第26話 パチンコ屋の攻防①
夜中に「プチプチプチ!」
と奇声を上げる長男。
制多迦童子として覚醒した衝動なのか、いや、この子は幼稚園の頃からこんな子だった。
「ムキムキ!」とか、
「オレは神だぁ〜!」
とか確かにずっと言っていた。
いつまでも幼い子供っぽい愚息だと
侮っていたら、先の戦いで見事な連携を見せてくれたので、我が子ながら成長を感じていたのだが、どうやら気の所為だったようだ。
まあ、テスト勉強の疲れもあるのだろう。
今は中間テストの大事な時。
神や仏を自覚しながら、中学生としての人の役割を、果たさなくてはならない。
我々もそうだ。昼間は人として生きていき、帰宅した後のお風呂の時間や床に着く時に目を閉じて、世界を消して神や仏へ還るのだ。
そんな矢先、今度は娘が又高熱を出した。
先日季節外れのインフルエンザに罹患し、昨年は新型感染症に2度ほど罹った。
私は祈る。「トホカミエミタメ、トホカミエミタメ」。
娘のために、世界のために。
トホカミエミタメには場を浄め、邪を祓う効果があるとされている。
「パパ。今度の休みは出かけないでよ。私と遊ぶんだからね」
と言っていた矢先、高熱を出した娘。
仕方が無い。
家にいてもリモートワークの嫁さんの邪魔をしちゃうので、私は散歩がてらに外に出ることにした。
今日は思いがけなく臨時収入が入ったので近くのパチンコ屋に向かう。
勿論急な呼び出しに対応出来るように、近場の店だ。
それに4円のパチンコなんてバカな真似はしない。あくまで趣味嗜好の一環で1円パチンコしかしない。
台は「一角獣メンタム」。
メンタムシリーズはリアルロボットのパイオニアと言われ、従来のSFだけに留まらず、ある意味伝説ともなっているシリーズである。
特に宗教にも通じるニュータイプや覚醒の概念は今の私が思うところにも通じるところがあり、何となく座って打ってしまった。
しかし、平日のパチンコ屋なのに満員盛況だ。
スロットには若い子達が多く、パチンコ屋には年金生活者のようや爺、婆が多い。
中には小汚い身なりでヨダレを垂らしながら寝ながらハンドルを握っている爺さんや、腰が曲がってるので下しか見れないのに打っているお婆さんもいる。
世も末である。
パチンコ屋には、敗北者しかいないのだ。
千円……二千円……。
三千円……。
ろくにスーパーリーチもかからず、
一度も当たらないまま九千円が台に吸い込まれていくのであった。
「ふざけんなよ!!この台!イカサマだ。イカサマ!!」
ん?俺じゃない。
誰だ?
後ろで「中林明菜」を打っていたお爺さんが、隠し持っていたトンカチで台を叩きつけた!
ガチャーーーン!!!
爺ちゃん、やりやがった。
たまに血の気の多い香ばしい人はいるが、本気で今の時勢やる人がいるとは。
しかも1円パチンコだよ。
警備員と店員がかけよる。
すると、爺さんは「グハッグハッ!」と白目を剥いて笑い出す。
首は上を向き舌を出したかと思うと、
「バシューーー!」
急に目から鼻から口から勢いよく血を吹き出した!!
血の噴圧で目は飛び出し、脳髄もぶちまけ警備員にその身体は預けながら痙攣している。
「うあぁぁぁ!!!!」
「キャーーー!!」
今度は腰のヨボヨボのお婆さんが空中の空調に逆さから捕まっている。
「ケキョォ!ケキョー!」
奇妙な奇声を上げた途端、首が逆さまに向く。
ゴキ!ゴキゴキ!!!
涙と
臓物が「ビタビタ!!」っとパチンコ台にばら撒かれる。
「ギャーーー!!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
パニックになり、客は入り口に詰め寄る。
ところが、入り口は鍵が閉まっているかの如く一向に開かない。
マスタード臭……。
こ!これはアヤカシ!
蝶ネクタイのタキシードを着た店長のような男が店のカウンター側から歩いてくる。
「皆様お静かに!お静かにお願いします。皆様には食事となっていただくので可能な限りお静かに、冷静にご対処お願い致します。」
男はニヤニヤしながら歩いてくる。
「こんな状況で飯なんて食えるわきゃないだろう!」
「早く出せ!」
「どうなってるんだ!店の対応は!」
方方からヤジが飛んでくる。
「誰が私が店の責任者と名乗りましたか?いいでしょう。私の名前は妖魔ヘケット。あなた達をすべからく平らげてしんぜましょう」
タキシードの男は目を見開くと、カエルの様な顔になり、その口から異様に長い舌を出し、今の時代に似つかわしくないワンレンボディコンのオバサンをぐるぐる巻にして宙に浮かす。
「や、やめてぇ!私は美味しくないわよー!」
聞いているのか聞いていないのか、ヘケットは目をグリグリしながら、舌の力だけでオバサンを真っ二つにして、そのデカい口で血をゴクゴク飲んでいる。
「キャーーー!!」
「ウァああ!!!」
パチンコ屋は大混乱。
ドアをバンバン叩く音が鳴り響く。
隅の方では店員がブルブル震えている。
バイトの女の子だろうか。
ヘタヘタと座り込む股の方から小便を漏らしてるのが見えた。
俺は気づく。
おかしい……。
時が止まらない。
「雄一。おかしいわ。時が止まらない。」
横にいつの間にかピーニが人間体として横に座って、いつもと違う様相に危機感を、促してくる。
「いるんだろ?!聖騎士!」
ヘケットは俺の方を指差す。
店内の客の視線は一斉に俺の方に向けられてくる。
ど、どうする。
続きは次回
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます