女神像
街の人がみんな信心深い理由にたどり着いた。
雨で魔素濃度が落ち着いているから良いものの、まだ少し魔素の濃さを感じる深層だ。
「すごいわね、これって女神様の像?」
壁をくり抜いて作った巨大な女神像が僕らの前にあった。
魔素の七光が女神レゾンを象った像を照らしている。
たぶん鎌倉の大仏よりも大きい。
まるで僕を嘲笑っているように見える。
女神レゾンめ、忌々しい。
「そのようだ。もしかしたら石碑があるかもしれ……、リゼット?」
リゼットは女神像を前に立ち止まり、静かに祈りを捧げていた。
その姿だけ見れば、彼女は敬虔なシスターに見えなくもない。
パッと目が開いて僕を不思議そうに眺める。
「時々あんたって神官らしくないわよね」
「そ、そんなことないよ」
「だって一度も女神様にお祈りしないじゃない」
「それは……、僕は祈りを神に届ける立場だから」
嘘だ。
リゼットはふーんと興味なさげに返事して道を進んだ。
「石碑、探すんでしょ!」
「ああ」
僕はリゼットの後を付いていく。
◆
女神像の足元は浸水によって七色の光が映り込んでいた。
こうして見上げてみると、とても古いものだと分かる。
植物がほとんど無い洞窟なのに生花が供えられ、どれだけこの街の人に大切にされているのか感じ取れた。
「女神様にお祈りすれば死後に救われる、か」
女神レゾン曰く、救いとは転生である。
ならなぜ僕はこの世界に転生したのだろうか。
今まで何度も考えては答えを見つけられずにいる。
「今ごろ、あの女性も救われたのかな」
案内人の妹はきっと兄と同じく敬虔な信徒だっただろう。
女神像を仰ぎ見ていたリゼットは、浸水で浅く水が張った地面をザブザブと音を立てながら僕の方へ歩いてきた。
「死は救いじゃないわ」
小柄なリゼットが僕を下から覗き込んだ。
なのに、見下すような目をしている。
「人生は死んだら終わりよ。次の人生で救われてどうすんのよ」
前世の日本でも、この異世界でも、そういうことを言う人は居た。
「じゃあどうして祈ってたの?」
「今が次の人生なのよ」
耳を疑った。
「え? まさかリゼットも転生したのか!?」
「……転生? なによそれ」
早とちりだった。
リゼットが僕から一歩だけ離れる。
「頑張りますってお祈りは、今のわたしを救うのよ」
決意表明か。
そんな風に考えたことはなかった。
僕は女神像を仰ぎ見た。
浸水した地面をじゃぶじゃぶと進んで像の足元に行く。
像の足元に亀裂が走っていた。
「どこ行くのよ!」
亀裂に手を触れる。
そのタイミングはリゼットが僕の肩に手を置いたのと同じだった。
『待ってて、お兄ちゃん』
エイミの声が聞こえた。
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