第16話 大威徳明王と荒御魂

ハチマキをしているオジサン、

推しのウチワを持っているオジサン、

ペンライトとハッピを着込んでいるオジサン、


何故か大小、痩せている、太っているオジサンばかりが空中に浮かび上がる!


「下ろしてくれ〜!」

「助けてぇぇぇ!」


オジサン達が悲鳴を上げる。


「私はねぇ!醜い物には蓋をしたくなるのさ!」


巨大な空き瓶にオジサン達が詰め込まれる!


「や、やめろぉぉ!」

俺はハサンの実を食べるより先に体が動いた!


ドガシッッ!!!!


妖魔キャラスンは、俺をいとも容易く弾き飛ばす!


グハッ!

バ、バリアか!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

巨大な蓋が空き瓶にされる。


そして空き瓶の内蓋には幾つもの針が付いている。


「やめろぉぉ!!!」

「いやぁぁぁ!!」

ピーニと俺は叫ぶ!!


内蓋の無数の針はオジサン達を無慈悲に『すり潰し』ていく。


ギャアアア!!

グァアア!!!


断末魔と共に空き瓶は肉片と血液で見るも無惨な状態と化す。


そして空き瓶から、ドロドロの肉片は鬼岩に注ぎ込まれる。


そして再び鬼の顔の岩の目や口から赤い河が流れるのだ。


おぇ!

あまりの凄惨さに吐しゃ物を吐く俺。


俺は怒りと悲しさに打ち震える……。


よ、よくも!!


『雄一……。雄一……。』

怒りに震える俺にあの声が聞こえる。


そう聞き覚えのある声。


ハサン!ハサンだ。


『雄一。怒りを解き放て。荒御魂を開放するのだ!』

ハサンは静かな厳かな声で優しく、それでいて厳しい声で俺に諭す。


荒御魂?!

俺の中の内在神の荒御魂を開放する?


『金色の実と白の実を食べよ。

大威徳の慈悲の心を示すのだ』


大威徳明王。


よし!金色の実と白色の実を食べる!!


ビキーーーン!

周りの色は色味を失い灰色がかる。


時間が止まった!


そして、周囲が時間が止まるのとは反対に俺から溢れんばかりの光が辺りを照らす!


ピッカァアア…………!!


「妖魔キャラスンよ。お前は触れてはならない心の琴線に!

大降臨!大威徳明王!!」


三鈷剣は赤色にメラメラ燃えている。

三鈷剣だけではない。


メラメラと青と赤のソウルパワーのオーラが全身を包む。


「俺はお前を、それでも許す!

大いなる慈悲によって!

三鈷剣ブレーードッッッ」


三鈷剣は異様なほど白光に光を帯びる!


「明王になったから、なんだ!

私のバリアでお前なんぞ近づけもせぬぞ!クハハハ!」

笑うキャラスンの一瞬にして後ろに回る。



バキバキッッ!!


「ギィヤヤヤ!!!痛いィイ!!」


俺はキャラスンの羽を引き千切る!!

噴出る血飛沫!!!


心眼が開く。

その心眼からは涙が零れ落ちる。


「これが最後の一撃だ。お陀仏だ!」

俺は最後の言葉をキャラスンにかける。


「なんで?!バリアは?い、イヤァアア!」

吉備津を返して逃げようとするキャラスンに後ろから袈裟斬りで俺は全力で切り捨てる!!


「ハサン!クラァアアッシュ!!!」


ドギャピンッッ!!

断末魔を上げて切り裂かれるキャラスン。


夕日が眩しい。

それでいて悲しさが溢れる。


俺は元の姿に戻る。


辺りは色味が戻り、静寂が戻る。


すると、鬼の顔をした岩も無くなり、破損した渋谷ドームは元通り。


殺された筈のオジサン達も生き返るどころか何事も無かったのように、

「今日の白桃良かったよな!」

なんて談笑しながら歩いている。


血の滝に弄ばれるように浮いていた白桃サーティワンの面々も無事のようだ。


「これは、一体何なんだ。毎回。」

どうして破壊された筈の建物や殺された人々が何事も無かったかのように時が動くと普通になるのか。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

疲れ果てて呆然としている俺に

コンサートから帰る群衆の一人に声を掛けてくる者がいた。


「雄一。お前の闘いは酷いな。

お前がもっとちゃんとしていれば犠牲者は出なかったぞ」


聞いた声だ。


それは、夕日の陽光をバックに俺を諭すもう一人の聖騎士の系譜、

冠城浩志だった……。


次回へ続く


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