1話③
***
気がつけば、見知らぬ豪邸っぽい部屋にいた。
黒と赤と白をベースにしたおしゃれな部屋だ。多分男の子の部屋、かな。スポーツ雑誌とか置いてあるし。
「! 起きたのか、ルリ」
「きゃあああ!!」
顔が近い、近いよ! 景。
「私、悪夢を見たわ」
「それは、俺がアイドルを引退する夢か?」
「そう、ってなんで知ってるの?」
まさか……。いや、いやああああ!!
景は艶めいた表情で私を見る。あああああ!!
「事実だからな。俺はお前が好きだ、ルリ」
「何でこんなに馴れ馴れしいのかと思ったら、ストーカーなの」
国民的アイドルなのに、最低、最悪。ドン引きだわ。
何もこんな私を選ぶ必要もないし、意味わかんない。
そう思うのに顔がかああっと熱くなる。
「違う、そうじゃない」
「わけわかんない。ところでここはどこなの」
「俺の家。その中の俺の部屋だ」
「広いんだね、いいなぁ豪邸」
「お前も今日から住むんだ」
「え?」
「元ファンや報道陣からの嫌がらせから、お前を守るため、これからは隣に用意したお前の部屋でお前は住む。悪い。お前の両親に、交際するなら責任をとってルリを守れと言われたんだ」
「私聞いてない!」
これから私どうなるの!?
普通の生活、なくなっちゃうんじゃ?
そりゃ友達もいないけれど、それでも前以上に浮くのは嫌だよ。
今まで教室の隅っこで静かに読書ができるギリギリの地味さでいたのに。
「ああ。俺の浅い考えのせいだ。すまない。本当に、すまない」
「え」
「何でも用意する。苦労はさせない。絶対に誓うから、側にいてくれないか。ルリ」
「ちょ、土下座しないでよ」
あわわわ。ただの庶民なのに、元国民的アイドルに土下座されてる私。凄くやばい人みたいじゃん。
「あの時バカな俺が無駄な意地を張らなければ。本気で反省している」
え? なんか声が泣いてるみたい。景?
「でも、できれば覚えていてほしかった、あんな酷いことをしておいて。図々しい、最低な俺だから、少しでも俺が近づいた時『もしかして』なんて笑ってほしかった。あり得ない事しといて、本当バカだ。俺は」
絶対泣いてる。凄く苦しそう。顔も上げれないまま、しゃくりあげる声が聞こえた。。
私は困惑したまま彼を静かに見る。
青い空が綺麗な窓越しに入ってきた冷たい風が彼の少し長い髪を揺らした。
「景」
私は彼の名前を呼ぶしかできない。
すると。
「俺はお前が好きだ。今も、あの頃も」
涙を堪えて、どうにか景は私の方へと顔上げた。目の下が真っ赤で痛々しい。声も不自然にうわずってるし。これじゃあ、いじめられていた時のまるであの子みたいだ。
「…………」
「なあ、また大好きな食べ物をあげるから、その時だけでも昔みたいに笑ってくれないか? 俺にじゃなくていい。食べ物にでいいから……」
食べ物? え? その笑わせるやり方って……?
「!」
そうまるで……。
「幼稚園に一瞬いた酒井くん!?」
そして私はあの頃の記憶を思い出した。
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