17 ハジメテ、トモダチ

ヒロイン視点

 なんとか追試をパスして、また日常に戻る。


 追試はかなり緊張した。落とせば留年……つまり彼と同じ学年に進級できなくなってしまう。

 それは嫌なので、かなり努力した。ほとんど回答丸暗記だったけど……まぁしょうがない。


 そういえば彼も追試の会場にいたけれど……大丈夫だったのだろうか。私がいる教科のすべての教室にいた気がするけれど……


 まぁ……たぶん彼は余裕だったのだろう。追試会場でもいつも通り飄々としていたし……

 

 それにしても彼は大物だ。追試で落ちれば留年の確率が高いというのに、いつも通りだった。不安そうな様子も気負う様子もまったくなかった。


 彼のメンタルの強さ……見習わなくては。


 強い心を持って、彼以外の誰かに話しかけないといけない。そうしないと成長できない。


 話しかけるなら、優しそうな人が良い。私がうまく話せなくても受け入れてくれそうな人……


 周囲を伺ってみるが、なかなか見当たらない……というより、私の勇気が出ない。きっと皆……話しかければ優しく受け入れてくれるとは思う。

 だけれど……私が勝手に怖がっているのだ。自分勝手にも相手に恐怖を抱いているのだ。


 なんとかこの恐怖を乗り越えなければ……


「……」


 そう思っているうちに放課後になってしまった。結局誰にも声をかけられないまま、本日の学校が終了してしまった。


 ……部活でも入ろうか……そうすれば仲間が……


 いや、その部活の雰囲気を壊してしまいそうで怖い……そんな事を考えて尻込みしているうちに、また時間が経過してしまう。


 夕日が差し込んできた。いつもなら帰っている時間なのに、余計に長居してしまった。


『……帰ろ……』


 なんだか勝手に意気消沈して、席を立つ。


 そのまま家に帰ろうと廊下を歩いて、


『……?』


 普段なら気にならない教室が、なぜか目に止まった。


 プレートにはなにも書かれていない。おそらく空き教室。誰もいないはずの教室。


 とくに意味なんてなかった。ただなんとなく、このまま帰るのが嫌だっただけ。


 扉に手をかけたら鍵がかかってなくて、なんの抵抗もなく開いた。


『あ……』


 その窓辺に、女性が腰掛けていた。


 夕日に照らされた、美しい女性。学校の制服を来ているが……この学校の制服ではないようにみえる。


 なんとも幻想的な光景だった。儚げな少女が、夕日に照らされて窓辺に座る……ただそれだけなのに、非現実的なほど美しかった。


「……」彼女はこちらに気づいて、「✕✕✕✕✕✕?」


 当然日本語で話しかけてくる。 

 パニックになりかけたが……これはたしか『こんにちは』という言葉だった気がする。


「こ……」勇気を振り絞って、日本語で喋ってみる。「こん、にちは……」


「✕✕✕✕✕✕」なんとも妖艶な笑顔だった。同じ高校生とは思えない。「✕✕✕✕✕✕?」

『あ……』長く喋られると、まったく聞き取れない。『……す、すいません……私、日本語が……』


 韓国語で話しかけたって意味はない。日本で韓国語が通じる人間は少数だ。洒落しゃらく先生が例外なのだ。


 慌てて、私はスマートフォンを取り出す。そして自分の声を吹き込んで、日本語に翻訳。そして彼女に見せた。

 内容は『私はまだ日本語が話せない』というもの。


「……」彼女はその画面を見て、「✕✕✕✕✕✕」


 何を言っているのかはわからないが、納得してくれたようだった。


 そうして、今度は日本語を韓国語に翻訳する設定にする。そして彼女にスマホを向けて、


「✕✕✕✕✕✕」


 彼女の声を翻訳、したはずだった。


『あれ……?』文字が画面に写っていない。翻訳失敗かと思って、もう一度喋ってもらうが……『……?』


 どうしても彼女の声が翻訳できない。というより、認識すらしてくれない。


 ……アプリの故障だろうか……ともあれ、なんとかして会話しないと……

 そうだ。そもそも日本語の練習として誰かに話しかけるつもりだったじゃないか。だから、ちゃんと日本語を使わないといけない。


 この教室には、彼女以外に人がいない。だから、練習にはうってつけかもしれない。優しそうな人だし……


 と、友達になって、くれるかな……


 勇気を振り絞って、練習していた日本語を使ってみる。


「は……はじめまして……ワタシ、いむ盧羅のら……」

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