第6話

「まさかメタルゲッコーが10万ゴールドで売れるなんて......」


 私は驚いていた。 バーバラさんから金貨がパンパンに入った袋10個が届けられたからだ。


「......ええ、王都にいる貴族向けのローブやマントになるらしいですが」


 ペイスも机の上の袋をみて驚いている。


「まあ何にしても目標の10万を貯めたね! さっそく...... どこにいけばいいの」


「え、えっと、商業ギルドの支部が隣町グエスクにあります。 そこにいってみましょう」


 私たちは隣町へと馬車にのり向かうことにした。



「ふぃ~快適だね~」 


「ええ、私も一度だけしか乗ったことがありませんでした」


「この速さならモンスターに襲われても逃げられるから、楽チン」


「そうですね。 でもかなりお高いので庶民には手が届きません。 ですので、モンスターに襲われることを避けて往来がままならないんです」


「確かに一回1000ゴールドは高いね...... それで町の行き来も、とどこおってるのか」


(やっぱりモンスターの問題は大きいな)


「ですが、お店の形態はどうします? やっぱり依頼による素材集めでしょうか?」


「うーん、それだと集客しづらいか...... なんでも依頼で行うような仕事にするか」


「ではハンターではないですね。 何にしましょう」


「そうだね...... いろんな所に行ってみて、知られてないことを知る...... 新しい冒険、 ぼうけん!? そうだ! 冒険者にしよう!」


「冒険者...... いいですね!」


「じゃあ私たちは冒険者のお店を開店するよ!!」


 そうこう話している間に、隣町グエスクについた。 そこは私たちのアエラの町より大きく店などもたくさん立ち並んでいた。


「ほわぁ! かなりおっきいね!」


「ええ、この先に王都グランナシアがあります。 西側の海に通じる交易路でもあるからでしょうね」


「海か~ いってみたいなぁ!」


「そうですね。 今度いってみましょう」


「そだね。 カンヴァルさんも誘ってみよう! さあ商業ギルドに向かおう」


 私たちが歩いていると、豪華な外装の商館がみえる。


「ここだね。 たのも~」


 私は両扉を勢いよく開けて中にはいる。 


 カウンターの受付の女性がおどろいている。


「あの! 商業ギルドに入りたいんですけど!」


「し、少々お待ちください」


 あわてて女性が奥の部屋へと向かう。 しばらくすると、小太りの気弱そうなおじさんがでてきた。 


「商業ギルドに入りたいっていうのは君たちか...... 残念だが子供が入ることはできんよ」


 こちらを黙ってながめ不憫そうにいった。


「なんでですか?」


「10万ゴールド必要なんだ。 君たちみたいな子供に用意なんて......」


 私はにんまりして、目の前に持ってきた袋をカウンターの上にどさりとおいた。


「ほい、10万ゴールドです!」


「えっ!? ええ!! 嘘っ!!」


 そういって袋の中身を探っている。


「ほ、ほんとだ。 10万ゴールドある......」


「ねっ! これで商業してもいいんでしょ」


「は、はい! もちろんですとも! どのようなお店でも! は、速くお茶とおかしお出しして! で、ではこちらに!」


 分かりやすく豹変して、おじさんはニコニコと笑顔を振り撒く。


「あ、ではこちらにお店の名前と、そしてどの場所で商売を行うかを、御記入くださいませ」


 そう紙を出された。


「む、むう......」


「私が記入します」


「た、頼むよペイス」


 ペイスが書いている間、お茶とおかしをいただく。 


(ふむ、まあまあね。 ペイスが作るおかしには遠く及ばないけど......)


「ではこちらで......」


「は、はい、はい! えっと、モンスターの素材を依頼で受ける。 はあー お客様方はハンターでごさいましたか、それでこんなお金を......」


「てっきり、貴族のお嬢様だと思ってたのね。 うんうん、しゃーない、しゃーない」


「......は? は、はい! そうです! そうですとも! はい、えっと名前は、冒険者の店? まあ、わかりました! こちらに登録されましたので、各地に紹介をさせていただきます。 では月末に収入の半分をお納めください」


「ええーー!!! 半分!? そんなに!!」


「は、半分......」


 私とペイスは顔を見合わせる。


「ええ、こちらの規約はそうなっております」


「多すぎるよ!! ぼったくりすぎだよ!」


 私がわめくと、小太りのおじさんは横にきて耳打ちする。


「お客様お静かに...... ここはこの国の大商人たちが束ねるギルド、彼らは貴族との繋がりも強いのです。 滅多なことを口にしてはいけません。 私とて暴利だと思っておりますが、生きるには耐えることも肝要かと」


 そう心配するような顔をして口を閉じた。


(なるほど、それでバーバラさんはああいったのか......)


「しかたないですよ。 がんばって働きましょう」


「ペイスは前向きだねぇ、そんなんじゃ人生損しちゃうよ。 ......まあ仕方ないか、わかったお金は持ってくればいいの」


「いえ、私どもが受けとりに参ります」


 そういって悲しそうな笑顔をこちらに向けた。


「じゃあ、さっそく帰って店を開けるとしようか!」


「はい!」


 私たちは意気揚々とペイスの家へと戻る。



「ふぁ、暇だねぇ」  


 店を開いて一週間、依頼はまだなかった。 私は大工さんにつくってもらった木のカウンターで頬杖をついて窓の外をながめる。


「やはり、素材を買うのは問屋さんですから、一般のお客様は来ないんじゃ」


 ペイスがそういいながら、ホウキで店を掃除している。


「むう、確かに...... でもさ、問屋さんに売るっていっても、買ってくれる素材は決まってるじゃない」


「そうですね。 貴族や富裕層向けの高額なものか職人たちに加工して売れるものしかないですしね。 今は蓄えもあるし、少しのんびりしましょう」


(やっぱり庶民も欲しがるものを作り出さないといけないか......)


「ちょっといってくる! 店番お願い」


 私は家からでると、思案する。


「庶民が欲しがるものってなんだ? 食品...... モンスターの肉は魔力が含まれてて食べると危険だってペイスが言ってたし、なら日用品、石鹸とか、油とかそれも危険か、いやそういうのはフランさんかバーバラさんが扱ってるか」


(あとは道具、クワとか、鎌、包丁、釜、ハサミ、手斧とかとなると、あの人か......)


 私はカンヴァルさんのところにいく。



「どうしたんだいヒカリ? まあ上がんなよ」


「えへへ、おじゃましまーす」


 それから、カンヴァルさんにモンスターの利用方法の話をした。


「まあ、確かにモンスターの道具は一部の富裕層向けだ。 でも道具を作れても、普通の人が手に入れられる価格にすると、量産が必要だよ」


「量産できるの!?」


「まあね」 


「じゃあ作ってくれる!!」


「まあ、少しならかまわないけど、特殊な素材がいるよ。 スライムだ」


「スライム? あのプニプニのやつ?」  


「そうそのスライムだ。 町の南にある洞窟にいるっていわれてる」


「じゃあ、ペイスと一緒にさっそくとってくるよ!」


「わたしもいくよ。 あいつらを倒すにはコツがいるからね」


 二人で店に戻ると、ペイスを連れ南の洞窟へとむかった。


 

 洞窟は湿気がありじめじめしている。


「なんか気持ち悪いとこ」


「ですね......」


「ほら、さっそくきたよ」


 そこにプルプルと震える半透明な丸いものがいくつも地面にある。


「とりあえず!!」


 剣で斬ってみるが、斬った場所がすぐふさがりプルプルしている。


「なっ!? 戻った」


「私の魔法で!」 


 ペイスの炎の魔法でスライムたちを焼くがびくともしない。


「効かないよ。 魔法にも耐性があるんだ」


 カンヴァルさんが笑う。

 

「攻撃も再生する。 魔法も効かないなんてどうすればいいの? まあ攻撃してこないけどさ」


「コツがあるっていったろ。 モンスターは神血結晶イコルが体にあるって前にいったよね。 それで魔力を供給してるんだ。 だから......」


 カンヴァルさんは大きなハンマーを振り下ろしスライムを叩いた。 するとスライムは動かなくなる。


「こうやってイコルを細かくしちまえば、動かなくなるってわけ」


「すごい! それって他のモンスターも?」 


「まあね。 でも大抵体のどこかにあるからわからないよ。 こいつは透明だろ。 よくみれば場所がわかるんだ」


「確かによくみると小さいけど結晶の位置がわかりますね」


 ペイスは杖で叩いた。 すると中の結晶はくだけスライムは動かなくなる。

 

「なるほど! じゃあ私も!」


 三人でスライムを叩いて倒していく。 持ってきたかご一杯スライムをのせるとカンヴァルさんの工房に帰る。


「でこれどうするの?」  


「まあみてなって」


 そういうカンヴァルさんはナイフでスライムを半分に切った。

 

「あっ! もとに戻らない!」


「ああ、神血結晶イコルが砕かれて魔力がなくなったからね、再生しないのさ。 でも炎に強い体は残る。 そして半分にしたこの体に作っておいたナイフを魔力で押し込む!」


 するとスライムの体にナイフのあとができた。


「ここに熱して溶けたモンスターの素材をいれ冷やす」


「なるほど! つまり鋳造ね!」


「そーいうこと」


「ですが、それならメタルゲッコーのようなレアな素材を探さないといけないのでは......」


 ペイスが眉をひそめていう。


「いいや、これなら強度があればいいから、ある程度固いモンスターの素材からなら作れる。 まあ単一の種類だけだけどね」  


「じゃあ問屋に売れない素材を使えばいいのね」


「でも、簡単とはいえこんなの一人で量産できますか?」


「一人じゃムリだよ。 あたしは他のものが作りたいしね」


「なんてこったー! つんだーー!」


「いいや、頼める知り合いはいる」


「ほんと!!」


「今はモンスターのせいで鉱物がとれないからね。 仕事にあぶれた鍛冶屋たちなら親父の代から知り合いがいる。 声をかければやってくれると思うよ」


「じゃあ集めといて」


「わかった」


「さてどこで売ってもらうか。 うちで売ると人が必要になるし」


「フランさんの雑貨屋で売ってもらえばどうでしょう」


「なるほど! さすがペイス! そうしよう! だったらまずは素材になるモンスターを大量に集めよう!」


「鍛冶屋連中に声掛けしたらあたしもついていくよ! 珍しい素材が手に入るかもしんないからね」


 そうして私たちは次の行動に移した。

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