主人公視点 1

 朝に登校してきて、隣の席の違和感に気がつく。


 りんさんが頬杖をついて、ユラユラと揺れている。目がトロンとしていて、今にも崩れ落ちそうな状態だった。


 寝不足なのだろうか……


「おはようりんさん。寝不足?」


 りんさんはうつろな目でこちらを見る。


 顔が、赤い。呼吸も乱れている。

 翻訳された文字を見て、さらにりんさんは顔を赤くした。


「✕✕✕✕✕✕」【タコにメロンはありますか?】

「ないと思うけれど……」


 そんなことより、あきらかにりんさんの様子がおかしい。


 もしかして……


りんさん……熱があるよね?」

「✕✕✕✕✕✕」


 りんさんは頑張って返答してくれているようだが、その言葉が翻訳されることはなかった。スマホまで、声が届いていない。

 声を出すのも辛いほど、体調が悪いようだ。 


「ほ、保健室……行く?」


 提案してみるが、返答がない。文字を見るのも不可能なレベルらしい。


 どうしよう……りんさんは歩ける状態じゃなさそうだ。保健室に連れて行くのなら……


「待ってて。先生を呼んでくる」

「✕✕✕✕✕✕」


 彼女がなんて言っているのか、それを確認する前に僕は立ち上がる。

 早く先生を呼んでこないと……そうじゃないとマズイ。見るからに、りんさんの体調は最悪だ。


 立ち上がって走り出そうとした瞬間だった、


「……りんさん……?」


 彼女の腕が、僕の腕をつかんでいた。震える手で、しっかりと掴んでいた。


 ……熱い……りんさんの手が尋常じゃないほど熱い。相当な高熱にうなされているようだった。


 手を掴まれた拍子に、スマホが落ちる。

 画面には、りんさんの言葉が翻訳されて映し出されていた。


【行かないで】


 ……


 足が止まってしまった。本当は保健室の先生をいち早く呼んでこないといけないのに……


 迷った末に、


「ごめん……!」


 僕はりんさんを担いで、教室を出た。視線が僕に集まったが、気にしてなんていられない。


 無我夢中で保健室を目指しているときに、少しだけ思った。


 これ……お姫様抱っこでは?

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