第2話 庭にダンジョンができる

 俺は伯父さんの家の仏壇に手を合わせた。


「伯父さんありがとうございます。この恩は一生忘れません。この家を売ることになったら、仏壇とお墓の管理はちゃんとやります」

 今日から伯父さんの家で寝ることにした。

 幽霊が出てきても伯父さんなら怖くない。

 お礼を言いたいぐらいだ。

 伯父さんなら家を売ることを反対はしないだろう。

 生前も死んだら家を売れと言っていた。


 リフォーム、リフォームと言いながら寝る。

 もう頭はリフォームして家を売ることしかなかった。


 そして夜が明けた。

 伯父さん出て来なかったな。

 満足しているってことだろう。


 起きて朝いちばんでカーテンを開ける。

 うぉ、庭に変な物ができている。

 入口と階段だ。


 勝手に誰かが一晩のうちに作ったのか?

 急いで庭に出て階段を下りる。


 ええと階段はコンクリートではない。

 自然石に見える。

 石といっても、階段にするぐらいだからかなり大きい。

 こんなのを俺に知られないで運び込めるかな。


 階段が終わった。

 通路がある。

 通路の先には部屋があるようだ。


 俺は、部屋を覗いた。

 うひっ、オーガだ。

 身長3メートルはあるな。

 こんなのに殴られたら、1発であの世行きだ。

 どうやら、ここはダンジョンらしい。


 20年前からダンジョンはある。

 『人類にはほとほと愛想が尽きた。環境破壊、戦争、もううんざりじゃ。試練と祝福を与える』と全人類の頭に母国語でそう聞こえた。

 試練はダンジョンとモンスター。

 祝福はスキルとダンジョンでの宝物。


 最初、どの国も分厚いコンクリートで入口を塞いだ。

 そうしたら、スタンピードが起こった。

 モンスターが氾濫を起こしたのだ。


 入口を塞ぐのは悪手だと気づいた。

 スキルが覚醒した人がいると気づいた人類は、スキルホルダーを集めて、ダンジョンを攻略に取り掛かった。

 だが、ダンジョンはひとつも攻略されていない。


 ダンジョンの利点に人は着目した。

 まずはゴミ問題。

 ダンジョンにゴミを入れると一時間ぐらいで消えてしまう。

 ゴミ問題が片付いたのだ。


 そして、モンスターから採れる魔石。

 魔石からはクリーンなエネルギーで発電などができた。

 温暖化に歯止めがかかったのだ。


 そして、ダンジョンで見つかるポーション類。

 階級にもよるが全ての病気が治ると言って過言ではない。


 ダンジョンの欠点と言えば、何にもしないとスタンピードを起こすことだ。

 凶悪なモンスターが地上に解き放たれる。

 間引きをすればこれはある程度防げる。


 そして、ゴミをダンジョンに食わせると、スタンピードが早まる。

 これを聞いた時はなんと悪辣なと思ったものだ。


 人類はダンジョンと上手くつき合う方向に舵を切った。

 うーん、俺って運が向いてきたのかな。

 ダンジョンは金の生る木だ。

 魔石は高値で売れるし、ポーションも高値で売れる。


 となると届け出だな。

 俺は手早く朝食と身支度を済ませ、区役所が開くのを待った。

 扉が開けられたのを見て駆けこむ。

 案内を見るとダンジョン課がある。

 そこだ。


 急いで向かう。


「どうされました?」

「うちの庭にダンジョンができたんです」

「おめでとうございます」

「ありがとう」


 やっぱりダンジョンは金になるみたいだ。


「ダンジョンのクラスは分かっていますか?」

「ええと、ダンジョンの強さだよね。最初のザコ敵がオーガだった」

「それは、なんと言おうか。お気の毒さまです。気を落とさずに聞いて下さい」


 雲行きが怪しくなった。


「覚悟した。言ってくれ」

「ダンジョンの所有者にはダンジョンを管理する義務が発生します」

「なるほど」

「問題なのはスタンピードを起こした時の損害を、補填しないといけないということです」

「何だって! じゃあダンジョンを売る」

「それがですね。最初のザコ敵がオーガだとするとSランクダンジョンです。スタンピードの損害は最小でも100億円を超えると思います。買い手はつかないですね」

「財産を放棄する」

「それが、出来ないのですよ。法律でそうなってます。ダンジョンの所有権は放棄できません」

「なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだ」


「良い事もあります。ダンジョン整備のための補助金が1千万円でます」


 そんなの100億に比べたら雀の涙だ。

 でも貰っておかないと。


 書類を何十枚と書き手続きは終わった。


「あの」


 帰ろうとしたら呼び止められた。

 まだなんかあるのか。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                1,346万円

補助金                 1,000万円

生活費           30万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計             30万円  2,346万円  2,316万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)   10,000万円

ダンジョン       -100億円


 補助金は嬉しいがダンジョンのマイナス100億円がどうにもならない。

 それと相続税と示談金だ。

 頭が痛い。


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