第3話 スキル判明

「鑑定を受けていきませんか。無理にとは言いませんが」

「金を取るのか?」

「無料です。スキルホルダーの発掘は急務ですから」

「じゃあやってくれ」


 杖みたいな物を向けられた。


「おめでとうございます。スキルがありますよ。リフォームです。でもこれはちょっと」

「さっきのことで不幸には耐性ができた。すっぱり言ってくれ」

「ユニークスキルで魔力を糧に発動されます。室内なら、床や壁や天井、それに調度品も変形出来ます」

「良いスキルじゃないか」

「フルパワーで放つと大体1メートル四方ぐらいの範囲を変化させられます。ただし戸塚とつかさんの場合、魔力の関係でフルパワーは2時間おきにしか発動できません」


 くそっ、役に立たないな。

 リフォームの仕事ができるレベルじゃない。


 ついてない。

 全てが裏目だ。

 神様は俺に対してなんか含む所があるのかな。

 文句があるなら不幸を押し付けるのではなくて直接言ってほしい。


「おお、戸塚とつか君じゃないか」


 尻手しっての野郎だ。

 嫌な奴に出会った。


「お前、俺の前によくも顔を出せたな」

「それは逆だろう。横領したのは君だ。ところでここには何の用で?」

「お前には関係ない」

「私はね。スキルが目覚めてしまったのだよ。貫通スキルだ。どんな硬いモンスターも一撃なんだよ。これからは副業で冒険者をやるつもりだ」

「俺だってスキルぐらい持っている」

「ほう何かな」

「リフォームだ」

「わはは、大工でもやるのか。お似合いだよ。精々頑張りたまえ」


 くそっ、塩でも撒きたいところだ。


 帰りに冒険者協会に寄る。


「何かお探しでしょうか」


 受付から声を掛けられた。


「Sランクダンジョンができて困っている」

「それはなんと言いますか。ですが、Sランクダンジョンから採れる魔石や宝物は高値です。1億を超えるものもあります」

「冒険者がこぞって押し掛けてくれるのなら文句はない」

「それは無理ですね。依頼という形をとらないと討伐には来てくれないでしょう。Sランクダンジョンだと危険と実入りが釣り合わないですから。依頼を出すことをお勧めします」

「依頼を出した場合、とれた物はどうなるんだ」

「冒険者の物になりますね」


 それだとどんどん赤字になるじゃないか。

 くそっ、世の中くそだ。

 Sランクダンジョンがスタンピードを起こしたら大勢の人が死ぬんだぞ。

 なんでどこも非協力的なんだ。

 国の責任はないのか。

 そう喚きたいが、もういい加減疲れた。


「オーガ退治だと相場はいくらだ」

「大体100万円ぐらいですね」

「分かった依頼を出すよ」


 書類を書き、協会を後にした。

 家に帰る。

 手紙が来ている。

 ちっ、前の会社からだ。

 そんなのは置いといて、スキルの検証をするぞ。


「【リフォーム】」


 部屋でフローリングの床にスキルを使うと、新品になった。

 1メートルだけだが。


 副業ならありかな。

 2時間経ったので、ベッドのヘッドボードにスキルを掛ける。

 熊の装飾にしたつもりだったのだが、どうみても不細工な豚だ。

 くそっ、上手くいかないな。


 仕方ないので手紙を見ると、横領3千万円の催促だった。

 不動産屋に電話を掛ける。


『もしもし、洋光台不動産ですか。家を売りたいのですが。場所は△△町△丁目△△番地です』

『あー、そこは駄目ですね。ダンジョンが出来たので地価は最低ですよ』

『そのダンジョンが出来た家なんですが』

『そんなのあんた1兆円もらっても買い手が付きません。Sランクダンジョンですよね』


 俺は電話を切った。

 区役所から情報が出たのだろう。

 そりゃ命が掛かっているんだから発表もするだろう。

 テレビをつけるとうちの庭のダンジョンのことをやっていた。

 窓から外をみると報道陣がいる。

 犯罪者扱いも良い所だ。


 インターホンが鳴った。


「どちら様? マスコミならノーコメント」

「Sランク冒険者の大船おおぶねだよ。依頼を出しただろう」

「どうぞお入り下さい」


 状況を説明して一緒に庭のダンジョンに入ろうとすると、一斉にフラッシュが焚かれた。

 くそっ、撮んなよ。

 言っても仕方がないが。


 ダンジョンの部屋は扉がなく、中が丸見えだ。

 中にはオーガがたたずんでいる。

 オーガは筋骨隆々ではげた頭と角。

 むき出しの4本の牙。

 前はじっくりと見てなかったが、実に凶悪そうだ。


「じゃあとっとと駆除するぜ」

「お願いします」


「【ストレングスアップ】【シャープエッジ】」


 スキルをふたつ使ってから、剣を抜いて大船おおぶねが突っ込む。


「ガアアァァァ」


 オーガが大船おおぶねに気づいて雄叫びを上げて、パンチを繰り出す。

 大船おおぶねにパンチは当たったように思えた。


「【スラッシュ】。ほらよ、いっちょ上がり」


 大船おおぶねが剣を振り抜いていた。

 当たったかと思われたのは残像だったようだ、

 オーガの胴体は深々と斬られて、ズシンと音を立てて倒れた。


「終わったぞ」

「ああ、ありがとうございます」

「ここなら入口に近いからオーガの死骸は丸々持って帰れるな」


 そう言うと大船おおぶねはオーガを担いだ。

 使えるスキルをみっつも持っていて羨ましいという気持ちがこみ上げてくる。


「スキルってどうしたら芽生えます」

「よく聞かれるが、モンスターを退治すればするほどだろうな。お勧めはしないが」


 美味しい話はないようだ。

 オーガはスキルがみっつあって何とかなるレベルか。

 それもこのダンジョンのザコ敵だ。

 こんなの無理ゲーとしか言いようがない。

 でも討伐の依頼を出し続けないと、スタンピードが起きてしまう。

 それが起こったらもうどうにもならないだろう。

 たぶん俺は犯罪者扱いされてしまうのに違いない。

 とにかく金が尽きるまでは依頼を出し続けよう。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

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繰り越し                2,316万円

依頼金          100万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            100万円  2,316万円  2,216万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 金が出て行く一方だ。

 どうにかなるのかこれ。

 なんとかするしかないか。

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