第10話
「でも水の中では炎の魔法は使えませんし、かなり危険ではありますね」
「そうだね。 雷は感電しちゃうから無理だけど、銃はどうだろうか」
ためしに撃ってみると水中を直進して壁まで当たる。
「火薬を使わないからか、使えるけど水の抵抗で威力は多少落ちるね」
私たちは宝玉が落ちてないか、周囲を丹念に確認しながら、先へと進む。 途中モンスターもでてきたが銃で倒した。 その素材もカンヴァルは集めている。
「カンヴァルもうやめとけば」
「いやだ。 全部持って帰る」
「二人ともこの先みて!」
ペイスにいわれて見ると、先が階段になりより深くなって下の方は暗いが、かろうじて底がみえる。
「さすがにここまで深いといくのには勇気がいるな。 どうしよう」
「ええ、でもここにはモンスターがいませんね。 どうしてでしょうか?」
「んー、ここまでは入らなかったからかな?」
「あっ! あれ」
カンヴァルが先の方を指差す。 すると深いところに光るなにかが見える。
「なんだろう? まさか宝玉!! あの距離なら...... しかたないか潜って確認してくる」
「えっ!? 本気ですか!! さすがに深すぎるのでは」
「そうだぞ、まだ奥があるんだ。 なにかいるかもしれん。 あれが宝玉かわからんしな」
「まあ、いってみればわかるよ」
私は階段づたいに降りると潜る。
(かなり深い、透明度が高かったのか、泳ぎは得意だけど息続くかな)
モンスターも魚もいない。 下までなんとか潜り光るものへと近づく。 それは青く光る丸いものだった。
(暖かい、やはり何らかの力がある。 多分宝玉だ)
それを抱えるようにもつと上へともどる。
(なにこの感じ......)
その時反対側から何かの気配を感じとる。
(知覚加速!!)
そしてゆっくり振りかえると、視界に巨大な白い蛇のようなものがこちらに迫ってきているのが見えた。
(モンスター!? でかい! アクアスネークの何倍もある! こいつがここにいたモンスターを食べ尽くしたのか!)
私は必死に上へと泳いだ。 だが明らかに迫ってきているのを感じる。
(逃げきれない!! 魔法! 間にあわない!)
その瞬間、上から何かが水に落ちてきた。 それは周囲に大きな泡を出し、竜の視界を奪われたのかとまっている。
(今しかない! 魔法サンダーボルト! 電撃はダメだ私も食らう! いや銃を最大の魔力で!)
その時、泡から竜がこちらへ口を空けて迫る。
(くっ! だめだ多分倒せない! だけど一子報いる!!)
そこに魔力を込めた銃を放つ!! すると目の前に閃光が走る。 その瞬間、体に衝撃が走り意識を失う。
「......ヒ、......、ヒカ、だい...... ヒカリ、......じょうぶ、ヒカリ! 大丈夫!!」
「うっ...... う、う、はぁ、はぁ!」
「ヒカリ!!」
目が覚め起き上がるとペイスが抱きついてきた。
「あれペイス、私は......」
「あんたは水の中に沈んでったんだよ。 それをペイスが飛び込んでたすけたんだ」
心配そうにカンヴァルがそういった。
「水の...... あいつは!? あの竜!」
「あいつピュートーンならあそこだよ」
カンヴァルにいわれて見てみると水の底にその巨大な体を横に倒している。
「なんとか倒したのか...... ん? てもなんで」
「水の中でものすごい光がおこって竜を巻き込んだけど、サンダーボルトじゃないんですか」
ペイスは涙をふきながらそういった。
「いや、魔法は使ってない。 私は銃を...... ああそういや! なんかすごい泡がでたけどあれなに!?」
「あれさ」
カンヴァルが指差すと水の底にハンマーがおちている。
「ヒカリがモンスターにおわれていたから、カンヴァルのハンマーに私の炎をまとわせて水中に投げてもらったんです」
「ああ、それで水の中で蒸発して泡がでたのか、二人ともありがと」
「いえヒカリが無事でよかったです!」
ペイスはそう笑顔でいった。
「でそいつが宝玉かい」
カンヴァルは私がもつ球体をみていう。
「ああ、うん、多分ね」
「だったら速く台座に置こう。 ここに魔法でモンスターがいなくなればあのハンマーもピュートーンも引きあげられるし」
私たちはすぐに引き返し、遺跡前の台座へと宝玉を置いた。
「うん、なにも起こらない...... これ宝玉じゃないの?」
「いえあれ!!」
ペイスが上を指差す。 見ると空に青いヴェールがかかり、それは海の方へと流れていった。
「これで魔法が発動したのかもな」
「ええ、とりあえずクローグさんに伝えましょう」
私たちは家に帰った。
「じゃあ、あたしは帰るよ!」
素材を山盛り背負い、カンヴァルは分かれ道で去っていった。
「あんなに持ち帰れるのかな」
「あれヒカリ? 誰か店の前にいますよ」
店の前に私より少し年上ぐらいの女の子が立っている。
「ああ、失礼、冒険者の店は今日はお休みですか」
「い、いいえ、どうぞ!」
私たちはすぐその少女を店のなかに招いた。 腰に剣を帯び町の人たちとは違うスーツのような服をきた長い金髪の少女はイスに座る。
(この格好、立ち振舞い貴族か何かかな)
「それでご依頼の件は?」
「ああ、私はバールレ王国騎士団のヘスティアといいます」
(この子騎士なの!?)
私とペイスは顔を見合わせる。
「まず、あなたたちはコアモンスターを倒したとききました。 おかげでこの町の往来が可能になりました。 まず騎士団として国民として礼をします」
頭を深々とさげた。
「いえべつに仕事ですから、それで用件は」
「......実は共にコアモンスター討伐に向かって欲しいのです」
「コアモンスターってダンジョンにってことですか!?」
「......ええ」
「そんな危険なこと、さすがに......」
「それは重々承知の上です。 だが、町や村、この国の人々はモンスターの脅威に日々怯えているのです。 暮らしも悪化するばかり......」
そういってその少女ヘスティアさんは表情を曇らせた。
「ですが騎士さま。 それは騎士団で行えばよいのでは」
ペイスがそう聞くと、ヘスティアさんの顔がこわばる。
「......ああ、本来ならそうすべきなのです。 しかし、私が上訴しても騎士団は動かない」
ヘスティアさんは怒りの表情をし拳を握る。 そしていったん落ち着くとこちらをみる。
「ですがヘスティアさま。 勝手に動いては騎士団から処罰を受けるのでは」
ペイスがそう聞くと、ヘスティアさんはうなづく。
「そうですね。 除名もあり得るでしょう...... しかしこのままモンスターを野放しにはできません。 私一人では残念ながら倒す術はない、助力していただきませんか!」
必死に懇願するヘスティアさんをなだめ、一時預かりとしてなんとか帰ってもらう。
「ふぃー疲れた......」
「ずいぶん情熱的な方でしたね」
「熱すぎるよ...... でもまあ悪い人ではなさそうだったけどね。 人のためにコアモンスターを倒したいなんてさ」
「でも、どうします...... コアモンスターだなんて」
「うーん、今だとカンヴァルはいい素材を手にいれて絶対来ないだろうし...... ちょっと危険すぎる。 止めとこう」
「そうですね。 それにここを長期空けるという問題もありますよ。 休みの日が多いと誰も来なくなりますし」
「あーー! そうだ! それも解決しないと! 人がいるよ!! 受付とか!」
「ですね...... 人を雇うしかないですが、募集でもかけますか」
「でも、ずっとここで受付だよ。 そんな人すぐ探せる? 誰でもいいってわけでもないし」
「うーん、難しいですね」
私たちは頭を抱える。
それから一週間ほどたち、ドアをノックする音がする。
「ま、まさかヘスティアさんがまたきたんじゃ、私は隠れてるね」
「とりあえずでますね」
ペイスがでると、それはクローグさんだった。
「二人ともありがとう!! おかげでモンスターがいなくなったよ!」
あのあと、村を見に行ったら、モンスターがいなくなっていたらしい。 クローグさんは大喜びで依頼料を机に置いた。
「こんな少ない金で申し訳がない。 他に何か私にできることがあればいってくれ」
「はは、そういう依頼なんでいいですよ。 まあ強いていえばずっと受付できる人物を紹介してくれるとうれしいけど」
「ずっと受付できる人物?」
「受付をまかせたいんですけど、ずっと受付してくれる人なんていなくて」
「ずっと...... か、一人いないこともないが......」
「ほんと!? どんな人ですか!」
「ああ、グエスクにある図書館に毎日通っている女の子だ。 名前はムーサ、本の虫で暇があれば本を読んでいるよ。 だから本さえあればずっといてくれるんじゃないかな」
そういうと笑顔で帰っていった。
「ペイス! いたよ! 受付の人」
「ええ! 会いにいってみましょう」
私たちはグエスクへとさっそく出掛けた。 グエスクへ馬車でついた。
「ずいぶん人通りが多くなってますね」
「うん、やはりコアモンスターを倒したからかな。 でも衛兵が何人もたってたからゼロではないようだね」
「私たちが倒したのは西スーラの森のコアモンスターでしたからね。 東にある湖にもダンジョンがあるらしいです」
「ヘスティアさんがいってたのがそれかも」
歩いていると、大きな建物がみえる。
「これが王立図書館ですね」
「ふへぇ、大きいな」
中へとはいると誰もいない。
「こんな大きいのに人がいないね」
「まあ、日々の生活が大変で、書物を読んでいる暇もないということでしょうね」
「まあ、モンスターが現れて生活も苦しいからね。 そんな余裕あるわけないか、あっ!」
図書館奥の隅っこの机で大きな本を読んでいる私より年下に見えるメガネの少女を見つけた。
「あの!」
「ひっ! なんですか......」
少女は怯えた顔をした。
「ああ、ごめん、私はヒカリ、この子がペイスね。 あなたムーサちゃんだよね」
「は、はぁ、そうですけど......」
「あのお願いがあるんだけどいいかな」
「お、お願い...... なんでしょうか」
怯えるように答える。
「あのね。 お店で働いてもらいたいの」
「働く...... むりです! 私はなにもできないんです...... だから、無理に雑用させてもらって日々生活してるんです」
そういいながら本を抱いて首を強くふる。
(そういえば、服も繕ってある。 生活が楽じゃないのかも...... ならなおさら雇いたい)
「ただ受付してもらうだけなの」
「それでも...... 私になんかできっこない......」
ムーサちゃんはうつむいた。
(むう、これは難しい。 無理強いするのは無駄に傷つけるか、でも......)
私が躊躇していると、ペイスが前にでて優しく話しかける。
「自信がないんですね...... わかります。 私も自分に自信が持てなくて、両親と同じ様に本当はハンターをしたかったんですが、なかなか勇気がなく踏み出せなくて...... そんなとき彼女、ヒカリが現れたんです」
そういうと、じっとみつめているムーサちゃんにペイスは一呼吸おいて語りだす。
「それで勇気がでたんです。 どうしてもいやなら断っても構いません。 ですが、少しでもやってもいいという気もちがあるなら、一緒に私たちと仕事をしませんか......」
「あなたみたいなおしとやかな人がハンターを...... それで後悔はしなかったんですか」
おずおずとムーサちゃんは聞いた。
「ええ、ヒカリは無茶苦茶で心配しっぱなしですが、今はとても幸せですよ」
(わ、私ってそんなに無茶苦茶だったの......)
自覚がなかったのでちょっぴり落ち込む。
「わ、私も...... 受付にいるだけでいいんですか......」
「ええ! もちろん! 暇なときは本を読んでいていいよ!」
そういうと、黙ったムーサちゃんはイスから立ち上がり、本を胸の前に抱く。
「よ、よろしくお願いしま、ます!」
深々とお辞儀をする。 私とペイスは顔を見合わせて微笑む。
「こちらこそよろしく! ようこそ冒険者の店へ!」
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