第7話 マスタード臭

「マスタード臭がする」

臭いのだ。


ユニゴリー戦から暫く経過した、とある日曜日。


今日は雨。4月にしては初夏のような暑さが続き、少し涼しくなったなと感じてた矢先。  


近所のカレー屋に足を運び2辛の野菜+ヒレカツカレーを平らげ、マンゴーラッシーで喉を潤し、「いやー!思ったより辛いな!」

なんて店を出た矢先、臭うのだ。


ふと、隣を見ると滅茶苦茶スレンダーな黒髪の長い若い女性が立っている。


この女の子からマスタード臭がしてる訳じゃなさそうだ。

どこから?

それより、なんでこの子は私の事をチラチラ見てくるの?


逆ナン?


すると、その女の子は急に話しかけてきた。


「何ジロジロ見てるのよ!ピーニよ。」


えぇぇ?!

妖精のピーニ?


「霊体のままでいると、疲れるのよ。

だから、人間態の姿を作ったのよ」


作った?肉体を?

20位の若い女性が、こんなおじさんの隣にいたら親子にしか見えないな。


「雄一!アヤカシが近い!」

どうやら、マスタード臭がするのはアヤカシが近くにいるかららしい。


どんどんマスタード臭が強くなる。


!!!!


時間が止まる!


「雄一!来るわよ!」

ピーニが教えてくれる。


俺は小瓶に手を伸ばす。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


サングラスに黒マスク。

頭がピンクのモヒカンの男が傘を差しながら通りをこちらに歩いてくる。


堂々と来るんだな。

奴だな。


「お初にお目にかかります。

私の名は大魔司教ガリウス様の配下、

カサブランカと申します。」


サングラスの目から鋭い眼光が光る。



俺は既に仕込んでいた赤い実を食べる。

赤光が眩い光を放つ。


赤い実は体力増強。腕力増強。

パワーアップした力で、カサブランカに向かう!


「いゃああああッッ!!!」

俺は奴の自己紹介を待たずに突進する!


先手必勝!


ブンッッ!


俺のパンチは空を切り、勢い余ってカレー屋の壁に当たる!


ドゴッ!!!

パラパラ……


「おやおや、ご挨拶ですね。いきなりですか……」

カサブランカはヤレヤレといった様子で動じていない。



壁が砕けて、店内でカレーを食べてる客の様子が丸見えだ。


そうか。俺は格闘技なんてした事ないし、そもそも赤い実は速さは上がらない。


「雄一!危ない!!」

突然長い物が鞭のように横から襲いかかる!


バチィィイ!!!


俺は何が起こったか分からなかった。

急に飛ばされ、駅の方に身体はロケットのように吹っ飛ばされる。


ヒューーン!

ドゴッ!!


「グハッッ」。

腕と肋骨が折れた、恐らく。

赤い実のお陰で、大分衝撃は緩和したとはいえこのダメージか。


ユニゴリーより強いんじゃないのか?

これは緑の実を食べて不動にならないとダメだ。


俺は緑の実と金色の実を両方食べることにした。


ガキッッ!コキッッ!モグモグ……。


辺りに光が差し込み、雨雲が晴れていく。


軍荼利明王ぐんだりみょうおう!大降臨!!】

五大明王である軍荼利明王に化身する。


おー!緑の実と黄金の実は軍荼利明王なのか!


三鈷剣が黄金の粒子と共に手元に現れる。


「さあ!カサブランカ!勝負はこれからだ!」


カサブランカは、オオトカゲのアヤカシだった。体躯は5メートル程の巨体と化し長い舌をチロチロ出し入れしている。


緑の実のお陰でダメージは回復。

軍荼利明王の素早い動きでカサブランカの背後を取る!


貰った!


三鈷剣で貫こうとした矢先、


ヒュン!

バシッッッ!!


また長い物で跳ね飛ばされる!


グハッッ!


奴の尻尾か。長い尻尾を手足のように使うのだ。


しかし、背後を取った筈なのに?!


よく見ると奴の尻尾には目が付いていた。


「お馬鹿さんですね。私はオオトカゲ型のアヤカシですが、トカゲでは無いのですよ。トカゲン族のカサブランカ。お見知りおきを!ホホホ!」


くっ!手強い。


雄一の三鈷剣の青炎のオーラが弱くなる。

これは雄一の心の状態を表している。


気持ちが弱くなると三鈷剣のオーラも、自身のオーラも弱くなるのだ。


「雄一!あなたは軍荼利明王なのよ!自分を信じて!」


自分を信じる。

思うば土壇場で俺は俺を信じていなかったのか。


雨なのか。手汗なのか。

雄一のオーラは強くならない。


勝てるのか?

死んだらどうする?

家族はどうなる?


外の気温と同様、俺は身体の芯から冷たくなっていくのを感じていた。


三鈷剣を握りしめながら……


次回へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る