主人公視点

 謎の留学生美少女。そんな人が転校してきて、隣の席になる。


 そんなことはラノベの中の話だと思っていた。まさか僕の身に、こんな幸運が舞い降りてこようとは。


 彼女は突然転校してきた。担任の教師が彼女の紹介をしているが、僕の耳には入らなかった。


 僕は彼女ほど美しい女性を知らない。儚げでクールで……落ち着いた澄んだ目がこの世のものとは思えないくらいキレイだった。


 名前は……りんさん、だろうか。なるほど。中国の人なのだろう。


 しかし彼女は転校初日から孤立していた。言葉が通じないのと……あまりにもキレイすぎるからだと思う。話しかけるのがはばかられるほどの雰囲気を持っているからだと思う。


 彼女は窓際で、ずっと窓の外を見ていた。授業が退屈なのか、それとも他の何かを見ているのか……とにかく美しい横顔だった。


 彼女に話しかけることに、葛藤はあった。言葉も通じないし、僕程度の男が彼女とどうにかなれると思えない。


 だけれど……僕は彼女に一目惚れしてしまったのだからしょうがない。このチャンスは、逃せない。


 機械音痴な僕だが、いろいろと調べた。機械翻訳というもので、このスマホが翻訳機に早変わりするらしい。


 というわけで、突撃。心臓が破裂しそうなほど緊張していた。


「こ、こんにちは……」彼女の目が僕に向いただけで、さらに心臓がうるさくなる。「えっと……その……僕は✕✕✕✕✕✕っていうんだ」


 彼女は首を傾げる。言葉が通じないのは想定内なので、スマホの機械翻訳アプリを起動する。


 そしてジェスチャーで、と伝える。


 どうやら僕の意図は伝わったようで、彼女が言葉を発した。おそらく中国語だろう。


 そしてスマホに表示された日本語を見て、


「……――!?」

 

 僕はぶったまげた。本当に人生で一番驚いたと思う。


【私はあなたが好きです。一目惚れしました】


 なんで? なんでそうなるの?

 

 翻訳間違いか……? いや、最近の機械翻訳は制度が高いと聞くし……


 とにかく、もう一度だ。もう一度、話してもらおう。

 そう思って、僕はまたスマホを彼女に向ける。


「✕✕✕✕✕✕……」【非常に気分が良いです。高山たかやまを殴ります】

「なんで……?」別の意味で驚いた。「なんで高山たかやま限定? というか高山たかやまって誰?」


 暴力的な人なのだろうか……それとも異国の地で緊張して、イライラしているのだろうか。というか高山たかやまって誰だ。


 慌てて日本語でまくし立ててしまった。ちゃんと翻訳しないと……


 えーっと……どうやって日本語から中国語に翻訳するのだろう。たしか設定をいじって……


 告白されたり暴行宣言されたりで、混乱していた。そんな僕は手元からスマホを落としてしまった。

 慌てて拾い直すが、画面を少し見られてしまったかもしれない。まぁ翻訳アプリしか表示されてないから良いけれど。


 そしてアプリの設定だが……まぁこれでいいのだろう。中国語って書いてあるし……たぶんOKだ。


 これで僕の日本語が、中国語に翻訳されるはず。


「えーっと……ちょっと言葉を変えたほうが、いいかも……」


 あんまり殴るとか言わないほうがいい。ストレスは別の方法でも発散できる。


 それとも、高山たかやまという人がなにかしたのだろうか。だとするなら……復讐したいのだろうか。


 わからん。りんさんの思考がまったく読めない。


 そうこうしているうちに、彼女からの返答。


【イライラします。高山たかやまを殴ります】

「そっちじゃなくて」笑いながら殴ろうがイライラしながら殴ろうが同じだ。「高山たかやまさんに恨みがあるの? 悩みでもあるの?」


 異国の地で言葉が通じず、さぞ不安だろう。とはいえ高山たかやまを殴らせるわけにもいかない。


 その後……いろいろと彼女と会話をした。しかし、それ以降高山たかやまという言葉は出てこなかった。


 というのが、僕とりんさんの最初の会話だった。


 いや、意味がわからん。

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