第5話 弱腰を断ち切る

 大船おおぶねさんに依頼を出して、今日一日護衛してもらう。

 内容はうちのダンジョンの1階層通路の護衛だ。

 通路にあるモンスターのリスポーンを全て潰すつもりだ。


「通路は部屋よりモンスターの質が落ちる。部屋がオーガクラスだとAランクだから、通路のモンスターはBランクだろう」


 大船おおぶねさんからそうレクチャーされた。

 まだ、通路でモンスターに出会ったことはないが、どんなモンスターだろう。


 足音が聞こえてきた。

 オーガクラスの巨体のようだ。

 のっそり現れたのは3メートルはあるオーク。


「オークジェネラルだ。【シャープエッジ】」


 大船おおぶねさんが斬りかかる。

 オークジェネラルは足を斬られ、立っていられなくなったところで、首を落とされた。


「お見事です。【リフォーム】。ここにモンスターのリスポーンはないようです。どうやら虱潰しらみつぶしにやって行かないといけないみたいですね」

「今までなんの仕事をやってたんだ」

「SEとプログラマーですけど」

「へえ、それがなんでまた」


 大船おおぶねさんが魔石を採る間、俺は今までの経緯を話した。


「大変だったな。だが不運はお前さんが引き寄せたとも言える」

「俺が悪いんですか」

「いいや悪くないが、やり方が不味かった。戦うべきだったんだよ。戦いから逃げたから今のお前さんがある」


 裁判するべきだったのか。

 いいやもっと前だ。

 会社で無理なスケジュールの時に受け入れてきた。

 頭ごなしに拒否するのは論外だが、何かしら戦うべきだったんだ。

 俺の弱腰が、尻手しってに犯罪を起こさせた。


「はははっ、そうですよね。戦わないと」

「男には退いちゃいけない時がある」

「もう、戦いからは逃げません。よし、俺のスキルを直接攻撃に使ってみよう」

「なんかやる気になったな。サポートしてやる好きにやれ」

「はい」


 次に出会ったのは杖を持ったオークメイジ。


「手早くやらないと魔法を使ってくるぞ」

「はい、分かりました。【リフォーム】」


 オークメイジの立っていた床が、尖った槍になり、オークメイジを串刺しにする。

 オークメイジは脳天まで貫かれた。


「凄いな。ルーキーとしちゃ有望だ」

「でも魔力を4分の1使いましたから、今の規模だと、2時間で4発しか撃てません」

「魔力の回復なんざ、モンスターを狩っていれば、早くなる。思ったんだが、ダンジョンの構造物は不壊って言われるほど頑丈だよな」

「知ってます。モンスターもそうですが、魔力で強化しているんでしょう」

「お前のスキル。ダンジョンの床を使っているよな。槍の魔力はダンジョンが供給してる。だからあんなに強いんだ」


 俺って強いのか。

 リフォームはクズスキルとはがり思ってた。

 今の強さはダンジョンの魔力ありきだけど。


 今日はここまでのようだ。

 戦果はオーク2体。


「おい、バーベキューしようぜ」


 ダンジョンから出ると大船おおぶねさんからそう言われた。

 オーク肉は美味いと聞いている。


「ごちになります」


 報道陣も庭に招き入れてバーベキューする。

 オーク肉はとろける美味さだった。


「マスコミのみなさん。俺は言いたいことがある。たしかにダンジョンは何万とあり管理が行き届かないでしょう。だからといって、たった補助金1千万円で放っておくのはどうですか。ここは高級住宅地です。スタンピードが起これば多数の死人が出ます。政府はあまりに無責任ではないでしょうか」

「えー、どうしてほしいと」


 マイクを向けられた。


「金銭や人的な支援が無理なら、技術的なサポートをしてほしい。あたらしい取り組みも支援してほしい」

「新しい取り組みですか。具体的には?」

「まだ分かりませんが、何かできるような気がするんです」

「それが分かったら、我々を呼んで下さい」


 マスコミから名刺を貰った。

 とにかく今は戦う時だ。

 下手を打って劣勢になったが、徐々に挽回できているような気がする。


 でも、何かが足らない。

 この苦境を脱するための決定的なアイデアが。

 誰か相談する人がいたらな。


 俺は区役所に行くことにした。


「ダンジョンで稼ぐ方法ってありますか?」

「ゴミ処理の認可をとることができますが、Dランク以下でないとまず許可は出ません。スタンピードの問題がありますから」

「それ以外だと何かありますか?」

「ダンジョンの戦闘の様子を録画して配信している方もいます。ダンジョンの情報があると攻略のスピードが上がるので、推奨される行為になってます」

「儲かりますか」

「人気がある冒険者さんを呼べればそれなりには」


 この手は駄目だな。

 でも俺が細々と配信するのは良いかもな。

 多少の金になるなら何でもすべきだ。


戸塚とつかさん、焼け石に水ですが、フェンスの設置をお願いできませんか」

「スタンピード対策のね。オーガなんかが出て来たら普通のコンクリートのフェンスなんかじゃもたないだろう」

「ええ、30センチの厚みの鉄板でないと」

「無理だ。そんな金はない。それに5メートルぐらいのフェンスだと飛び越えそうだ」

「そうですね」


「もっと、役に立つ情報はないのか?」

「申し訳ありません」


 店でヘルメットにつけられるカメラを買って、これで配信の準備は整った。

 とにかく攻めの姿勢だ。

 ついでにSランクダンジョンの窮状も訴えるか。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                2,166万円

依頼金          100万円

カメラ            1万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            101万円  2,166万円  2,065万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 フリーのもあるが、動画編集ソフトは既にいくつか持っていた。

 節約できるところはやっていかないと。

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