主人公視点 2
……
そのまま、僕は保健室に駆け込む、
「はいよー」
カーテンを開けて登場したのは、わが校の保健室の先生。
いつも柔和な笑みを携えていて、大抵のことは適当にはぐらかす。でも、いざという時は一番頼りになる先生である。
年齢不詳の、謎の教員。同級生と言われても信じそうなくらい若々しい。
名前はたしか……
「おっと……」
「はい」
言われるがまま、僕は
「……」
そのまま
「ちょっとカーテンの外に出ておくれ」
「え……?」頓狂な声を出してしまったが、「あ、わかりました。すいません……」
治療のために服を脱がせる場面があるのだろう。異性である僕がいないほうがいい。
カーテンの外に出て、僕は……待っていた。ただ、待つことしかできなかった。
しばらく時間が経過して、
「終わったよ」
「あ……」もっと早く連れてくるべきだった、という後悔がある。「あの……大丈夫、なんですか?」
「重大な病気じゃないと思う。何度も繰り返すようなら、病院で診てもらう必要があるけどね」
「じゃあ……えっと、風邪か何か、ですか?」
「風邪と言ったら風邪かもしれないけど……」
「疲れ……」
「そう」
噂になっているらしい。そりゃそうか。
僕がうなずくと、
「いきなり異国に来て、言葉も通じない。新しい生活に慣れるのも大変だ。そんな中で毎日学校に来て、知らない言葉が頭上を飛び交って……怖かっただろうね」
「……怖い……」
知らない言葉が頭上を飛び交う。自分の知らない言葉でしか会話ができない。
その状況は、どれほど恐怖なのだろう。それが1日や2日ではない……ずっと続いているのだ。
いったい
しかも……僕は……彼女に話しかけてしまっていた。
彼女の知らない言葉で、毎日話しかけた。無配慮に、自分の下心のためだけに。
彼女からすれば、怖かっただろう。恐怖だっただろう。
「僕のせい……ですね……」思わず、声に出してしまった。「僕……彼女に話しかけちゃいました……彼女の国の言葉がわからないのに……なのに……」
「……」
「あ……えっと、翻訳ソフトで……」
「じゃあ、的はずれなことは伝わってないだろうし……キミの配慮は彼女にも伝わってる。原因はキミじゃないよ」
「でも……」
「むしろね……孤立させないてあげな。1人でいることと孤立してることは違うから……」
1人でいることと、孤立していること。
僕にはまだ、難しい言葉だった。その2つの言葉の違いが、いまいちわからない。
「さて……キミは教室に戻りな。そろそろ、1限目が始まるから」
「でも……」
「大丈夫。彼女も落ち着いてきてるし……今日は私、1日時間があるから。ちゃんと彼女のことは見守っておくよ」
「……」
僕が不服そうな顔をしていると、
「最近はこういうことを聞くと問題になるのかもしれないけど……キミ、彼女のこと好きなの?」
「……」そこまでストレートに聞かれると……「……おそらく……そう、ですね」
僕が彼女に抱いている感情……それはきっと、恋なのだろう。
でも……でも……
「彼女は僕のこと……好きじゃないですよ」
「そう言われたの?」
「いえ……そういうわけでは……」
直接言われたわけじゃないけど……だけど……
「まぁ、なんとなくわかったよ」
……それはそれで、ちょっと恥ずかしいけれど。
とはいえ、教室に戻ったところで授業には集中できないだろう。
ここはお言葉に甘えさせてもらおうか。
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