第22話 神室町と輩

ウィルスに擬態して俺の子供の体内に侵入してきた妖魔アルケニー。


為す術もなく倒された俺。

結界の謎にも、対策も出来ず、たまたまハサンの意識が乗り移り撃退することが出来たが今回は完璧に負けた。


俺はあの時間違いなく三鈷剣で奴を斬った。


しかし切り裂かれた身体は元の体に戻り、ダメージも無力化した。


確かにあいつは言った。

「私の領域では効かない」と。


俺の気持ちは晴れない。


新宿の神室町にいつしか足が向いていた。


新宿神室町は、昔から風俗や飲み屋、パチンコ、ホスト、キャバクラ等の夜の街、大人の街として栄えている。


当然一時期は暴力団の街だとか、中国マフィアや半グレといったダーティな街としても名高かったが、

近年暴力団排除条例、暴力団対策法等の法律により急速にクリーンな街として行政も本格的に街のイメージアップに乗り出しているようだ。


夜の神室町を歩く。

昔のように悪質な呼び込み等はいない。


「ちょっとしつこい!」

「いいじゃねーかよ。俺達と遊ぼうぜ」

「お金沢山貰える仕事あるんだよ」


メインストリートのラーメン屋の横で、二人の若い女の子が、完全に輩と思わしき男達に絡まれている。


以前の化身が出来る前の俺ならビビって知らないフリをしていたろう。


しかし、今日はムシャクシャしていた。

妖魔アルケニーに勝てなかった怒りを奴らにぶつけよう。


そんな風に考えていた。


「やめたら?嫌がってるじゃないですか。」

わざと下手に出る。


「あーん?オッサン?何なの?」

「オッサンが相手してくれんの?」

「何だ、こいつ面白ぇー」


俺はハサンの実を食べていない。

力が上がる赤い実も。

速さが上がる青い実も。


このまま相手しようかなと思ったけど

『紫の実』を食べることにした。


ガリ!

カリッカリ。


「こいつ、何か食ってる!」

「おい、オッサン。正義の味方のつもりかよ。」


輩達は俺に標的を移し絡んでくる。


「嫌がってるじゃないすか。やめてあげて下さいよ」

俺は更に下手に出る。


女の子達が俺の背後を指さして

「あ!」と手を口にしている。


ゴキ!!!


カランカラン


別の場所にいた違う輩が、バットで俺の頭をフルスイングした。


まじ?こいつらヤバ!


ところが、フルスイングした男が驚く。

「固っ!!」


俺の頭はハサンの実の効果で硬質化していた。

バットはまるで鉄筋を打ったかのような衝撃で、その反動は寧ろ撃ち抜いた輩の腕に強烈に伝わりバットを落としたのである。



それをニヤニヤ最初に見ていた女の子に絡んでいた方の輩達も、硬すぎる雄一の頭に口を開けてあんぐりしている。


俺は振り向きざまに、バットの男を片腕で持ち上げ反対の通りに吹き飛ばす。


「や、やめろ。やめろ!わぁ〜!!」


ドンッッ!

軽く飛ばしたつもりが、結構吹き飛び、ゴキッッ!と頭から地面に叩きつけられた。


「何なんだ!お前」

ナイフを出してくる輩達。


一人の金髪のガタイのいい男は俺に掴みかかってくる。

俺は掴んだ腕を強引に引き剥がす。


「痛!痛え!!やめろ!」

お前らから絡んできたんだろ。


俺はこの男も逆に柔道の背負投の要領で伸びている男の方に更に放うる!


ヒューーン!

「ぐえ!」

カエルみたいな声を出して金髪の男も動かなくなった。


「何してるんだ!」


前方から警察がやって来る。

その頃はまあまあの人だかりが出来ていた。


「逃げよう、サツが来る。」

「くそ!面は覚えたからな!

お前達!起きろ!」

「……う、うぅぅ痛え」。

三下の決まり文句を吐いて輩達は逃げていった。


女の子達は警察に事情を話して俺は無罪放免としてお咎めは無かった。


ハサンの実を使い続ければ、現実の世界でも能力が伸びる。


一時的なカンフル剤だと思っていたが、そうではないみたいだった。

つまり、能力の大半は消えるが、僅かに残った力は元の素の能力に引き継がれるのだ。


だから、47歳にして階段を一段抜かしして降りたり上ったり会社までの道を小走りで駆けたり出来るのだ。


全く息は切れない。

そして力も怪力になっている。


先程の輩くらいなら、ハサンの実の赤い実を食べなくても剛力が発揮できるのだ。


「でも、まだダメだ。これではアヤカシには勝てない」


俺は益々焦る気持ちが募るのであった。


次回へ続く

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