第20話

「はぁ、はぁ、かなりきつい。 本当にこんなところにいるのアダマンスコーピオンって? 村のひとに聞いたけど噂しか知らないって、こんな山にはいるやつはいないって言ってたけど」


「はぁ、はぁ、ああ、ここの山にいるはずだ...... 昔親父がここで手に入れたアダマンスコーピオンから作ったハンマーがあるからな......」


 そういって背中に背負ったハンマーをみていった。


 私たちはイタン山に登っていた。 そこはむき出しの岩でできた岩山で道もなく登るのは大変だった。


「それにしても、この国、状況はかなり悪化しているね」


「ああ、そこら中にモンスターが出てきてる。 兵士を反乱の警戒や監視に当ててるから、モンスターが増えてるんだろうな」


「あっ! カンヴァル、あれっ!」


 岩の影から、銀の色をした二本のしっぽがあるサソリが何体も動いている。


「ああ、あいつだ! かなり固いが温度差に弱い、やれるのか」


「うん、見てて!」


 私は魔法銃を構えるとうちだす。 それは炎がでてサソリたちを飲み込んだ。


「そして!」


 更に銃を撃ちだすと、水の弾丸がサソリたちに当たる。 サソリたちはそのまま動かなくなった。


「おお! ヒカリそんな魔法使えたのか!?」


「ううん、この魔法銃にペイスの炎と水の魔法をいれてもらっただけ」


「なるほど、スコーピオンの体がひび割れてるな。 温度差で割れたのか」


 カンヴァルが背負ったかごのなかにスコーピオンの体を手早く解体して入れている。


「けっこうこの銃使いこなせるようになったけど、もう少し使えそうなんだよね」


「あたしも少しムーサに調べてもらったんだけど、その銃魔法を混ぜられるんだろ」


 てきぱきとかごに入れながら、カンヴァルはそういう。


「うん、色々試したんだけど、ペイスの回復、炎、水、私が雷魔法しか使えないしで、なかなか難しいの」


「ならその魔法石を探すしかないな」 


「魔法石ってこの銃の中にある宝石のこと?」


 私は魔法銃を開け、六つある宝石を見る。

 

「ああ、そこにはいってるのはただ魔法をためられる入れ物のようなものだが、魔法が込められてる魔法石ってのが、あるんだ」


「本当!?」


「でもめちゃくちゃ高価で買えるもんじゃない。 昔の遺跡なんかで見つかる。 古代の魔法技術で作り出されるはずだ」


(それがあれば新しい魔法弾が放てるのか......)

 


 国に戻った私は、カンヴァルの製作を待っている間、アルテの訓練に付き合っていた。


「いいよアルテ! かなり弓をうまく使えるようになってきたね!」


「はぁ、はぁ、はい」


 アルテはへたりこんだ。


「でも、まだまだ先生にはかなわない...... 本当に先生でもシアリーズってひとにはかなわなかったんですか?」


「正直まったくね...... 相手はスキル以外魔法すら使わなかった」


「......戦わなくってよかった。 確実にあたし死んでましたね」


 アルテの顔が青くなっている。


「まあ、あの人悪いひとじゃないから、叩きのめされるぐらいじゃないかな」


「叩きのめされるんだ...... やっぱりやらなくてよかった......」


 アルテは寝転んでいう。 


 その時、カンヴァルが走ってきた。


「おお! いた、いた! ヒカリ!」


「あっ! カンヴァル! できたの!」


「おうさ! 見てくれ自信作だ!」


 そういうと背負ったかごから、三つの真っ赤な胸当て、小手、足当てを出してきた。


「かっこい!! 真っ赤な装備! これであの剣を防げるの!」


「多分な、並の力じゃ切れない。 ペイスの分とアルテの分だ」


「あっ、あたしにも!? ありがとうございますカンヴァル」


「でも後は攻撃ね。 あのアームドボディーを貫く力がないと、この装備でいくら攻撃に耐えても、いずれ防具のない場所をとらえられる......」


「武器だといくら固くてもお前の筋力次第だからな...... 切れ味はこれ以上はない。 今知りうる限りではメタルクラブが一番だしな」


 カンヴァルは腕を組んでそういう。


「となると魔法石か...... 前に言ってた遺跡を探すしかないか」


「それなら、クォンタム遺跡なら......、」

 

 アルテが思い付いたようにそうつぶやく。


「クォンタム遺跡? 聞いたことないけど、どこにあるのアルテ」


「王都から西のシブリス湖近くにある遺跡です。 忘れられた遺跡...... 城の本棚の隠し部屋で、かつての探索者が書いた古い本があったんです」


「ふむ、隠し部屋の本...... そそるね。 よしいってみっか」


「あたしもいっていいですか」


 アルテがおずおず聞いた。


「かまわないよ」


「おいおい、姫様がいって大丈夫なのかよ」


「......ええ、あたしは王家には必要ありませんから......」


 その言葉を聞いてカンヴァルと顔を見合わせた。


(王家に必要ない?)


 その言葉は気にはなったが、取りあえず魔法石を手に入れるため遺跡へと出掛けることにした。



「やっとついた...... でも木々がうっそうと生えているだけだ。 アルテ本当にここにあるの?」


 私たちは次の日シブリス湖にきていた。


「はい、湖のそばのこの森の中にあるはず」


「しかし、見当たらない。 地面にでも埋まってるのではないですか」


 そうヘスティアがつぶやく。


 今日アルテと待ち合わせしていると、ヘスティアが一緒についてきていた。 どうやら城から出るときに、アルテを見かけたらしく、強引についてきたのだという。


「それにしてもヒカリ、あまりアルテさまをつれ回さないでください」


「えー、本人が行きたいっていうんだから、いいじゃん」


「王族てすよ。 お怪我でもさせたらどうするのです?」


「いいの! ヘスティア! あたしが頼んでついてきてるんだから!」


 アルテに強くいわれてヘスティアは黙り、アルテはどんどん先に進んでいく。


「そういや、騎士団はどうなったのヘスティア?」


「魔獣討伐した功績で一応除名は免れました。 しかしいまだに私を除名したい家の妨害はありますが、アルテさまの口添えもあってなんとかなっているところです」


「大変ねヘスティアも...... ねえアルテが王家に必要ないとか言ってたけどなんか知ってる」


「......そうですね。 王族とか貴族というのは格式や様式が面倒なのはしっているでしょう」


「まあね」


「王族や貴族は魔力が強く魔法を使えるというのが、ひとつの権威なんです」


「アルテが魔法を使えないのが問題になってるってこと?」


「王は気にしてはいません...... が周りの重臣や貴族はそういうものもいるのです。 何より王のお体が良くない、それゆえアルテさまに婿をとりその者に王位を継がせるべきだと進言するものもいます」


「それが気になっているのか...... まあ結婚相手ぐらい自分で選びたいよね」


「まあ......」


 ヘスティアの表情がくもる。


「ん? まだなにかあるの?」


「......それが、婿候補として推されているのがロキュプスクどのの息子トライデンどのなのです......」


「ええー、最悪、あいつの息子なんてー、どうせぼんくら息子なんでしょ」


「いいえ、賢く、剣も、魔法の腕もかなりのもの、文武両道を絵に描いたような少年です」


「...... で、でも性格は最悪なんでしょ! 弱いひととか地位の低いひととかいじめたりするんでしょ!」


「いいえ、性格も優しく、万人に分け隔てなく接するため、人々に慕われてもいます」


「............」


「............」


「......なんの問題もないじゃん。 ふん」


「なんでヒカリがふてくされてるんです。 まあ相手の人物に問題はないですが、問題は周囲とアルテさまです」


「アルテが?」

 

「ええ、このままでは王位を得られないことへの不安からか、強さへの執着が強いんです。 かつて私に剣を師事しに来たこともありました」


「強くなれば認められると思っているってこと」


「......少なくとも自らの必要性は証明できると思っておられるのではないかと...... 周囲の者たちはアルテさまに価値をみていないのです。 だから今のような勝手が許されているのですよ......」


 そうヘスティアが目を伏せた。  


(周りの興味のなさから、自分の価値がないと考えているのか......)


「先生!! ヘスティア!!」 


 先にいったアルテが手招きして呼ぶ。 いってみると植物の蔓の奥に入り口らしきものがある石の建造物がある。


「これが遺跡......」

 

「みたいね......」


「早くはいりましょう」

 

 私たちは蔓を切り裂いて中へと入る。 


「ここが遺跡か、外からみた感じだと中はひどい状態なのかと思ったけど意外にきれい」  


  石を積み作られた遺跡で古いはずなのに、汚れや破損は見当たらない。


「おそらく魔法がかけられているのでしょうね。 そういう類いの魔法は城にもかけられていますから......」


 ヘスティアがそういいながら、アルテを目で追っている。


(さすが、警戒を怠らないね)


「それでアルテこの遺跡のこと本にはなんてあったの?」


「所々古すぎてわからないのですが、読めたところから要約すると、かつての魔法文明があったところなのではと著者は推察していました」 


「魔法文明?」 


「古代には魔法は今より発達していて、優れた魔法技術があったらしいのです」


「それでその文明は...... ありがちに滅んだの?」   

 

「らしいですね...... 強大な魔法技術を制御しきれずに滅んだんではないかと本にはかかれていました」


 アルテは壁を調べながらそういった。


「おおよそ伝わっている話しだと、旧魔法文明はその魔法により、神の怒りを受けて滅んだと...... もちろん神などいないから、そういう伝説ってことでしょうが......」


 ヘスティアがそう剣の柄を握りながらこたえる。


(おもいっきりいるんですけど、私をこの世界に飛ばした性悪女神がいるんですけど!!)

 

 私をこの世界へと飛ばした、あのナドキエという女神の整った顔が思い浮かぶ。


「どうしたのですか? 先生、ご気分でもすぐれないのですか?」


「まあね...... 嫌なやつを思い出したの、気にしないで」


 二人はこちらを不思議そうにみている。


「それで魔法石はあるの?」


「ええ、本には魔法石の工房らしきものがあり、そこから採取したとありました。 ですがモンスターが行く手を遮ったため、少ししか持ち出せなかったとも......」  


 それから遺跡ないを探す。 どういうことかモンスターはいない。


「モンスターがいないですね先生......」


「だね。 その代わりお宝も調度品もなんにもない。 真ん中の石の台以外なにもない部屋が続くだけ......」

 

 前に扉のない大きな部屋がみえる。

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