第19話

「こんにちはー」


 私は木の扉にノックして呼び掛ける。 その瞬間棒のようなものが木の扉を突き破ってきた。 とっさに後ろにとんでかわす。


「あっぶな!」


 木の扉が開けられると、そこには私より一回りぐらい大きな筋肉質な女性が長い鉄の棒を持ち仁王だちでいる。


「ヒカリ!」  


 ペイスの声で振り向くと、後ろにも八人ほど、武器を持ってる若い女性たちがいる。


(気づかなかった、やっぱりこの人たち一人一人結構できるな......)


「やはりやるみたいね......」


 そういうと、大柄の女性の後ろから顔に傷をもつ長い銀髪をなびかせ女性がでてくる。


(この人強い! 剣の間合いギリギリにたってる)


「あなたたちが鈍色の女傑ね......」


「ふふっ、そんな呼ばれかたをしてるようね。 私はシアリーズよ」


 そう怪しく笑う。


「何のようかしら【雷光狂】《ライトニングバーサーカー》と【蒼純姫】《ブリリアントプリンセス》」


「らいとにんぐばーさーか?」


「あ、あの私とヒカリの異名です。 みんなそう呼んでいて......」


 ペイスがいいづらそうに言って目をそらした。


「えっ? プリンセスってペイスだよね...... えっ? 私ってそんなモンスターみたいな名前で呼ばれてるの?」


 「あ、あの私たちのことをあまり知らない人がつけた異名なんでで別に......」


 そう両手を振り、必死に弁明している。


「別にじゃないよね! なんでペイスがなんかかわいい感じで私が化け物みたいなわけ!」


「だって、ヒカリはダンジョンを吹き飛ばしたり、塔を吹き飛ばしたり、山を吹き飛ばしたり、いやな貴族のお屋敷をモンスターを狙うふりして吹き飛ばしたりしたから......」


「そのとき、ペイスだって一緒にしたよね! 私だけ悪名ついちゃってるじゃない!」  


「そうですけど...... やってるのはいつもヒカリだから、まあ無名より悪名といいますし」

 

「なっとくいかない!!」


「はっはっは、面白い子達ね」


 私たちがそう言い合ってると、銀髪のおねーさんシアリーズはそういって笑う。


「......納得いかないけど、まあいい、先にこっちの話をしましょ」


「そうね......」


 シアリーズは静かに笑みを浮かべた。


「単刀直入にいうけど、あなたたち全員私たちのギルドに入って!」


「残念だけどお断りするわ」


「残念すぎる!! なんで!? 理由は!」


「そうね...... 私たちに関わるのは危険だから......」


「ブタバラ一家のこと?」


「ブルジュラ一家ね。 いいえ、あんな小物は関係ないわ...... まあその前に私たちはどこかに属するつもりはないの」


 そう言うと思い詰めたような厳しい顔になる。 周りの女性たちも同様だ。


(この表情事情が何かあるの? でも)


「この国や、ここにいる人たちの為にも、仲間がいるの。 どうしても手を貸して欲しいんだけど」


「......無理だといったら」


 そう聞いて私は腰の剣に手を掛ける。


「ヒカリ!」


「だってここの家も奪ったものだよね」


「ええ、そうね」


 そういうと、シアリーズは笑みを絶やさずに腰にさした剣を抜いた。


(珍しい剣、この世界ほとんど両刃の剣しかないのに片方の刃しかない)

 

「スキルを使った方がいいわよ」


「!?」


 そういわれてわたしは距離をとった。


「私たちのこと知ってたよね...... その事も知ってるってわけ」


「あなたたちのことは知ってたけれど、スキルのことは知らないわ」


 そういって顔は笑っているが目は笑っていない。


(くっ! かまをかけられたのか。 でもこの人も何かしらスキルを持ってる可能性は高い...... やるしかないか)


 私は両手で剣を振るった。 彼女はそれを動きもせず弾いた。 


(片手なのに!)


「打ち込みはまあまあね」


(まだこちらを侮っているうちに......)


 連続で振るう剣を簡単にさばかれる。


「変則的...... 我流にしてはやるわね。 でも......」


 そういうと剣を両手で握り斬りつけてきた。  


(はやっ!! 受け...... だめだ!)


 何とかかわして離れた。


「へぇ、受けずにかわしたのね」


(危なかったまともに受けてたら剣ごと腕を折られてたかも...... この人強すぎ)


「瞬間の判断...... 確かに普通の人間ではないわね。 魔獣を倒した一人というのもうなづける...... でも剣技は二流、それでは私に勝てないわ。 何かを隠してれば別だけど」


(......今ので正直全力とも思えない。 殺す気ならとっくに死んでる。 使うか、使っても一発で決めないと次がない)


 私は片手で剣を振るう。

 

「同じこと...... 軽すぎるわ」


(知覚加速!)


 片手で弾かれ、彼女は両手で剣を握り振りおろした。 その時左に隠していた銃から魔法弾を撃ちだした。 


(よし! これをかわしても次の攻撃でとらえる!)


 彼女はかわさず、その魔法弾を体で受けた。


「ウソ!! ぐっ!」


 そして私は吹き飛ばされ転がった。


「ヒカリ!!」


 ペイスが近づいてヒールをかけてくれる。


「大丈夫...... 刃のないほうで殴られただけだから」


 シアリーズは剣を納めている。 その肌は鉛色にみえた。


「それスキル......」


「ええ、アームドボディ、体を硬質化させるのよ。 わかった...... 私たちは......」


「くそぉ!! 何かあるとは思ってたけど、まさか硬質化なんて! くやしい! くやしい!」


「ぷっ、はっはっは、変なこね」


 シアリーズは楽しそうに笑った。


「絶対に仲間になってもらうから!」


「待ってヒカリ!」


 私はくやしさを胸に帰った。



「まさか体を固くてできるなんて! ずるい!」


「まあ、あなたも思考を速くできるんですから」


 帰り道、私が愚痴るとペイスはあきれたようにいう。


「あの人に勝たないと仲間になってくれないのか......」


「正直難しいのでは、素人目でみても、あの速さと剣撃の強さは尋常ではなかったです」


「なのよね。 知覚加速でも体の反応が追い付かない...... あれでも手加減してたみたいだし、さてどうしたものか」


「でも、最初から最大魔法を使えば倒せますよね」


「それだと大ケガさせちゃう。 仲間になって欲しいんだから」


「でも剣での勝つのは無理では...... あきらめて、他のひとを探すべきではないですか」


「いや! あの人たちを絶対に仲間にしたい!」


「もう、一度いいだしたら止まらないんだから......  でもどうするんですか?」


「普通に戦えないなら...... やはり」



「それであたしか。 あんたって子は」


 カンヴァルはハンマーを打ちながら、あきれたようにいった。


「すみませんカンヴァル止めたんですけど......」


 ペイスが申し訳なさそうにあやまる。


「しかたないでしょ、そんなすぐ強くはなれないし、あれは普通にやって勝てる相手じゃない。 初見の魔法銃も効かなかったんだから」


「確かにその話を聞く限りじゃ、簡単な相手じゃなさそうだな」


「でぇ、なんかないカンヴァルぅ」


「甘えんな、でもそうさね。 防具ならなくはない」


「ほんと!! なに、なに!」


「こないだアシッドウーズ取ってきてもらったろ。 あの酸やっぱりバッチリだった」


「てことは」


 ペイスと顔を見合わせる。


「ああ、ラードーンの鱗を溶かすことができたんだ」


「その装備できたの!?」


「だめなんだ......」


 カンヴァルは肩を落としハンマーをおいた。


「?」


「確かにラードーンの鱗は溶かせた。 それを成形したいんだが、金型がない」


「前みたいにスライムじゃだめなの」 


「アシッドウーズの酸に耐えうるものじゃないと、スライムだと溶ける。 その金型になる素材がいる」


「金型になる素材を...... か、何なのそれ」


「隣の国、アスワルドにあるイタン山にいる。 アダマンスコーピオンだ。 その体は熱に弱いが酸には強い」


「なら取ってくるよ!」


「でもムーサさんをほっとけませんし、私は一度帰りますよ」


 ペイスがしぶしぶたちあがる。


「じゃあ、あたしがペイスの代わりに行こう」



 それから三日かけて、隣国アスワルドへと到着した。


「なんか国境やたら厳しくなかった」


「お前知らないのか? この国一年前に王が変わったんだぞ」


「えっ? 知らないけど」  


(私半年前にきたからね......)


「......まあ、いい、この国は元々リンデルって王様がいたんだ。 でもリンデル王が病になって亡くなり長女が女王になった」


「長男はいなかったの?」

 

「それだよ。 長男ガゼルムは性格や素行に難があって、王様が継承権を取り上げ、長女を後継者として指名した。 そのグレイシア女王もすぐ病となって、長男のガゼルムが王位についたのさ」


「へえ、それで何で警戒してんの?」


「それが、どうもガゼルムは人望がないから、不満を持つものが多いんだ。 だから反乱を警戒してこんな風に警備も厳重なんだよ」


「ふーん」


 周りの人々は確かにおびえたような暗い顔をしている。 そこを多くの兵士が我が物顔で歩いている。


「なんだ。 よそ者か、この国になんのようだ」


 そういいながら二人組の兵士がこちらに歩いてくる。


「いいえぇ、なんでもないんですぅ、じゃあ」


「待て、まあそんな急ぐこともないだろう。 観光ならオレたちが教えてやろう」


「けっこうですぅ」


「うん、まあお前はいい、そっちのお前だ」


 そういって私を手で追い払う仕草をした。


「えっ? あたしかい」 


 まんざらでもなくカンヴァルいった。


「お前はいいって、それどういう意味よ!」


「お前はガキ臭い。 オレはガキには興味ない」


「まったくだな。 お前はママんとこ帰ってろ」


 二人はそういって笑った。


「......ほー、そう、ならあんたたちが帰んなさいよ!」


「やめろ! ペイス」 


 頭にきた私は雷の魔法で巻き込まれ二人は気絶した。


「ほら行くよ!!」


「まだもう一発......」  


「だめだって!」


 カンヴァルに引きずられ私たちは町のそとに出た。


「全く、いきなり魔法ぶっぱなすなんて、次見つかったらつかまっちまうだろ!」


「あいつらが失礼なのが悪い......」


 私はふてくされていった。


「はぁ、ほんとペイスの大変さがわかるよ。 かわいそうなペイス」


 そうため息をついてカンヴァルがペイスに同情していた。

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