ヒロイン視点

 しばらく保健室にいて、私の体調もかなり良くなってきた。

 保健室の先生にお礼を言って、教室に戻る。


 そうすると、また彼が話しかけてきてくれた、


「✕✕✕✕✕✕」【私への愛を、文学的に表現しなさい】


 彼がおかしくなってしまった。いや……最初からこんな感じだったっけ……?


 ……彼への思いを、文学的に……


「……降り注ぐ眩しい笑顔は、太陽にように……ほがらかで……」

 

 恥ずかしくなってきた。私の彼に抱いている幻想を、なんで文学的に話さないといけないんだ。


「✕✕✕✕✕✕」【その程度か?】


 その程度じゃないもん。私の想いはもっと……もっと深いもん。口下手だから伝えられないだけだもん。


「✕✕✕✕✕✕」【私はチャンスを数回与えましょう】


 ……その間に口説き落とせってことか……いいだろう。やってやろう。


「……あなたの優しさは、まるで木漏れ日のようで……私を優しく包み込み……」

「✕✕✕✕✕✕」【もっと宇宙の帝王のように】

「お、おっほっほ……この私を敬愛する権利を差し上げましょうか……?」

「✕✕✕✕✕✕」【宇宙のタケノコみたいに】

「ニョキニョキ……わぁ酸素なーい」


 なに言ってんだ私。酸素なーい? ニョキニョキ? 気でも狂ったのか? 


 いや……今のは彼の無茶振りが悪いだろう……宇宙のタケノコみたいにってなんだ。昭和の感覚派映画監督でもそんなこと言わんだろうに。


「✕✕✕✕✕✕」【ユーモラス】


 どこが? ニョキニョキ……わぁ酸素なーい、のどこがユーモラス? どこにユーモアがあったの?


 なんだか彼すらも顔を赤くしている。私も顔が赤い。あまりにもスベって、顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。


 そして私のスベったギャグを聞いた彼も顔を赤くしている。

 どうやら相手の羞恥心も掻き立てるくらいにはスベったらしい。


「✕✕✕✕✕✕」廊下から咳き込みが聞こえてきた。誰かがむせたようだ。【私のお手本を見てください】


 お手本……? なんのお手本?


 ……宇宙のタケノコの、お手本?


「✕✕✕✕✕✕」【その選手権の優勝者です。あなたは下手です】


 ……


 宇宙のタケノコ選手権? なにを……なにを競うの? 宇宙のタケノコっぷりを競うの?


 ……その選手権で、優勝したの? 


 というか私のタケノコが下手と言われても……


「そ、そんなこと言われても……あなたが言えっていうから……」


 宇宙のタケノコみたいに言えっていうから……


「✕✕✕✕✕✕」【もっと私への愛を伝えなさい。配点は50点】


 落とせない……絶対に落とせない……宇宙のタケノコ選手権も気になるけど……今は後回しだ。


「……空に浮かぶあの雲から……私はあなたを連想します……」

「✕✕✕✕✕✕」【これがタンポポです。生えます】


 なんて? なんで意味の分からない言葉を一度挟んでくる?


「✕✕✕✕✕✕」【まだまだです。私の満足】


 まだ愛を伝えないといけないらしい。


「雲間の太陽のように、あなたは眩しいです……」

「✕✕✕✕✕✕」【それは最高の名誉です。エリンギです】


 ……エリンギ……?


 ……


 ……なんでエリンギ……?


 というか……なんで私は彼への思いを下手くそな文学的表現で伝えることになったのだろう……


 言葉は、苦手だ。難しい言葉はよくわからない。


「✕✕✕✕✕✕」【このままでは、しめじです】


 エリンギからしめじにランクダウンした……いや、ランクダウンなのか? アップなのか? わからん。


 ……


 やはり言葉というのは、ストレートに伝えたほうがいいと思う。


 私がもっと言葉が上手ければよかった。だけれど、それは叶わぬ願い。それに……翻訳ソフトを通じて伝わるとも思えない。


 やはりここは……できる限りシンプルに。


「私は……やっぱり……あなたが、好きみたいです」


 その私の最後の言葉は、きっと正確に翻訳されなかっただろう。正確に翻訳されていたら、困る。

 この言葉が伝わって、今の関係が崩れるのが怖いのだ。


 とはいえ……もっと彼とお近づきになりたいという思いもある。


 ああ……


 恋煩いだ。

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