第5話
「えっ? モンスターから武具を作る鍛冶屋かい」
町に帰るとさっそくバーバラさんに聞く。
「ああカンヴァルのことかい、北にあるラクルサ山に工房を作って、一人でこもってるよ。 山は危ないからやめときなって言うのに...... たまに素材にを買いにくるのさ」
「ありがとう! バーバラさん!」
私たちは北の探索ついでに工房を探す。 モンスターを倒しながら素材を集め、山道をすすむとログハウスのような壊れた家がみえる。
「やっぱりあれかな」
「金属を叩くような音が聞こえるからそうでしょうね」
ドアを叩く、すると、ドアは前に倒れこわれた。
「わあ! ごめんなさい!」
「ああ、かまわないよ。 元々こわれてんだ。 モンスターに壊されてね」
そこにはさらしを巻いてハンマーを持つ、長身の女の子がいた。
「あなたがカンヴァルさん...... 女の子なの」
私とペイスは目をみあわせる。
「そうだよ女が鍛冶屋がおかしいかい。 あ、あんたそれ!!」
「えっ?」
カンヴァルさんは家を飛び出すと、私たちが持ってきた荷車に走り出した。
「これ! ヘルスネーク! こっちはポイズンフロッグ! これほカームボア! すごい! あいつら強くて手がでなかったのに!」
そう興奮しながらカンヴァルさんはモンスターをキラキラした目で見ている。
「こ、これ売ってくんない! いや、お金はないけど...... 必ず払うから!」
そういって詰め寄ってくる。
「い、いえ、どうしましょうヒカリ」
「そうね。 うん! じゃあこうしましょう。 私たちにモンスター武具を作って、それと交換ね!」
「武具!? モンスターでかい! ま、まあちょっと工房で話そう!」
私たちはカンヴァルの工房に招かれる。
「なるほど、モンスターが切れなくなった...... か」
カンヴァルさんは私が渡した刃こぼれした剣をしげしげみながらいった。
「ええ、手に入る武器じゃ攻撃が通りづらいし、防御も不安だわ。 モンスターが素材なら強い武具もあるんじゃないかなって」
「確かに魔力をまとうモンスターの体は固い。 加工にも魔力がいるくらいだからね。 でもあんたらが持ってきたモンスターじゃ武具には向かないよ。 固くても柔軟さがないからね」
「モンスター同士の合成は無理なの?」
「スキルがあれば可能だろうけど、いまのあたしじゃムリだね」
「じゃあ、素材となるモンスターを探すしかないですね」
ペイスかそういうと、カンヴァルさんは考え込む。
「でもかなり強いよ。 私でも諦めてるくらいだからね」
「知ってるなら教えて狩ってくるわ!」
「......危険、といってもいきそうな顔だね。 わかった、この先に洞窟があって、そこにはメタルゲッコーっていうヤモリがいるんだ。 その皮は金属のような強度と柔らかさがある」
「それをとってくればいいのね」
「その前にこれ持ってきなよ」
一振の剣を奥から持ってきた。
「軽い、これは......」
「死んだ親父が作った、メタルゲッコーの脱皮した皮を集めて作った剣だよ」
「使わせてもらうわ!」
「じゃあ、さっそくいってみましょう」
私たちは洞窟へとむかった。
洞窟内は湿っており、苔のにおいやかび臭さが鼻をつく。
「素材入手なら、私の魔法は使えませんね」
「私も魔法を使えたらいいんだけどね。 ずっと魔力を練ってるけど、魔法が頭に浮かばなくて」
「えっ!? 朝からですか!!」
「うん」
「そんな朝からなんて、ふつう魔力が足りなくなって倒れてしまうはずなのに......」
ペイスはあぜんとしている。
「あはははっ! でも全然魔法は使えないんだよ!」
「ヒカリには本当に驚かされることばかりですね。 でも、大丈夫です! 私が新しい魔法を覚えましたから」
「それどんな魔法...... ちょっと待って」
その時何かの気配を感じる。
「知覚加速!」
ゆっくりペイスに近づく鋭いものが見える。
(上! とかげの舌!? いやヤモリ! こいつか!」
洞窟の天井に大きな銀色のヤモリがみえる。 私はナイフをゆっくり動く体でタイミングよくなげつける。 そのナイフはヤモリの目のあたりに当たった。 ひるんだヤモリは天井をはって奥へと逃げた。
「あっ、刺さらない! 逃げていく!」
「天井にいたんですか!?」
「うん、固くて素早いからにがした。 追いつくよ」
私たちは追いかけ、洞窟のさらに奥へと進む。
「いないね」
「ええ、数が少ないんでしょうか?」
奥に進むと少し天井の低い場所につく。 そこはとても暗く、すぐ近くに壁がある。 だが、ただならぬ気配を感じる。
「いる何か! ペイス警戒して!」
「はい!」
気配がするが、暗くて辺りが見えない。 すると、壁からものすごい数の赤い点が一斉に光って見えた。
「まずい! これまさか全部!! ペイスひいて......」
そういうまもなく波のように大小のヤモリが襲ってくる。 すごい数のヤモリが舌を伸ばしてくる。 それを盾と剣で防ぐ。
「数が多すぎる!! もういいペイス魔法を......」
ペイスを見るとヤモリの波に飲まれようとしていた。 その時杖を振るう。
「ストレングス!! ヒカリ、逃げて......」
「ペイス!!」
(ダメ!! このままじゃ! なんとか! 助けないと!! こいつら絶対全部ぶっ飛ばすしかない!!)
そう思ってがむしゃらに剣を振るっていると、突然頭に言葉が浮かぶ。
『サンダーボルト』
「サンダーボルト......」
直感でその言葉をはんすうすると、私の前に雷が轟き、前にいたヤモリたちを貫く。
「ペイス!!」
倒れているペイスに駆け寄る。
「ヒカリ...... 何ですか今の、魔法?」
「みたい! よし! やってみるか」
私は体勢を立て直して迫ってくるヤモリに向かう。
「知覚加速!」
(さっきはとっさだった今度は魔力をためて、言葉を)
「サンダーボルト!!!」
するとさっきよりも大きな雷が部屋全体を渦巻いてヤモリたちを飲み込む。 ヤモリたちは体から煙をだして動かなくなった。
「やったよ! ペイス!」
「すごい威力...... 雷の魔法なんてほとんどみたことがないです......」
私たちはさっそく、その中で一番大きなヤモリを二人で引っ張って帰った。
「ふぅ、つかれた!」
「は、はい......」
私たちは洞窟からなんとかヤモリを引きずって、カンヴァルさんの工房前でへたりこんだ。
「あんたたち! 大丈夫...... なにそのでかいの!?」
工房からカンヴァルさんが走りよってきた。
「他のより一回りおおきかったから、これ持ってきた」
私がそういうと、ヤモリを観察していたカンヴァルさんがうなづいた。
「こいつもうすぐコアモンスターになりそうだったんだ」
「えっ!?」
腰につけた刃物でお腹をさくと、中から拳大の青い結晶のようなものをとりだした。
「ほら、
「うぇ、なにそれ...... 心臓?」
「確か、魔力が凝縮した結晶ですよね。 モンスターからものすごく小さなものをたまに見つけます」
ペイスがそういうと、カンヴァルさんはうなづく。
「そう、普通は小さいけどね。 モンスターは魔力を集めてこの結晶を作るんだ。 それらを大きくしてより強いモンスターへと進化する。 それがコアモンスターになるんだ」
「それでそいつだけでかかったのか...... まあ、カンヴァルさんそれはいいけど、その素材で武具を作ってくれる」
「ああ、まかせときなよ! あっ! それで他のメタルゲッコーはいなかったのかい」
「いたけど、持ってこれないから、問屋さんにきてもらおうと思って」
「待って! 他にいるなら一体ちょうだい!」
「いいけど、持ってくるの大変だよ。 あっ!」
そういう間にカンヴァルさんは洞窟のほうへかけだしていった。 夕方になって、一体をひこずりながらもってきた。
「はぁ、あんたたち、はぁ、あんなに倒したの!?」
「ええ、ヒカリがすごい雷魔法を放って吹き飛ばしたんです」
「うん、何かはじめてできた。 そういういやペイス何か魔法使ってたよね」
「ええ、ストレングスという身体強化の魔法です。 私はもうダメだと思ってたので、なんとかヒカリだけでもと......」
恥ずかしそうにペイスが照れた。
「なんていいこ!」
「な、ヒカリ! ちょっと! や、やめて、やめてください......」
私がペイスに抱きつくと、真っ赤な顔をして慌てている。
「そこでいちゃつかないでよ。 それより町に帰ってて、一週間あれば作れるからさ」
「わかった! 頼んだよ!」
私たちは山を降りると、バーバラさんにメタルゲッコーの洞窟の話をする。 バーバラさんは鼻息荒くして、すぐ男たちに指示していた。
私たちは家に戻った。
一週間後、私たちはカンヴァルさんの工房に向かう。
「......で、できてるよ!」
ノックするとフラフラのカンヴァルさんが出てきた。
「どうしたの!?」
「ち、ちょっと、手に入ったことに興奮しちゃってがんばりすぎた」
そういうと、そのまま崩れ落ち床で寝てしまった。
「とりあえずエクスヒールしておきます」
「お願いペイス」
二人でベッドまで運ぶ。 小一時間すると起きてきた。
「ふぁ! よく寝た。 おっ! 二人とも元気!」
「元気! じゃないよ! いきなり倒れるからビックリしたでしょ!」
私がそう怒るとカンヴァルさんは笑いながら頭をさげる。
「すまん、すまん、つい張り切って製作に没頭してしまった。 そうだ! ほらあれ!」
そう指差した奥の部屋がみえ、装備が一式おかれていた。
「ヒカリにはメタルゲッコーの剣、盾、胸当て、すね当て、小手だ。 あとペイスには鞄と手袋、ローブ、杖を作っておいた」
「あれが! きていい!」
「ああ、身に付けてみてよ!」
私はさっそく身に付けた。
「おお! 軽いし、動きやすい!」
「本当! かなり軽いです」
「金属以上の強度に柔らかさと軽さがある。 これなら固いモンスターを切り裂くのも可能だよ」
カンヴァルさんは胸を張っていう。
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「ちょっとまって!」」
工房を出ようとするとカンヴァルさんが引き留める。
「また、珍しいモンスターを見つけたら持ってきてよ! ふぁ」
そういってまたベッドに潜り込んで寝息をたてた。
「寝た...... 何か嵐みたいなひとだね」
「ヒカリがそれを言いますか?」
あきれたようにペイスがいい、私たちはそーっと工房をでて、町へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます