10 あるいは、太古のケルベロスの飼い犬座です

主人公視点

「✕✕✕✕✕✕」【私は大掃除をします】


 留学してきたばかりで、大掃除をするくらい物があるのだろうか……


 しかしまぁ……キレイ好きなのかもしれない。翻訳ソフトの都合で、大きな掃除が大掃除と訳されたのかもしれない。


「へぇ……どこを掃除するの?」

「✕✕✕✕✕✕」【汚職政治家です】

「そういう掃除?」


 想定外の掃除だった……世の中の掃除だった。家のホコリとかじゃなかった……


「そ、そうなんだ……」りんさん……殺し屋だったりするのか? そのために日本に……?「ち、ちなみに……誰、を?」

「✕✕✕✕✕✕」【◯◯◯◯◯です】

「ヤバいってそれは」


 大物政治家の名前出さないで。清廉潔白で売ってる政治家の名前出さないで。シャレになんないから……


「あ、あんまり人前で言わないほうが……」

「✕✕✕✕✕✕」【必要な情報共有だと考えます。相棒】

「僕もやるの?」


 いつの間にか相棒になってた。え……? ◯◯◯◯◯を掃除するの? 僕も?


「それはさすがに……りんさんの頼みとはいえ受けられないよ……」

「✕✕✕✕✕✕」【では諦めます。お風呂場に移ります】


 急に平和になった。政治家の掃除からお風呂場の掃除になった。


 ……政治家の掃除、というのはなんらかの誤訳だろう。そうに違いない。うん、きっとそうだ。聞かなかったことにしよう。


「お風呂場かぁ……熱中症には気をつけてね」

「✕✕✕✕✕✕」【それは私が根絶やしにしました】

「熱中症を?」


 そんなことできるの? この夏の熱中症患者はゼロになるの? 神様なの? 超常的な力を持っているの?


「す、すごいね……」

「✕✕✕✕✕✕」【それはあなたの力だと考えます】


 なぜ僕……? いつに間に僕は熱中症を根絶やしにしたんだ? いつそんな力を身に着けたんだ……?


「✕✕✕✕✕✕」【さすがは我がライバルです。私の好敵手及びUSB扇風機です】


 USB扇風機なのか……ライバルまではわかるけれど……って、別にライバルでもない。ただの知り合いだ。


「せ、扇風機ってすごいよね……あれがあれば、夏場も安心……」


 なんでこんな会話になっているのだろう……今日は……本当に会話がよく飛ぶ。ついていけない。


「✕✕✕✕✕✕」【ジャルドードカタパルトウィーズとはなんですか?】

「こっちが聞きたい」


 ジャルドードカタパルトウィーズってなんだ? どこで区切るんだ? 何語だ? なにもかもわからん……


「✕✕✕✕✕✕」【そういうことならば、軽井沢ですね】

「軽井沢が好きなの……?」

「✕✕✕✕✕✕」【ライスにはマヨネーズです】

「ああ……あれ、美味しいよね」

「✕✕✕✕✕✕」【世界をすくいますか?】


 話題を統一してくれ。いつもりんさんの話は飛びまくるが、今日は酷い。


 統一感というものが、なさすぎる。驚異的に統一感がない。

 殺し屋稼業に始まり、お風呂場の掃除の話になり、熱中症の話になり、ライバルの話になり、USB扇風機の話になり、最後にはジャルドードカタパルトウィーズの話になった。


 ……


 もしかして、僕たちの会話って意味不明か? 僕たちの会話を他の人が聞いたら、頭を抱えるんじゃなかろうか……

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