主人公視点 1

「おはようりんさん」


 僕がいつものようにスマホを向けると、りんさんが、


「あ……おはよう、ございます」

「うん。おはよう」


 さて自分の席に座って……違和感。


 あれ……? なんか今の会話、おかしくなかったか……?


 いつもやっている工程を1つ飛ばしたような……


「あれ……日本語……?」


 りんさん……今、日本語を話さなかったか……? 気のせいか?


 いや……違う。気のせいじゃない。りんさんの緊張した面持ちを見ていれば、それがわかる。


「イい、テンキですね」

「そうだね」カタコトだけれど、しっかり伝わってくる。「すごい……いつの間に……」

「ベンキョウ、しました」


 それはきっと……かなりの量の勉強だったのだろう。


 少し前までまったく日本語が話せなかった彼女が……ここまで話せるようになるなんて……


「ア、アノ……」りんさんはカバンの中から、封筒を取り出して、「これ……」

「……?」封筒を受け取って、「これは……?」

「あ……その、ヨんでほしい」


 それだけ言い残して、なぜかりんさんは教室を出ていった。

 顔が真っ赤だった気がする。やはり母国語以外で喋るのは、それほど緊張することなのだろうか……


 その封筒は……茶色の封筒だった。業務的というか……お金とか入ってそうなタイプの封筒。


 一瞬ラブレターかと思ったが、違うだろう。さすがに素っ気なさすぎる。


 じゃあなんだろう……? 疑問に思いながら、僕は封筒を開けた。


 中から、小さい紙が出てきた。細長い……手紙、だろうか。


 その紙には、一言だけ文字が書かれていた。

 拙い……だけれど丁寧なのが伝わってくる文字で、


『月がキレイですね』


 ……


 ……?


 窓の外を見上げてみる……しかし、月なんて見えない。太陽しか見えない。


 当然だ。だって今は朝なのだ。ホームルーム前なのだ。月なんて、そうは見えない。


 ……なんだろう……彼女は僕に、何を伝えたかったのだろう。


 夜に読むべきものだったのか……? 僕がなにかしら、彼女の言葉を聞き取れていなかったのか……?


 月……月……

 

 ……うーむ……?

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