ヒロイン視点

「昨日は……星がキレイでしたね」


 昨日の夜、なんとなく夜空を見上げた感想だった。


 彼と一緒にこの夜空を眺められたら、もっと幸せだろうと思った。だから、せめて星空の美しさを共有しようと思った。


「✕✕✕✕✕✕」【警察の犬座ですか?】

「そ、そんな星座が……?」


 どうしよう……別に私は星座に詳しいわけじゃない。ただ、なんとなく眺めてキレイだったというだけで……


「✕✕✕✕✕✕」【私は柴犬座が良かったです。あるいは、太古のケルベロスの飼い犬座です】


 犬座にそんなに種類が……? こいぬ座とかおおいぬ座なら聞いたことあるけど……


「✕✕✕✕✕✕」彼は星が好きなのか、さらに続ける。「✕✕✕✕✕✕」【あなたは柴犬が好きですか? それとも、秋田?】

「えーっと……」


 どう答えれば……? ちょっと選択肢が多すぎる……

 

 柴犬と秋田犬を比べればいいのか? それとも柴犬座と秋田犬座を比べればいいのか? それとも柴犬と都道府県を比べるのか?


 迷ってるうちに、彼は続ける。なんだか焦っているように見えた。


「✕✕✕✕✕✕」【犬座か柴犬座か秋田県座?】


 広いのか狭いのかよくわからない……なんでその3択なんだ……? なんで最後だけ都道府県なんだ? 変換ミス?


「✕✕✕✕✕✕」【間違えました。世界で一番美しいのは、犬座、柴犬座、あなたですか?】

「なぜ星と比べるんですか……」


 ちょっとベクトルが違うだろうに……


 というか、今日の会話、狭いぞ……いつも話題が飛びまくるのに、今日は星の話題しかしてないぞ。

 この話題に登場している星は、実在するのか? たぶん、しないんだろうな。また意味不明な会話をしているのだろうな。


 だがそれがいい。


「✕✕✕✕✕✕」【僕の答えは警察の犬座です】


 またライバルが増えた。警察の犬座も超えないと彼の心は射止められない。


 しかし……架空の星座なんてどうやって超えればいいんだ? 超えるとかいう概念が存在するのか?


「✕✕✕✕✕✕」【それは便座ですか?】

「話題が変わったのか変わってないのか……」


 星の話から急にトイレの話題になったのか? それとも、便座という星座があるのか? 

 あるいは……ダジャレか? 突然のダジャレか? 笑ったほうがいいのか?


「✕✕✕✕✕✕」【便座は宇宙に飛び立ちますか? あるいは宇宙は便座にありますか?】

「……否定はできませんが……」


 宇宙の全貌なんて、まだ誰も解明できていない。ならば、宇宙が便座の中にあってもおかしくない……? おかしくないのか?

 もうなにがおかしくておかしくないのか、わからなくなってきた。


「✕✕✕✕✕✕」【宇宙の創造主たるあなたが、宇宙を生み出すことができます】


 そんなことできるの? いつの間に私はそんな能力を……


 って、そんなわけがない。自分にそんな能力がないことは、自分が一番理解している。


「✕✕✕✕✕✕」【8次元王者の私のライバルとしては、ふさわしい。クックック】

「……なん……え?」


 ついにリアクションもできなくなってしまった。


 8次元王者? ライバル? クックック? 彼は何を言っているんだ……?


「……あ、ありがとうございます……?」


 なにに対してお礼を言ったのだろう。ライバルとして認めてくれたからだろうか。

 

 ……恋人じゃなくてライバル……やはり私は恋愛対象ではないらしい。


「✕✕✕✕✕✕」【それはそれとして、飼い犬座に手を噛まれました】


 星座に? 星座に噛まれたの? 地球の危機訪れてない? 大ニュースになってない?


「だ、大丈夫なんですか……?」

「✕✕✕✕✕✕」【常闇の迷宮を突破することにより、軽井沢から蘇りました】

「か、軽井沢……?」


 なぜ軽井沢? 軽井沢に常闇の迷宮が……? 常闇の迷宮って何?


「✕✕✕✕✕✕」【かの迷宮は私に成長を与えます】

「そ、それは、よかったです……」

「✕✕✕✕✕✕」【しかし、かの迷宮は私に成長を与えます】

「……よかった、です……?」


 なんで同じことを2回言ったの? しかしの使い方あってる?


 ああ……ツッコミが追いつかない……

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