第23話 ブブキの言葉

神室町から少し離れたコンビニのイートルームで野菜ジュースを飲みながらため息をつく。


俺がいないこの隙に、また家族が襲われたら?


そして次に妖魔アルケニーと戦った際に又「奴の領域」で戦闘になったら?


妖魔アルケニーを超えるアヤカシと戦闘になったら?


そもそも俺は大魔司教ガリウスなんかに勝てるのか?


邪神が復活したら立ち向かえるのか?


怖い。怖い。

ブルブル震える……。


「今に生きていないな」

ポツリと呟く男の声が聞こえる。


ふと隣を向くとトレンチコートの男が俺の方を向いて……


あ!!!


見覚えがある。

こいつだ!


この男が俺にハサンの瓶を渡したのだ。

こいつから全てが始まっているんだ。


「お、お前は!」

俺はトレンチコートの男に問い詰める。


何故ハサンの実を託したのか?

何故俺なのか?


「お前ではない。俺の名は鏑木清方。別の世界線のハサンの系譜だ」


鏑木清方は、自分の出生とハサンの系譜について再度説明してくれた。


異世界マーラとの闘い。

そして父親である鏑木凝流が聖騎士ハサンとして召喚されファイナルゴッドハサンで邪神を倒し世界は一つになったこと。


その後鏑木清方として再度分離し、日本に生還したがマーラで得た力と全体であった記憶は引き継がれたこと、邪神の欠片である大魔司教ガリウスが生きていたこと、ハサンの意志を託された事を話した。


「俺もこの世界の住人ではない。だから、常にお前の側にいる事は出来ないが、いつも俺はお前と共にある。」


そして鏑木清方は重大な事実を告げる。


「お前の力の根源は心にあるのだ。

妖魔アルケニーとの闘いでは無意識にお前は敗北を悟った。だからお前は負けたのだ。」


そ、そうか!

俺はどこかで負けると思い込んでいた。

ハサンクラッシュも効かないと思い込んでいたのだ。


既にその時点で奴の術中にハマっていた。


「お前は今に生きていない。倒された過去の件や、訪れていない未来の事で心を惑わしている。『今』に生きるのだ」


鏑木清方はそう言い残すと姿を金色の粒子に変えて消えていく。


なんだか温かい父親のような声だった。


ブブキ……。

「ん?ブブキ?」

俺は何故だかブブキと呟いていた。



    ◆◆◆

「ほう。それで逃げ帰ってきたのか?」


大魔司教ガリウスと、今や将軍格に格上げした魔将軍ユニゴリーが妖魔アルケニーを責める。


「すいません。必ずや目的は果たします」


アルケニーは審判を仰ぐ罪人のように床に額を擦りつけながら詫びを入れている。


ここは大魔司教ガリウスが根城にしている魔戎城。


マーラとは違う異界に存在する悪魔の城である。


「良かろう。これが最後のチャンスだ。さあ、足を出すが良い」

大魔司教ガリウスはアルケニーに足を差し出すように命令する。


「ガリウス様!聖騎士めに足をもぎ取られ足はございませぬ!」

涙ながらに窮状を訴えるアルケニー。


「よく見るが良い。」

大魔司教ガリウスが手からソウルパワーを翳すと、アルケニーの足が瞬間に生えてくる。


そしてその足は以前の足より筋肉が増し肉肉しく、ゴツゴツと毛と棘が生えたどどめ色をしていたのだった。


「行け!妖魔アルケニー!聖騎士を殺せ!」


「有難き幸せ!ありがとうございます。大魔司教ガリウス様!」

言葉にはしたものの、内心アルケニーは腸が煮えくり返っていた。


蜘蛛型とはいえ、美しい容姿の妖魔アルケニーは妖魔シャラプ&キャラスン姉妹と肩を並べる美人アヤカシとして自他共に認めていたのである。


蜘蛛足もそう。美脚と思われる美しい細い足が、今やどどめ色のゴツゴツの筋骨隆々の毛と棘の醜い足に変わっていた。


これも全ては聖騎士共のせいである。

恨みと怒りを募らせ、アルケニーは聖騎士抹殺の任を帯びるのである。


次回へ続く

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