月代茜ルート エピローグ 月と月 月と太陽 二つの月は、夜空を駆ける
初楽曲を披露した番組が公開された、その後。
オレたち如月楓と月代茜の名は、巷で瞬く間に広がって行った。
番組終了後、楽曲PVを大手動画投稿サイトでUPすると、一週間で再生回数が脅威の80万超え。
今まで毎日投稿していた茜とのトーク動画も、再生数が跳ね上がり、チャンネル登録者数も倍増。
若い学生を中心にしてダブルムーンの名は広がって行き、茜とオレの初楽曲披露の番組は伝説として、語り継がれることになった。
最後まで諦めなかった茜。けれど、観客の罵声に、心が折れかける。
声が沈み、歌声がか細くなった、その時。
途中で現れたオレの姿に、茜は満面の笑みを浮かべ―――今までの歌が嘘かのように、覚醒を果たす。
オレが花ノ宮樹に脅されて、引き起こしてしまったアクシデントだったので、こう言うのも何なのだが……アレは、結局、良い演出として、プラスに働いてくれたようだ。
全ては、オレが来るのを信じて待ち、一人で歌い続けた、茜の勝利、といったところだろうか。
「ははっ、本当に、あいつはすごいな。どんどん、オレを前に引っ張っていってくれる」
ベンチに座り、オレは、サングラスをずらして、目の前にある看板を見つめる。
そこにあるのは、とある有名な化粧会社の広告看板。そこに映るのは、紅いツインテールの少女と、白金色の髪の異国情緒溢れる少女の姿。
……あの初楽曲披露の日から、三年。
オレたちの名は、もう既に、日本全国で知らぬ者がいないほどのレベルにまでなっていた。
最初の一年はとても大変だった。
熱が冷めないうちに、自分たちを広告して回らなければならなかったからだ。
ヨウチューブに毎日投稿は勿論のこと、方々の会社に挨拶回り、一日署長イベントなどへの参加、宣材写真の撮り直し、握手会、CD販促会……などなど、目まぐるしい日々を送っていた。
休み暇もなく、睡眠時間は平均4~5時間。歌やダンスレッスン、広告の仕事などで休暇を返上することも多々あった。
だけど……とても楽しい毎日だった。茜と何かやるのは、本当に、楽しかった。
あいつと一緒に居るだけで、オレは、柳沢楓馬ではない別の何かになれた。
この三年の間で、アイドル活動で培った経験、努力、茜との連携力。
これらの全て、無駄ではない。
オレたちが次のステップへと行く、架け橋となる。
今なら――――今の如月楓なら、以前のオレとは異なった、良い演技ができる気がする。
……色彩。そう、今のオレの心に浮かぶものを表現するのならば、これは色彩だ。
花ノ宮女学院で出会った友達、若葉荘で出会ったアイドル候補生の仲間たち、有栖や近藤さん、瑠奈さんたち。
人は、出会いを通して、多種多様なまばゆい色を集め、その身に宿していくもの。
人の生に無駄なことなど何一つない。芸術とは、人の生を昇華して、観客を魅せるものだからだ。
そんな当たり前のことに、今のオレはようやく、気が付くことができた。
まぁ……天才子役だった柳沢楓馬には、そんなものくだらないと、一蹴されるのだろうけれどな。
だけど、それで良い。オレは誰か一人のために演技をするのではなく、自分自身のために演技する。
茜と進む未来を夢見て、前へと進んで行く。オレは、彼女と共に未来を歩いて行く。
「あ、こんなところにいたの? 楓ーーー!!!!」
背後から、オレを呼ぶ声が聴こえてくる。オレは振り返り、相棒へと、手を振った――――。
アイドル活動を三年間続けて、オレと茜は高校を卒業と同時にアイドルを引退、再び役者の世界へと足を踏み入れる。
だが……そんな時を狙ったかのように、柳沢恭一郎の弟子、銀城遥希が舞台の上に上がって来た。
彼女の演技は、世界を圧巻させた。柳沢楓馬の再来と呼ばれた銀城遥希は、オレたちが役者に転身した話題などすぐに吹き飛ばし、テレビニュースでの注目をかっさらっていった。
いつの日か、銀城先輩は、オレと茜にこう言っていたっけな。
いずれ、オレたちと、全力で戦ってみたい――――と。
銀城先輩が所属している事務所は、新しく建ち上げられた南沢という名の付いた芸能事務所だった。
そう。失踪していた花ノ宮樹が、自ら建ち上げた芸能事務所だった。
新進気鋭の天才役者、銀城遥希のプロデューサーは―――柳沢恭一郎。マネージャーは秋葉里奈。
彼らは、本気で、オレたちダブルムーンを潰そうと動いていた。
以前、ルリカから、花ノ宮樹が茜の実の兄だと聞いたことがあった。
有栖から聞いたが、どうやら樹は、南沢家の汚点である愛人の子、月代茜を表に出したくないのだそうだ。
だから、南沢家の手先である樹は、ありとあらゆる手を尽くして、存在自体が醜聞である茜を芸能界から追放しようとしていたらしい。
他にも何か、裏があるのだろうが……オレたちにはそんなこと、関係はなかった。
ただ、目の前の敵を倒し、役者の世界の頂に立つ。オレと茜は、そのために、今、ここまで来たんだ。
「楓。行くわよ!」
「はい、茜さん」
茜の差し向けられた手を、オレは、強く握る。
そして彼女は前を振り向き、舞台の上で観客を魅了する天才役者を見据えた。
「あいつは……まるっきり、フーマ……天才子役、柳沢楓馬そのものだわ。見る者を魅了して、ただ、力任せに観客をねじ伏せる。単なる星々、衛生では、太陽の周りをぐるぐると回るだけで勝つことなんてできない。でも、あたしたちなら――――」
「はい。私たちなら、必ず太陽を叩き伏せることができます。私たちは、天才ではないのかもしれません。だけど、二人でならば―――どんなことでも超えられる。私たちは、二人で一つなんです。夜空を照らす月の輝きは、太陽にだって負けはしない」
「さっ、今まで培ってきたものを見せてやりましょう、楓!! あいつは主役、あたしたちは端役!! だけど、端役が主役を喰らっちゃ駄目なんてルールはないわ!! あたしたちがどんな存在なのか、世界の頂に、刻み付けてやりましょう!!!!!」
「はい!!!!」
明るいスポットライトが当たる舞台の上へと、オレたちは駆けていく。
眩しい。だけど、とても心地よい。
そして、ブザーの音と共に、第二幕が上がる音が……聴こえて来た――――。
―――――フランス パリ。
世界三大劇場に連なるオペラ座を見つめ、オレは白い息をホウッと溢す。
ここが、役者たちが聖地と呼ぶ場所か。とても美しい場所だな。
「……おとーさん、はやく、おかーさんむかえにいこ?」
腕に抱いている少女が、オレの後ろに結んだ髪をぐいぐいと引っ張って来る。
い、いたたたた!! まったく、誰に似てこんな乱暴者に育ったのだか。
オレはそんな愛しの娘の頬にキスをして、頭を撫でた。
「
「ルリカおばちゃんが、おとーさんにはもっときびしくしてもいーって、いってたー」
「……あのおばちゃんのことは無視して良いから。はぁ……まさかあいつがあんな姪馬鹿になるとは思ってもみなかったぜ……孫馬鹿の親父こと言えないんじゃないか、あいつ……」
「あ、フーマー!! 香月――――!! あたしの愛しの家族たち――――!!」
「え? って、う、うわぁ!? あ、茜!?」
突如、馬鹿みたいな速度で歩道を駆け抜けてきた紅い髪の女が……オレたちに飛び掛かって来た。
そして、香月を抱くオレをそのまま抱きしめると、その暴君は満面の笑みを浮かべる。
「お仕事、終わったよー!! 二人ともー!! 早く帰ろ、帰ろ~!! フーマの作ったご飯、食べよ~!!」
「ちょ、あ、茜!! 通行人、みんなこっち見てるから!! あのアジア人の家族、何なんだって、見てるから!!」
「うるっさいわねぇ~。あ、そうだ、フーマ、今日は二人目、チャレンジするわよ!! あたし、ヤる気満々なんだから!!」
「あの、娘の前でそういうこと言うの、やめてくれる!?!? あとお前は一応世界に名を馳せるハリウッド女優サマなんだから、もうちょっと周囲に目を配れ!! スキャンダル狙ってるパパラッチが常にお前をストーカーしてるんだからな!!!!」
「スキャンダル? って、例えば?」
「……浮気、とか?」
「は? あたしが? あるわけないじゃない。あたしはぁ、昔から、フーマ一筋なんだからっ♡ ぶちゅーっ!! ちゅっ、ちゅっ、ちゅー!!」
「ぷはっ、ちょ、やめて!! 外でそれするの、やめて!!!! 連続してキスしてこないで!!!!」
「おかーさん!! お、おとーさんにちゅーするの、やめてよ!!!!」
周りの目も憚らずキスしてくる怪物を、娘が止めてくれる。
おぉ、香月が常識人で助かったぁ。茜みたいな化け物にならなくて良かったぁ。
「おとーさんは、あたしのものだから!! おかーさんはもうみそじ? なんだから、わかいあたしにはかてないの!!」
「え? 何言ってるの? 香月ちゃん?」
「ほう? 香月、このあたしからお父さんを奪おうっての? 上等じゃない。まっ、あんたみたいなちんちくりんが、このハリウッドスターであるあたしに、勝てるとは思わないけど? いつでもかかってきなさい~がっはっはっは!!」
「ルリカおばちゃんの意志を継ぐのは、あたしなんだから!! おかーさんにはまけないもん!!」
大天使ルリカエルさんや、大天使カヅキエルに何て意志を継がせてるんですか?
睨み合う、茜と香月。
オレはそんな愛しの家族二人に対して――――心から、幸せな笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
すいません、第二部やると言いながら、ボロボロと剥がれて行くフォローにメンタルが続かなそうなので……先に、どうしても書きたかった香恋ルートをやらせてもらいます! 茜ルート、まだ香恋とあずさの和解だとか、樹のその後だとか、南沢家と茜の確執だとか、色々と書いてないところが多いのですが、いったん、ここで区切りとさせてもらいます。第二部の物語はいずれ書きたいと考えていますので、お待ちいただければ幸いです!
茜ルートは、読者さまの応援のおかげでここまで書ききることができました!
みなさまに楽しんでいただけたら、幸いです!!
香恋ルートは、自分がずっと書きたかった物語ですので……!!
楽しんでいただけるかは分かりませんが、ぜひ、読んでくださると嬉しいです!!
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