

「はい」


 作業着から着替えて、大船おおぶねさんを待つ。

 大船おおぶねさんはジャージ姿で現れた。


大船おおぶねさん、部下の藤沢ふじさわです。動画編集をやってもらってます」

藤沢ふじさわと申します」

大船おおぶねだ。よろしくな」


「じゃあ行きますか」


 近くの居酒屋に入る。

 鳥のから揚げと、鍋と、刺身を注文した。


「じゃあ、乾杯」

「お疲れ様でした」

「おう、乾杯」


「なんかこう、儲かるネタってないですかね」

「Cランクダンジョンならウハウハだったな」

「へぇ、Cランクが人気ですか」

「先輩は何も知らないんですね。冒険者の層が厚いのがCランクです」

「だな」


「命の危険もCランクならグッと減るんだろうな」

「まあな。俺にはちょっと温いが」

大船おおぶねさんのランクを聞いていいですか」

「Sランクだよ。スキルを三つも持っていれば誰にでもなれる」


「凄い」

「お嬢ちゃん、冒険者になりたいのか」

「はいそうです」


「冒険者は生半可な覚悟では出来ないぞ。命が掛かっているからな」

「分かってます」

「俺は反対だ」

「先輩がそういうのなら」


「迷いがあるならやめておけ。迷いがある奴は死ぬ」


 藤沢ふじさわは迷っているような感じではないな。

 もう決めているみたいだ。


「俺は辞めれるのなら辞めたい。でもスタンピードの可能性があるうちは辞められない。俺のやり方ひとつで大勢の人間が死ぬんだ」

「先輩が背負わなくてもいいんじゃないですか」

「いいや、遺産が転がり込んでいい気になってた罰だ。さっさと寄付でもしてたら、今回みたいなことにはならなかった」


 そうなんだよな。

 欲張ってしまったんだよな。


「そうだな。ダンジョンでは欲をかくな。欲をかくと死ぬぞ」

「肝に銘じます」


 酒は進み、お開きになった。


藤沢ふじさわ、送って行こうか?」

「上がってコーヒーを飲んでくれますか」

「いいや、それはやめておこう」


 そう思ったのはいい気になっている場合じゃないと思ったからだ。

 誘われているのは分かる。

 でもそれを受け入れてどうする。

 早くても1ヶ月後、遅くても1年後には破滅しているかも知れない。

 死の宣告を突き付けられているのと一緒だ。

 とても色恋に現を抜かすわけにはいかない。


「いけずですね」

「明日も仕事だ。早く休め。運ちゃん頼む」


 タクシーのドアが閉まった。

 こんな平和な飲み会を後何回できるだろう。

 ネガティブは駄目だ。

 何回でもするんだ。

 そう心に誓った。

 破滅するまでは精一杯足掻く。

 それが俺の責務だ。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                1,697万円

依頼金          150万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            150万円  1,697万円  1,547万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 減っていく金をみると、自営業のつらさが良く分る。

 せめて銀行で金を借りれたらな。

 だが、相続税と示談金とダンジョンのスタンピードの金が大きすぎる。

 こんな不良債権だらけの事業は成り立たない。

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