第11話 女装男、食堂に行く
「な、何だったんでしょうか、今の人は‥‥」
先程渡されたSNSの「レイン」のアドレスが載った紙を片手に持ちながら、去って行くイケメン女とその取り巻きの女生徒たちを、オレはその場に立ち尽くし呆然と見つめる。
そんなオレの隣から、穂乃果がこちらに顔を向け、小さく声を掛けてきた。
「あの人気っぷりを見るに‥‥多分、あの方は三年生の『お姉さま』なのではないかと思いますです」
「三年生のお姉さま?」
「はいです。この学校で絶大な人気を集める生徒は、自然と『お姉さま』と呼ばれるようになる‥‥そのことは、お姉さまにバスの中で話ましたよね?」
「え、ええ、そうですね。この学校には、最も尊敬する先輩一名をお姉さまと呼ぶ伝統がある。そう、穂乃果さんは仰っていました」
「ですです。基本的に『お姉さま』は、二年生と三年生の学年に一人ずつ、各学年を代表する学級委員長のように一名、居るみたいなのですよ~。ですから人気者のあの方は、三年生のお姉さまなのではないかと、そう思ったんですっ!」
なるほど。確かにあの人気っぷりを見るに、彼女が『三年生のお姉さま』とやらに間違いはなさそうだな。
しかし‥‥銀城 遥希、か。正直言って、知らない顔だな。
基本的に有名な女優の名前は一通り知っているつもりだったんだが、「銀城 遥希」という名前の女優を、オレは今まで一度も聞いた覚えが無い。
周囲から人気を集めている様子からしても、流石に無名ではないと思うのだが‥‥どんな役者なのだろう、あの先輩は。
少し、その謎めいた実力には興味が惹かれるものがあるな。
「あっ! お、お姉さま、心配なさらないでくださいねっ! 穂乃果にとってのお姉さまは、如月 楓さま、貴女様以外に考えられませんからっ!! ご安心くださいっ!!」
そう言ってキラキラと瞳を輝かせてこちらを見つめてくる、栗毛色の髪のお団子少女。
いや‥‥その点に関しては心配してないよ‥‥穂乃果ちゃん。
むしろお姉さまだなんて呼ばれたくないんだよ、オレは。普通に名前で読んで欲しいです、はい‥‥。
そう心の中で呟き、疲れたため息を吐いた後。
オレは穂乃果と共に、雑談を交わしながら廊下を進み、食堂へと向かって行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一階に降り、食堂に入ると、そこには豪勢で広い空間が広がっていた。
天井からは煌びやかな装飾の付いたシャンデリアが吊るされており、室内の奥まで続く三列の長机リフェクトリーテーブルはマホガニー製の高級仕様のもので、足元に広がるふかふかな絨毯には、金の刺繍で植物の文様が描かれている。
まるで、オクスフォード大学のグレート・ホール‥‥ハリ〇タに出てくる食堂のようだ。
その光景に、オレと穂乃果は「はぁ」と、同時に感嘆の息を溢してしまう。
「す、すごいですね、お姉さまっ! 私、こんなに広い食堂、見たことがありませんよぉうっ!」
「そうですね。流石は日本屈指の財閥【花ノ宮家】が運営する学校。各所に莫大なお金をつぎ込んでいることが察せられます」
「こんなに大きい食堂だと、どこの席に友達が座っているのか分からなくなりますよぅ~‥‥」
「あっ、お友達はもう食堂にいらしているのですか?」
「はいです! さっきレインを開いたら、先に席を確保しているとメッセージがきていたので、もう既に食堂にいるとは思うのです‥‥でも、こうも人がいっぱいだと、どこに座っているのか見当も付きません~~っ!!」
そう言って穂乃果は「はわわわ」と、慌てふためくようにキョロキョロと食堂を見渡し始める。
その時、食堂の奥の方から、大きな声が聴こえてきた。
「穂乃果ー!! こっちこっちー!!」
その声が聴こえてきた場所に視線を向けると、そこには、大きく手を振る金髪ギャルの姿があった。
その姿を確認した穂乃果は、ぱぁっと、満面の笑みを浮かべる。
「あっ、いたっ!! お姉さま、ついてきてくださいですっ!!」
手を引っ張る穂乃果についていき、オレは食堂の最奥にある四人掛けの丸いテーブル席へと辿り着く。
そこには、胸元を盛大に開けた金髪ロングヘアーのギャルと、眠たそうな目をしたオカッパ頭の少女が座っていた。
二人はオレの姿を瞳に捉えると、驚いたように目を丸くさせるのだった―――――――。
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