第4話

「ん? 騒がしいな」


 朝起きると、下から人の声がする。 降りてみるとペイスさんの周りを大勢の人たちが囲んでいた。


(あっ、ラバルさんもいる。 なんだろう......)


「すごいじゃないかペイス! コアモンスターを倒したんだって!」


「マンティスたちが少なくなって、助かったよ!」


「まさか、あの奥にダンジョンがあったなんて、これでもう少し森の奥へ入れるな! ありがとう」


 みんなに感謝されて、ペイスさんは困惑しているようだ。


「あ、あの、あれは私ではなくヒカリさんが倒したんです......」


「そうか、あの記憶喪失の......」


 ラバルさんがこちらに気づいた。


「おお! ヒカリ! ありがとうコアモンスターを倒したんだって!」


「そうか君か! 記憶喪失で大変なのに、ありがとう助かったよ!」


「ああ、本当に助かった!」


「まあね。 私とペイスさんにかかればこんなの朝飯前よ!」


 私が胸を張るとペイスさんは困ったような顔している。 とりあえず感謝してくる町の人達を帰した。


「ふぅ、帰すの大変、人気者は辛いわね。 でもコアモンスターを倒したのなんでわかったの?」


「ええ、森の中のマンティスたちがかなり少なくなってた上、奥にあった洞窟が焼け落ちてたからわかったらしいです」


 ペイスさんは苦笑してそういった。


 その時家のドアがノックされた。


「また、感謝かな」


 私がそういうとがペイスさんは笑いながらドアを開けた。 そこには若い女性が立っていた。


「ああ、ペイス」


「フランさん、どうしました」


「ちょっとお願いがあるの」


 フランさんという人は雑貨屋でお客さんから頼まれた香草が、モンスターがでて採れなくなったという。


「お得意様だから、何とか手に入れたいの。 代金を支払うからとってきてくれないかしら」


「香草ですか、どうしましょう......」


 ペイスさんは困っている。


(ダンジョンのこと、気にしているのかな......)


「かまいませんよ。 とってきます!」


 私が横からいった。


「ありがとう! じゃあお願いね」


 そういってフランさんは笑顔で帰った。


「でも...... 昨日のことがありますし」

 

「ダンジョンは昨日壊したし、この仕事をするには必ずついて回ることだからね」


「まあ、そうですが...... そうですね。 覚悟を決めます!」


 ペイスさんは両手の拳を胸の前で握りそういった。 


 そして私たちはまた森へとやってきた。 最初は怯えていた風だったが、ペイスさんは落ち着いてモンスターを倒している。


(落ち着いたか...... 前に死にかけたからしょうがないけど)


「どうですかヒカリさん。 新しい剣の方」


「ああ、かなり使いやすいよ。 それに切れ味も前のよりはるかにいい」


 森に来る前に失った剣の代わりに、武器屋で一番いいロングソードを買った。 ペイスさんは魔力が高まるマジックスタッフを買っていた。


「ペイスさんはどう?」


「ええ、威力が上がりました。 あ、あの」


「なに?」


「ペイスでいいです。 すぐに呼ぶときに困るでしょう」


「そう、じゃあ私もヒカリで」


「はい!」


 私たちはそのまま香草をかごいっぱいに入れて帰り、雑貨屋にいきフランさんに渡す。


「ありがとう! 助かるわ」


「なにか必要なものはないですか、探してきますけど」


「そうねぇ、あっ! もしあったらだけど、森にホールの果実、レンジュの木があるなら手に入れてほしいの。 それがあれば買いとるわ」


「わかりました」


 私たちは家へともどる。


「じゃあ、明日はレンジュの木とホールの果実だね」


「両方ともかなりレアなものですね。 高価で買い取ってくれるということなので、見つけられたらいいですね」



 次の日、借りてきた木製のリアカーを引きながら森の中に入り、奥へとモンスターを狩りながら進む。 


「少し強いモンスターもいるね」


「ええ、でも魔法で倒せますし、マンティスたちがいないので、かなり探索範囲か広まりました。 それに魔法も覚えましたよ」


「えっ? 新しい魔法!?」


「ええ、ファイアボールを使っていたのでファイアアローを覚えました」


「魔法って覚えるの?」


「ええ、ある能力に達すると得ることができます。 攻撃魔法はあまり使ってなかったので覚えるのは遅かったですけど......」


「私もやっぱり使ってみたい!」


「教えたように魔力を感じられましたか?」


「うん、自分の中にある魔力は感じられるようになった」


「それなら、頭に起こしたい事象をイメージしてみてください。 頭の中に文字が浮かぶはずです」


(えーっと、とりあえず、治癒魔法ね。 そうすればペイスが攻撃魔法を連発できるし!)


 集中してイメージしてみるが、しばらくたっても何も浮かばなかった。


「うーん、何にも浮かばない。 治癒魔法を使いたいんだけど」


「もしかして適性がないのかもしれませんね。 その人の気質や性格で使えないものもあるそうです」


「そうなんだ」


(確かに私は治癒って感じの性格ではないな......)


「ゆっくりと焦らず練習しましょう。 あっ! ありました。 レンジュの木です!」 


「あの細い緑の木か」

 

 何本かある一本の緑の木を持ってきた斧で伐り倒すと、それを小さめにきるとリアカーにのせる。


「よし! 帰ろう」


「ええ」


(帰ったら、練習しよう)


 そう思いながら森からかえった。


 レンジュの木をフランさんに届けると喜んで買い取ってくれた。


「またお願いね! あとホールの果実もあれば!」


 そして家に帰った。


「すごいね! こんなにもらった!」


 机に袋一杯の金貨を出した。


「ええ! 1万ゴールドなんて始めてみました!」


「あの木って何なの?」


「レンジュの木は周囲の魔力を吸うので、持っているとモンスターがよってこないんです。 加工してアミュレットにします」


「なるほどモンスターよけか...... あとずっと考えたんだけど、依頼を受けて狩ったほうが良くない?」


 私が提案すると、ペイスは不思議そうにきいている。


「依頼をうけてですか?」


「うん、やみくもにモンスターを狩っても、効率が悪い気がするんだ。 依頼なら必要な分とればいいし」


「確かにとりすぎると、価格は落ちますね。 でも需要があるかどうか...... それにどうやって依頼を受けるんですか?」


「うーん、そうだ!! この家を店にすればいいんだよ! モンスターや素材入手を承りますって!」


「お店、そんなこと考えたこともなかった......」


「ペイスがいいなら始めようよ! 失敗しても最初に戻るだけ! 何でもやってみなくちゃ!」


「そ、そうですね。 わかりました! やってみましょう! でもいきなり何をすれば......」


「まあ、先人に聞くのが一番よね」


 私たちは、バーバラさんの元に向かう。


「えっ? 店をやりたいだって?」


「そうなんです。 依頼をうけモンスターを狩って素材を手に入れたほうが、問屋さんもいいでしょ」

 

「まあね。 在庫を抱えなくていいし、でもそれなら商業ギルドにはいるしかないよ」


「商業ギルド?」


「そうか! 商売するにはギルドへの所属が必要なんでした」


 ペイスが補足してくれた。バーバラさんがうなづく。


「そうしないと、小さい店同士で潰しあうって言う建前さ......」


(全体のパイの問題...... でも建前って?)


「バーバラさん! それでどうやったらギルドへ所属できるんですか?」


「まず、10万ゴールドほどの供託金がいるよ」


「お金か...... その程度なら」


「やるなら止めはしないけど、ただギルドは面倒だよ......」


 バーバラさんは眉を潜める。


(何か含む言い方だな......)   

 

「まあ、とりあえずお金を集めます」


「頑張んなさい。 やるなら応援するから!」


 バーバラさんがそういってくれた。


「とりあえず10万を集めよう! ホールの果実か、またレンジュの木を見つければかなりかせげる!」


「でもいま他の場所も探索して採取できそうなものや生息するモンスターを把握しておいたほうがいいんじゃないですか」


「なるほど、事前に把握しておけば、あとで使えるかも! さすががペイス!」


「い、いえ」


 ペイスは照れてその場でもじもじしている。


「じゃあ、近くの場所を探索しよう!」


「は、はい!」


 私たちは町の西側にあるスーラの森に向かう。



「んー」  


「どうしましたヒカリ」


「なんかさ、畑とか田んぼとか少ないよね。 町の近くしかないし、結構このあたり土も良さそうなのに」

 

 歩きながらそういうと、ペイスは眉を潜めた。


「モンスターです。 モンスターが多いので作っても壊されたり襲われたりするから、ほら」


 指差したところに、かつて畑があったと思われるところがあり、壊され柵が一部残っている。 遠くにはほとんど原型のない家らしき残骸もみえた。


「少し前からかなりモンスターが増えて、農家、漁師、狩人、木こりなんかは仕事を失っているんです」


「それで町もさびれてるってわけね」  


「ええ、仕事がないので、当然お金もありませんから」


「お客がいないから、他の仕事もつぶれる......か、これってやっぱダンジョンのせいなの」


「おそらく...... そこら辺にダンジョンがあって、モンスターが出てきているのだと思います」


(なるほど、そりゃコアモンスター討伐が感謝されるわけだ)


 私たちは森へはいると、かなり強めのモンスターを倒してすすむ。


「スケイルスネイル、バーンリザード、ウォークフラワー、素材になるものばかりです。 だいたい生息モンスターもわかりましたね」


 持ってきた荷車一杯にモンスターをのせながらペイスはいった。


「あそこ!?」


 森の奥に遺跡のようなものがみえる。 その中からモンスターがでてくるのが見えた。


「あれはダンジョン!! 早くはなれましょう!」 


「そうだね!」


 私たちは遺跡から離れる。


「ふぅ、今度は吸い込まれずにすんだ」


「ええ、あれは元々あった遺跡にコアモンスターがいついたのかもしれませんね」

 

「そうなんだ、でも巻き込まれなくてよかったよ。 この剣じゃもうきれなくなってきた、刃こぼれもひどくて」 


 はこぼれした剣をふってみると欠片が落ちた。


「ここのモンスターは岩や固い木から生まれたんでしょうね。 ヒカリの持っている剣は私たちの町では一番の武器ですが...... それ以上となると、遠くの町か鍛冶屋さんに造ってもらうしかないですね」


「普通の鉄じゃおなじかも...... モンスターを素材にした武器とかないかな」


「あるらしいですが、珍しいですね。 そもそもモンスターを狩る人が少ないですから、たしか前にバーバラさんがそんな人の話をしてましたけど......」


「よし! 売るついでに話を聞こう!!」


 私たちは町に帰りバーバラさんの店にむかった。

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