幽霊視点 2

『✕✕✕✕✕✕』その教師も、どうやら韓国語が話せるようだった。『✕✕✕✕✕✕』

『✕✕✕✕✕✕』


 なにかしら会話を済ませて、教員は去っていった。


 ……あの女性教員は、私の姿が見えていない。なのにおとなしく帰っていった。


 それは盧羅のらちゃんが「私は一人だ」と嘘をついたのか……教員が私のことをイマジナリーフレンドだとでも勘違いしたのか……

 

 ともあれ、なかなか優しそうな教員だった。私の親友教員みたいな人かもしれない。


「あ、あの……」盧羅のらちゃんは引き続き私に話しかける。「えっと……その……」

「焦らなくていいわ」あの教員も気になるが……まぁ後回しだろう。「ゆっくり、ゆっくり」

「……?」相変わらずリスニング力に問題があるようだった。「あの、トモダチ……」

「友達……?」友達がどうしたのかと思ったが、「……私のこと?」

 

 私と友達になりたい、ということだろうか。


 ……


 どうしよう。普段なら断っているところだ。

 私は、幽霊なのだ。この世に存在しないのだ。だから私なんかと友達になっても、彼女が幸せになれない。


 ……

 その私の意思を、どうやって彼女に伝えるんだ? 難しい言葉を使っても、彼女には伝わらないだろう。そもそも私の言葉は回りくどいのだから。


 ……


 悩んだ末に。


「OKよ」しっかりとジェスチャーでうなずいて見せる。「これからよろしく、盧羅のらちゃん」

「え……」なぜか盧羅のらちゃんが驚いていた。「OK……?」

「そう」なんだか子供と話してるみたいで微笑ましい気分になる。いや……子犬か? 「私とあなたは、友達」

「トモダチ……」なんだか彼女は照れくさそうに、「ハジメテ、トモダチ」

「はじめて……?」なんだか意外だ。これだけかわいければ、寄ってくる男子くらいいるだろうに。「……」


 ……彼女はもしかして、クラスで孤立しているのだろうか。だから、こんな空き教室に来たのだろうか。

 日本語が話せないから孤立しているのだろうか……教員がサポートできる範囲だと思うが……


 ……なんでこの子は、こんなにも私に執着するのだろう。本当に初めての友達なのだろうか……?


「ねぇ……あなたは……」聞き方は迷った。かなり繊細な話題だろうから。「クラスには、慣れた?」

「あ……ごめんなさい……」


 ふむ……彼女から情報を探るのは難しそうだ。

 現在の彼女の日本語力は、覚えた単語を喋る程度。赤ん坊くらいのものだろう。聞き取る力が決定的に欠けている。


 彼女のことを詳しそうな人に、話が聞きたい……





 そうして彼女と少し会話をして、そのまま別れた。

 

 窓の外は、すでに暗くなっていた。彼女としても、夜遅くまで学校にいるわけにはいかないのだろう。


 さて……彼女について詳しく知りたいのだけれど、そうなると幽霊の体というのは不便だ。この教室から出ることもできないし、誰かに話しかけることも難しい。


 迷っていると、


「お邪魔します」先程盧羅のらちゃんと会話していた教員が、「高美たかみさん……?」

「ここにいるわよ」

「えーっと……」やはり私の声は聞こえていない様子だった。「とりあえず……ありがとう。いむさんの話し相手になってくれて」


 それから教員は頭をかいて、


「って……本当にここにいるのかな……高美たかみさん……」


 いるのだけれど……それを伝えるのが難しい。


 ……そうだ。

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