第11話
「さあ、ここがお店兼おうちだよ!」
ムーサちゃんをつれて家へと戻ってきた。 ここで暮らしてもらうためだ。 荷物を背負ったムーサちゃんは周りをおっかなびっくり見回している。
「こ、こんな所に私が...... 住まわせてもらえるんですか」
「二階の奥に私のとなりに部屋があるからそこに」
ペイスがやさしくいった。
「じゃあ荷物を持つよ。 おもっ! これなに!!」
「あっ、ほとんど本です。 だいたいの本は読んだんですけど」
そういって分厚い本を何冊もだした。
「こんなに...... 私は読むと眠くなっちゃうから、すごいね」
「い、いえ、好きなだけです」
ムーサちゃんはそう照れた。
「じゃあ、お客さんがきたら、依頼内容と依頼料を聞いてメモしてくれればいいよ。 あとは私たちが受けるかどうか判断するから」
「は、はい、わかりました......」
ムーサちゃんはカウンターのイスに座る。 そしてキョロキョロ落ち着かない様子でいる。 その時ドアがノックされた。
「はーい!」
ドアを開けると、一人の女性がいた。
「ええと、依頼をしたいんですが......」
「は、はい、あ、あのこちらへ」
ぎこちないながらも一生懸命ムーサちゃんはメモを取り話を聞いている。
その女性はアンナさんといい、畑の作物を狙うアーミービートルを倒して欲しいという依頼だった。 ムーサちゃんにみられて私がうなづく。
「で、ではお受けしました」
笑顔で礼をいうとアンナさんは帰っていった。
「すごい! ムーサちゃんできたじゃない!」
「そうですね。 よく対応できてました」
「は、はい、ありがとうございます」
いくぶんか声もでている。
「じゃあ、この依頼わたしがやってくるから、ペイスはムーサちゃんと一緒にいてね」
「わかりました。 気をつけて」
「き、気をつけてください」
「うん、じゃあいってくるね!」
私はさっそくアンナさんの畑へと向かった。
(確か、ここにアーミービートルがくるって話だけど、ペイスがそうの話しだと、弱いけどかなりの数がいるらしい。 まあ試したいことがあったからちょうどいい)
畑に入ると、奥の林がうごいた。
「ん? 何か地面が動いてない? ちがう!!」
それは茶色の拳大の虫が地面一面にいて動いていた。
「多い! でもこの数ちょうどいいか! あの時は確か魔力を使おうとして......」
銃を構えると引き金をひく。 すると単発の光がでて何体か倒した。
「いや、こうじゃない! えっと魔法を......」
私は魔法を考えて銃へ魔力を流した。 そして引き金をひいた。
ドオオオンン!!
雷が銃口から吹き出すと地面の虫たちを一斉に吹き飛ばした。
「よし!! やっぱりこの銃、魔力だけじゃなく魔法も放てるんだ! よし残りも!」
『サンダーブラスト』
「えっ、サンダーブラスト......」
そう口にすると、無数にわかれた雷が絞られ放たれた。 それは直進し地面ごと虫をなぎはらう。
「おお、これは新しい魔法か!」
虫たちを全てなぎはらうと、見にきたアンナさんは驚いている。
「うそっ...... こんな数いままできたことなかったのに...... それに一体ものすごい大きいのがいる」
「ああ、あれは多分、もうすぐコアモンスターになるやつですね」
「ありがとう!! あなたたちがこんなに強いなんて思わなかったわ!」
喜ぶアンナさんに後で問屋さんが回収に来ることを伝え、私は家へと帰った。
「お帰りなさいヒカリ」
「お、お帰りなさいヒカリさん」
「こっちはバッチリだけど、そっちはどうだった?」
「ええ、ムーサさんはちゃんと応対できてました。 これなら一人でも大丈夫ですよ」
「あ、あ、はい、がんばります......」
ムーサちゃんはそういって顔を赤くする。
「そうかよかった! ってことは新しい依頼がきてるってことだね」
「ええ、ムーサさん。 説明してあげてください」
「は、はい、えっと、雑貨屋フランさんから新しい鎌や鍋、手斧、包丁の追加......」
「えっ! フランさんのところのもの売れたんだ!」
「ええ、そういってました。 だから追加か欲しいって」
そうペイスが笑顔で答える。
「そうか! それなら素材が必要だね」
「あ、あと、東側にあるバレン湖からモンスターが現れているから、何とかして欲しいと」
「それってヘスティアさん!?」
「いいえ、木材業のザイエンさんです。 どうやらモンスターが増えて仕事ができなくなっていたのですが、私たちがコアモンスターを倒したことや、ワイザーン村の話を聞いて依頼にきたそうです」
ペイスが困った顔でいった。
「断りたいけど...... 多分このままほっとくと」
「......おそらくそのうち街道にモンスターがまた増えてきますね」
「だよね。 じゃあヘスティアさんと協力してコアモンスター討伐に向かうしかないか......」
「ですね。 二人ではさすがに厳しいです。 やはり騎士団のヘスティアさんなら戦力になるでしょうし」
ムーサちゃんを受付に残し、私たちはヘスティアさんに会いに行くことにした。
「ここが、グランナシアかぁ! かなり大きいね!」
「ええ、王都ですからね。 私も一度だけしかきたことはありませんが」
私たちはグエスクから馬車にのり二日、王都にはいった。 王都というだけはあり、大きな建物が立ち並び、人々も多いし、皆ある程度裕福な生活をしているようだった。
「なんか、お金持ちが多そうね」
「そうですね。 地方の成功者たちがこぞって移り住みますからね」
「それで、ヘスティアさんのいる騎士団ってどこ?」
「ええっと、確かこっちに騎士団の本部があったと...... あれですね」
他の建物より一際大きな建物かある。
「でっか!」
「ええ、元々騎士団の団員は貴族の子弟たちから主に構成されますから」
「それでか、金持ちのボンボンか、ということはヘスティアさんも貴族か」
騎士団本部のドアを勢いよく開ける。
「たのもーー」
「ここは騎士団本部なにか用か」
前にいた大柄な騎士が威圧的に言う。
(横柄な態度...... さすが貴族のお坊っちゃんね)
「あのぅ、わたしたちぃ、ヘスティアさまにぃ、用があるんですぅ」
できうる限りの愛嬌を振り撒くが、騎士は怪訝な顔でみている。
「なに? ヘスティア副団長に」
(ヘスティアさんって副団長なのか......)
「おい」
顎でしゃくると奥へと一人が向かう。 しばらくすると、ヘスティアさんが二人の女性を連れやってきた。
「おお! ヒカリどの! ペイスどの! よくきてくださいました! あの件受けてくれたのですね!」
「ええ、それでさっそく向かえますか」
「もちろん! すぐに準備をします! 少々お待ちを!」
「ヘスティア副団長、一体何の話です。 まさかお友達からアフタヌーンティーのお誘いですかな」
そう
(こいつらヘスティアさんをなめてるのね)
「バルザー、これから私はダンジョンに向かいます。 団長にそう伝えるように」
「ダンジョン正気ですか...... この二人とお付きのものたちとで」
「ええ、あなたもついてきますか? それともあなたたちが」
「いえ、私は......」
そうバルザーはしり込みし、周囲も黙る。 それだけいうとヘスティアさんはさっそうと奥にいった。
「本気かよ......」
バルザーはそう呟く。 少しして鎧を着込んだヘスティアさんがやってきた。
「さあいきましょう!」
「我々も! 共に!」
二人の女性がそういうが、ヘスティアさんは制した。
「もし私に何かあった場合、騎士団を頼めるのは、あなたたちと私の部下しかいません。 オノテー、レイア、あとは頼みます」
そういってヘスティアさんは小声で話すと、私たちについて騎士団本部を出た。
「あの二人はいい仲間ですね」
「本当に私には過ぎたものたちですよ......」
ヘスティアさんはしみじみいった。
「さあ、グエスクの東、バレン湖へと向かいましょう!」
それから一日かかってバレン湖へと到着した。
「はぁ、かなり強いモンスターがいましたね」
ヘスティアさんは肩で息をしている。
「そうですね。 まあ、こんなもんですかね」
「ええ、まだダンジョンにもついてませんしね」
「あなたたちはどうなっているんだ......」
驚いたようにヘスティアさんがいう。
「ほら、私たちけっこうモンスターと戦いなれてるんで」
「確かに、コアモンスターを倒すほどの者たち、私より経験は圧倒的ですか......」
「でも、騎士団なのでしょう。 なぜモンスター討伐に消極的なんでしょう?」
ペイスが不思議そうに疑問をのべる。
「戦いたくないんでしょ、貴族の坊っちゃんたちだから」
「ヒカリ!」
「......そうですね。 確かにほとんどが貴族で構成される騎士団ゆえ、戦いたくないというのが本音でしょう。 それともうひとつ......」
「もうひとつ?」
「モンスターがいなくなっても困るのでしょう」
「はぁ? いなくなって困る、どういうこと?」
「貴族は商家と繋がっているので、利益を失うからです」
「ますますわからん。 畑の数も牧畜も、収穫も今までより増えれば商業も発展するしいいことばかりじゃない」
「それはあくまで国のこと、国ではなく個人の場合は商業利益を失うんです」
「......つまり、独占できなくなる」
ペイスがそう呟くと、ヘスティアさんがうなづく。
「そう。 今この国の商業は大商人とその上の貴族に統治されています。 他の商業者がでてきては競争になり、利益の独占はできなくい。 だからモンスターの存在は彼らにとってある意味で有益なのですよ」
「そんな......」
ペイスが驚きの声をあげる。
「それで商業ギルドに所属するしかない......か」
「そういうことです。 豊かになれば必ず自分達を脅かすものがでてくるのをおそれています。 だから生かさず殺さずモンスターを管理しモンスターを倒さないように、騎士団は動いている恥ずべきことに......」
そうヘスティアさんは力なくいう。
「でも、ヘスティアさんはちがうのね」
「私は騎士であることに誇りを持っています。 いや私がヘスティアということに...... だから、騎士団がどうあれ、人々のために戦うものでありたいのです!」
そう拳を握る。
(うん! この人は信頼できる。 なんとかコアモンスターを倒して、商人や貴族どもの野心をぶっ壊しとこう)
そう私は決めた。 先を進むと湖のほとりに大きな洞窟があるのが見えた。
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