第7話 戦い終えて

 今日の討伐の仕事が終わった。


「動画編集ソフトの機能は分かったか? これが今日の動画データだ」


 そう言ってカメラからメモリカードを抜き取り、藤沢ふじさわに渡した。


「では作業しますね」


 藤沢ふじさわがパソコンの置いてある部屋に消えた。

 俺はコーヒーを淹れて一服。

 今日も俺は戦ったぞ。

 会社の仕事にはない満足感がある。

 会社の仕事がつまらなかったのではない。

 戦わなかったからだ。

 流されていた。

 だから満足感が少なかったんだ。


 攻めだ。

 攻めの姿勢が大事。

 そうだ。

 初のダンジョン内ライブ配信してみようか。

 リヤカー置き場に携帯のアンテナを設置すれば。


 よし、区役所だ。


「あの、提案があります」

「何ですか」

「ダンジョン内に携帯のアンテナを設置して、通信を使えるようにしたいんです。携帯の会社と連絡を取って貰えませんか」

「設置するのは構いませんが。ゴミ回収機能はどうします」

「それは俺のスキルで無効にできます」

「素晴らしいですね。そうなると救難信号を出したり、スタンピードの警報が早く出せるようになります。分かりました、大急ぎでやりましょう」


 良かった。

 これでまた一歩進んだ気がする。


 区役所から帰ると、動画の編集は終わって、アップされていた。


「お疲れ様。慣れない仕事で大変だっただろう」

「ソフトを操作するぐらいわけないです」

「給料決めてなかったな。月100万円でどうかな。先払いしたい。振り込むから口座を教えてくれ」

「額は十分すぎます。それに前払いってなんですか」


 それはな1ヶ月でたぶん破滅するからだよ。

 その時になったら給料が出せるか分からない。

 だから前払いだ。


「支度金だと思ってくれたらいい」


 とりあえず誤魔化した。

 藤沢ふじさわは納得してないようだったが、たぶん後々色々と迷惑を掛ける。

 せめてこれぐらいはな。


 Sランクダンジョンの窮状を訴える動画を撮る。

 カメラを設置して録画を始めた。


「Sランクダンジョンのオーナーになってしまった。戸塚とつかです。今日は皆さんに高ランクダンジョンがいかに窮状にあえいでいるか。話したいと思います。まずSランクダンジョンには誰も来てくれません。Cランクダンジョンだと出入りするたびに1万円の入場料を取るそうですが、Sランクダンジョンでは入場料なしでも誰も来てくれません。なぜか? 命と収入が釣り合わないからです。こういう高ランクダンジョンには自衛隊を派遣して間引きを行うのが望ましい」


 一息おいて。


「このままではSランクダンジョンのスタンピードによって日本が滅びます。どうか安全に暮らしたいと思ったら政府に訴えてください」


 カメラの録画スイッチを切った。

 藤沢ふじさわに渡してアップしてもらおう。


 次は図書館に行ってオークの生態を覚えないと。


「オークの本ってありますか」

「はい、検索をかけてみます」


 司書さんがコンピュータで本を探してくれた。

 オークの本を読む。


 オークに多いのは名前に何も付かないザコのオーク。

 Cランクモンスターだ。

 身長は2メートルを超える。

 木で出来た棍棒を持っていることがある。


 そしてオークリーダー。

 Cランク上位。

 ザコのオークを2、3引き連れていることがある。

 単体ではCランクだが、ザコを引き連れているとBランクだ。


 オークメイジ、魔法を使うので侮れない。

 オークシールド、オークナイト、その武装は驚異的だ。

 オークジェネラル、このクラスになると皮膚が硬くて鉄の鎧より頑丈だ。

 いずれもBランクだ。


 オークキング、Aランクになる。

 ダンジョンでのモンスターについて書かれている。

 ダンジョン内ではモンスターは飲食しない。

 ダンジョンからの魔力の供給で生命維持しているらしい。

 それとダンジョンのモンスターはおそらく異界から拉致して洗脳して使っているとのこと。


 スタンピードで外に出たオークは何でも食うが、果物など甘い物を好むとある。

 人間の女性を性的にいたぶることもある。

 ゴブリンとオークは女性の敵というようなことが書かれていた。


 オークとゴブリンの雌は少ないらしい。

 なのであぶれた雄がそのような行為に至るのではないかと推測されている。


 現在、軍ではオークにダメージを与えられる銃弾の開発をしていると書かれていた。

 魔力なしでも威力が凄ければダメージになるらしい。

 重機でも押さえつけたりは出来るからな。


 圧倒的な物理なら可能だろう。

 ちなみにオークジェネラルはクラスター爆弾を浴びても生きていたらしい。

 ザコオークは死んだらしいが。


 魔力は凄いな。

 魔石を使った発電が凄いのも頷ける。

 魔石爆弾とか作ったら凄そうだ。

 きっとモンスターにも効くんだろうな。

 俺が思いつくのだから、研究しているに違いない。


「魔石を使った武器の本を調べて下さい」

「はい」


 魔石を使った武器の本を借りた。

 やはり魔石爆弾は検討されているようだ。


 弾丸に魔石を使うという魔石弾を開発しているようだが加工が難しいらしい。

 なぜなら魔力を帯びれば帯びるほど、頑丈になるからだ。

 魔石発電で魔力が抜けた魔石は加工できるらしい。

 魔力を抜いた魔石を加工した後に、魔力を再充填する方法を模索中みたいだ。

 それとダイヤで加工できる程度まで魔力を抜いてから加工する方法をとっている。

 これは実用化されているが、加工できるまで魔力を抜くと、威力がお話にならないようだ。


 いろいろと考えているんだな。

 何か俺も特許でもとりたいものだ。

 常に攻めの姿勢だ。

 とりたいものだじゃなくて、絶対にとるんだ。

 暇な時は常にアイデアを考えよう。


「スタンピード災害の本はありますか?」


 司書さんに探してもらった。

 本を読むと、スタンピード災害が毎年のように起こっている。

 だが学者は、大地震より被害規模は少ないと主張しているらしい。

 ダンジョンができてから地震や噴火は起こってない。

 これはダンジョンが地下の色々なエネルギーを吸い取っているようだ。


 Sランクダンジョンのスタンピードの記録で一番被害者が多かったのは10万人。

 これでも大地震と比べればやすいものらしい。

 こんな考えだから駄目なんだ。


 Sランクダンジョンが一度スタンピードを起こすと100年は大丈夫と書いてある。

 理由は分からないが、出来立てのダンジョンはスタンピードを起こしやすいらしい。

 一説によると100%の状態から始まるから、危険水域の110%までモンスターが溜まるのが早いとある。

 まあそうなんだろうな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し                1,797万円

給料(藤沢)       100万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            100万円  1,797万円  1,697万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 藤沢への給料は仕方ない。

 俺が破滅した後に事務処理してもらうつもりだ。

 こんなところでケチれない。

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