第6話 寄付と予算と税金と行政サービス

「10年間は好きにしていいって言ったじゃない」


 私は慌てず焦らず、堂々と言い放った。


「どう、素敵な街でしょう」

「他国人じゃないですか!」

「冒険者を招き入れてもいいって言ったじゃない。今やこの場所は人種のサラダボウルよ」

「一体どうやってこのような!?」

「税金を5年間0にするった言ったわ。その間に稼ぐだけ稼いで撤退するのもよしと。商人って凄いのねぇ」

「独立する勢いですよ!?」

「それはまあ、間違いなく大丈夫よ。そもそも、ここから他の街に行くのは禁止だし」


 何せ、ゲートを握っているのは私である。しかも、プリンセスジョブの人間の位置把握はお手のもの。少なくともプリンセスジョブの人間は他の街に出ていないのは確認済みである。


「制御が効くと!?」

「5年後にはちゃんと税金を支払う事を約束させてあるわ。帝国の平均的な税金は大体全部で50%ぐらいになるともね。いきなり大幅値上げは受け入れられないだろうから、最初から50%の税金があると思って値段設定してね、不測の事態のために貯金はしてね、とも。後はまあ自己判断ね。5年したら税金は取るわよ」

「税金の話をしているのではありません!」

「街の運営でそれ以上に大事なことってある?」

「それは……!」

「ああ、もちろん犯罪なんかはないように気をつけてるわ。性犯罪、人身売買、殺人、強盗、イケナイお薬、そういった事に関してはできる範囲で頑張って取り締まっているわ。自警団がね」

「そういう問題ですか!」

「他にどんな問題があるのよ? そもそも最初のうちは統治を考えなくていいって言いましたわぁ」

「私兵を持つのは……」

「あら。私の兵は一兵たりともいなくってよ。よそ様の兵隊が採取をしてるだけ」

「そちらの方が問題ではないですか!」

「まあ、よく見ておいきなさいよ。彼らの加護は赤子同然。彼らの強さは武器にあるわ。補給を絶ったらそれまで。そして、その補給は私を握っているの。問題はなくってよ。さあ、案内するわ。この街の良さをたっぷり味わって頂戴」


 それから、私は街を案内した。


「この街は全て私有地よ。ちょっと大きなお家が建っていると思って頂戴。あの大きな街も私有地。そこも私有地。入っていいのは、この街の私に献上された今歩いているエリアと最初から建っていた街ね。でも安心して頂戴。そこもちゃあんと開発されてるから」

「もう他に領主がいるも同然ではないですか」

「徴税権は私にあるわ」

「本当に徴税できると?」

「そのあたりは最初に話し合っているわ。好きにこの領地で儲けていいし、手助けもする代わりに、連帯責任で税金を払う。違反するような者がいるようなら、二度と協力しないと」

「そんな事を真面目に受け取ると?」

「うふふ。別に、真面目に受け止めなくてもいいのよ」

「はあ?」

「約束を守らなければ全員追放して残った資産を総取りできるもの。住人はまた呼べばいいわ」

「その手段があると?」

「あるわ。それに、わかってないはずがないわ。話し合いも何度もしているし」

「お付きのものが驚愕してますよ」

「あら? まあ、そういうワケだから、気をつけてちょうだいね。でもまあ、そんな税金問題ないほど稼がせてあげてるでしょう? 私から無料で稼ぐ為のレクチャーも何度もしているし、税金額ははじめに伝えてあるし、無理なら5年で撤退すればいいんだし」

「しかし、連帯責任ですか!?」

「一人一人細かな対応をできるはずがないでしょ。オールオアナッシングよ。まあ同じく、一人一人の税金に対応できるわけじゃなし。そんな細かく目くじら立てないから安心して。人様に迷惑かけるような盛大な犯罪を行わず、最終的に全体で稼げているはずの金額の半額をもらえればそれでいいのよ。優しいでしょ?」

「ちょっと失礼します!」


 偉いこっちゃとお友達が走る。

 それから、私は映画館や美術館、お店を紹介して行った。

 最初の街に入ると、陳情の商人達が駆け寄る。

 

「税金取ってないから、サービスもないわよ。自分の才覚で家や店を建てて、自分の才覚で商売をなさいな」

「しかし、個人で街を立てるなど不可能です。プリンセスタウンに入れていただきたい」

「あれは私有地内に私を招待してもらっているだけなのよ。私が好きにしていいわけではないわ。それなりに信用を積んでいないものを招待はできないわね」

「この街はもういっぱいです。しかも警察組織も官僚組織もなく、ギルドも高額な入居料を求めています」

「そうねぇ。この街は法律的には全て私の物だし、ごちゃごちゃしてそのうち壊すかもしれないのよね。私は税金を掛けていない、ギルドからお金をもらっていない、つまりギルドには権利がない。ただし、ギルドが街の治安を守っていてその分の代金だというのならそれは貴方の判断で払うかどうか決めればいいわ。さっきも言ったように、そのうち壊すかもだけど、私の物を私がどうしようと勝手よね。お金もらってないし」

「そ、そんな……」

「まあ、10年後にはちゃんと街を立てるわよ。警察も文官もいるちゃんとした街をね。もちろん税金もあるから、その時の為にお金は貯めておいた方がいいわよ」

「更にいうなら、私は人様の権利を奪って自分の権利に見せかける人が嫌いなの。10年後にギルドに便宜は図らないわ」


 そう、私はゲーム知識や現代知識を流暢しただけだし、広まった方がいい知識なので、自分の権利を主張するつもりも手柄を喧伝する気もなかったのだ。

 でも、人の隠してたノートを盗み見て、自分が考えましたっていうのは違うんじゃない? 私はそういう輩はとても嫌いだ。しかも、その後関わってこないならまだ無視できる。だが、利益を盗んだ当人に向かって抜け抜けと恩に着せる様な言動を重ねるようなのは我慢できない。


「もう一度言うけど、5年間、ここは無法地帯で、その間の庇護が欲しいと言うのなら貴方の考えを否定はしないわ。でも私は私の領地の私の物を勝手に売ったギルドに便宜を図らないし、この街もスラム化して犯罪の温床になったら更地にするから。頑張って自治して頂戴。あの私有地もその私有地もちゃんと自治をしているわ」

「そ。そんな……。帝国人の入れる街がないなんてあまりに酷い。ここは帝国ですよ」

「だから、10年後に帝国人の為の街の制作を依頼はするわ。ただ、警察と文官と街を守る騎士がねぇ。お金があっても、こればっかりはすぐ用意できるようなものではないのよ。まだ赴任して二ヶ月だし、5年後からゆっくり5年かけて探して雇うつもりなの」

「それが用意できれば、帝国人の街は作るのですね?」

「ええ、王国からも帝国からも予算をたっぷりもらっているし、冒険者からも寄付金を沢山もらっているもの」

「わかりました。官僚団は3ヶ月で連れてきます。街のご用意をお願いします。二ヶ月でこのような街を幾つも用意しておられるのです。可能でしょう」

「おお!」

「あら。せっかくなら官僚達の意見も聞きたいわ。最初はプリンセスタウンに住めばいいし……そうね。じっくり考えたいから、一年後と行ったところかしら」

「姫様! しかし、1年間も野宿はできません。更地にしてもいいので、借宿をお願いしたく! 皆でお金を持ち寄り、寄付いたしますので」


 ふむ。私は、税金を取ってはいないが、寄付を受け付けないとも言っていない。

 そして、寄付を貰えば予算ができるので、行政サービスはせねばならない。


「お金を払うのならば、その分の行政サービスはしてもいいかもね。あまり小さなお願い事はいやだけど、みんなの意見を取りまとめると言うのなら、小さな屋敷に皆で住まう事を許しましょう。ただし、貴方から寄付金をもらっても、施すのは貴方にではなく、行政サービスとして全体に行います。つまり、屋敷に住むものからお金を取るのは許しません」

「それで構いません!」


 私は街の外にギルドハウスを出現させた。マイハウスがあるから、使わなかったのよね。

 腰を抜かす文官と商人。


「寄付金は後でプリンセスタウンに持ってきなさい。これは入場カードです。別にいくらでもいいわ。なくてももう二度と行政サービスを提供しないだけだし」

「いえ、ひとまず衛兵の分は欲しいので多めに持って行きます」

「わかったわ。衛兵に多めに予算を振り分けるわ。寄付者の意向だもの」


 そうして、文官達はあるいは調査をし、あるいは帝都に早馬を出して行った。

 

 ギルドが後から寄付金を持って頭を下げてきたが、初めに挨拶に来なさいよ。

 税金0だから領主にギルドが挨拶しなくていいと言うことにはならんのよ。

 特に、ギルドが勝手に領主の物を売り捌くときは。


 経緯を聞いたマダムはため息を吐いて言った。


「どっちもどっちね、赴任の挨拶くらいしなさいな」


 ごもっとも。

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