ヒロイン視点 2

 変な夢を見ていた。王子様が私を担いで、なにかから助けてくれる夢。


 夢の中の私は、何かに苦しんで怯えていた。それは孤独か恐怖か……わからないけれど、とにかく怖かった。


 だけれど、彼がいたから耐えられた。泣かずに済んだ、気がする。


「……」


 目が覚めて、個々が自分の寝室ではないことを理解する。


 真っ白な天井だった。そして同じく白いカーテンに囲まれた場所だった。


「……?」立ち上がろうとして、「っ……」


 頭が重い。冷却シートが額に貼ってある。しかも、制服じゃなくて体操服を着ている。さらにその体操服は、私のではない。


 ……状況が把握できない……私はいったい……


「……✕✕✕✕✕✕?」不意にカーテンが開いて、女性教員が顔を出した。「✕✕✕✕✕✕?」

「あ……えっと……」


 日本語がわからなくて困っていると、


「ああ……ごめんごめん」女性教員は流暢な韓国語を話し始めた。「体調はどう?」

「あ……その……」

「立たなくていいよ。寝転んどいて」

「はい……」お言葉に甘えて、寝たまま対応する。「……なんだか……頭が痛いです……それに、体も……」

 

 節々が痛い。筋肉痛というかなんというか……とにかくダルい。 


「そりゃ、あんだけ熱があればねぇ……」失礼、と女性教員は私の首元に手を当てて、「ん……だいぶ下がったね。でもまぁ……もうちょっと休んでいったほうがいい」

「休むって……ここ、どこですか?」

「え……? ああ……」女性教員はどこから話すか迷ってから、「朝くらいに……保健室に担ぎ込まれたことは覚えてる?」

「……保健室……?」どうやらここは保健室らしい。そりゃそうか。「いえ……あんまり……」

「……んー……その時点で意識が怪しかったのかな……」女性教員は手元の紙にメモを取りながら、「覚えてる記憶の中で、最新の記憶は?」

「えっと……」必死に記憶を辿って、「……学校の教室に座って……」


 座って……どうしたんだっけ? 

 

 あれ……そもそも、家を出た記憶もあやふやだ。視界にモヤがかかっているかのようだった。


「ああ……学校の教室で、隣の席の人が話しかけてくれて……」なんだか褒められた気がするけれど……どんな会話だったかな……「あ……そうだ。そこで、意識が薄れて……」

「そうみたいだね」女性教員はメモから私に目を移す。「たぶん……溜まってた疲れとか緊張とか、そういうのが一気に出たんだと思う」


 疲れ……緊張……


 自分では気づいていなかったが、疲れが溜まっていたのだろうか。知らない国で生活することにストレスがあったのだろうか。


「今度から……つらくなったらここにおいで。静かな場所が必要なら、いつでも来たら良い」

「……ありがとうございます……」


 たしかに、静かな場所が必要かもしれない。教室にいると、知らない言語が飛び交って怖いから……

 こうやって倒れでもしたら、また誰かに迷惑が……


「あ……」そういえば……「あの……私を保健室に運んでくれたのは……誰ですか?」

「ああ……そういえば名前は聞いてないけど……優しそうな男の子。機械翻訳で話してるって言ってたけど……」

「なるほど……」間違いなく隣の席の彼だろう。「ありがとうございます……あとで、お礼を言っておきます」


 ……


 私を保健室に連れてきてくれたのは隣の席の彼……

 じゃあ……私が夢で見た王子様って……


 ……


「つかぬことを聞くけど……」洒落しゃらく先生は言う。「その彼のこと、好き?」

「……」……彼のことが私は……「正直言って……わかりません……好き、だとは思うんですけど……」

「ほう……」

「でも……私と彼は、使う言葉が違います。彼の話していることを、私は完璧には把握してない……」

「翻訳ソフトを使ってるんでしょ? じゃあ、ある程度は伝わってるはず」

「そうなんですけど……幻想に恋をしてる感覚と言いますか……」

「幻想?」


 そう……幻想だ。自分で言って、納得した。


「私は彼に幻想を抱いてるんです。彼は優しくて安定してて……カッコよくて……そんな人であってほしいと、勝手に思ってるんです」


 でもそれは幻想。翻訳ソフトが作り出した口調から読み取った……架空の彼なのだ。


 彼の……本当の声が聞きたい。彼の母国語で会話したい。


 なんで私は……彼と同じ国に生まれなかったのだろう。


「それに……」なんだか恥ずかしくなって、「彼は私のこと、好きじゃないと思います……」

「……」

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