彼女に振られてしまった俺を慰めてくれるとても優しい幼馴染/幼馴染の視点もあり

ハイブリッジ

第1話

 <主人公の部屋>


「小さい頃から変わらないね。レースゲームで僕に勝てるわけないでしょ」


 幼馴染の阿久比志希波あぐいしきなみが自慢気な顔で俺の背中を叩く。


「ぐっ……もう一回」


 阿久比とは小さい頃からの幼馴染で小学校から大学まで一緒だ。好きなことやものも似ていて、今でもたまにお互いの部屋に集まってゲームとかをして遊んでいる。


 阿久比は勉強も運動もゲームも何でもそつなくこなしてしまう。おまけに見た目も良いので高校の時は男女問わずモテにモテまくっていた。


「せっかく大学生になったんだからキャンパスライフを謳歌したらどうなんだい」


「うるさいな」


「ほらまずは彼女でも作ったら? 君には難しいかもだけどね。まあもしどうしてもって言うのなら僕が────」


「あー彼女ならいるよ」


「え? は、ははっ……冗談だよね?」


「冗談じゃねえよ。この前告白したんだ」


「この前……そ、そうなのか……。君にも彼女が出来たんだ」


「そうなんだよ俺にもようやく……よっしゃ俺の勝ち!」


 終盤に阿久比が珍しくミスを連発したので勝つことが出来た。阿久比にゲームで勝つなんていつ振りだろう。


「ね、ねえ……その彼女さんってどんな子なのかな? 幼馴染なんだから教えてくれてもいいだろ?」


「同じ学部の子だよ」


「可愛いのかい?」


「そりゃまあ可愛いよ」


「……写真とかないの?」


「あるけど次のゲーム────」


「いいから早く見せて」


「は、はい」


 急いでスマホに保存している写真を阿久比に見せる。


「ほらこの子だよ。可愛いだろ」


「ふーん。ずいぶんと浮かれているね」


「まあこれは一緒に遊園地に行ったときの写真だから」


「……ありがとう」


 見せてと言ってきた割にはリアクションが薄かったな。


「僕そろそろ帰るね」


「なんだよもう帰るのかよ」


「うん。ちょっと用事があったこと思い出しちゃって」


「そっか。じゃあまた遊べる時連絡くれよ。時間空けとくから」


「わかった。彼女さんによろしく言っておいて」


「おう」




 ■




 <大学・キャンパス内>



 ある日、彼女の花菜かなに『用事があるから話がしたい』と誰もいない講義室に呼び出された。


 最近は花菜が忙しくて中々会うことが出来ず、こうやって顔を合わすのは二週間振りくらいだ。


「なんだよ急に話があるって」


「あのね……私と別れてほしいの」


「は?」


「ごめんね。話はそれだけなの」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俯いたまま講義室から出て行こうとする花菜を呼び止める。


「俺、花菜に何か気に障ることしちゃったかな?」


 もしかしたら自分が気付いていないところで花菜を傷つけてしまっていたのかもしれない。それならば誠心誠意謝らないと。


「ううんそうじゃない」


「な、ならどうして……」


「君より好きな人が出来たの」


「す、好きな人って……」


「本当にごめんなさい。その人に誤解されたくないからできれば今後キャンパス内で私には話しかけないで」


「そ、そんなこと急に言われても」


「さようなら。今までありがとう」


 そう言って花菜は講義室から足早に出て行ってしまった。


「待っ…………」


 バタン。一人残された講義室に扉の閉まる音がむなしく響いた。


「………………こんな急に」





 ■



 <主人公の部屋>



「お邪魔するよ……ってうわっ何だいこれは。すごい散らかってる」


「…………」


 花菜に振られてから数日経った。大学も休み部屋で一人落ち込んでいると阿久比がやってきた。


「何かあったのかい? 元気がないじゃないか?」


「…………振られた」


「え?」


「振られたんだよ彼女に」


「どうして。あんなに仲良さそうにしていたじゃないか」


「好きな人が出来たから別れてくれって」


「好きな人って……そんな勝手なこと。別れた後は連絡はしたのかい?」


「連絡しても返事が来ない。大学でも話しかけないでって言われてる」


「そんな……酷い」


「…………」


 阿久比に話しをしたら振られた時のことを思い出して涙が出そうになってきた。


「はあ……仕方ないな。傷心中の幼馴染の為に僕が特別に慰めてあげるよ」


「えっ?」


 そう言って阿久比がベッドに腰を掛るといきなり俺を抱きしめる。


「阿久比何して」


「いいから。今は大人しく僕に抱きしめられてればいいの」


「んぐっ」


 抱きしめられた状態で時間だけが過ぎて行った。たまに背中をポンポンと優しく叩くが、阿久比は何も言わず俺を抱きしめ続けてくれた。


「……あんなに好きだって言ってくれてたのにな」


「そんな浮気性な尻軽女に君が騙されなくてよかったよ」


「返信くらいしてくれてもいいじゃんか。ずっと待ってたのに」


「うんうん。返事も無視するのは僕もおかしいと思うよ」


「俺は何も魅力もないどうしようもない人間なんだ」


「そんなことないよ。君には魅力的なところがたくさんある」


「…………ぅう」


「大丈夫だよ」


 涙が止まるまで阿久比は抱きしめながら優しい言葉を掛け続けてくれた。


「ありがとう阿久比。阿久比のおかげでなんかすごい軽くなったよ」


「それはよかった」


 そろそろ離れようとしたのだが阿久比がずっと俺を抱きしめたまま離そうとしない。


「あの阿久比、そろそろ離してもらえると」


「ねえ……僕と付き合ってよ」


「えっ」


 阿久比からの突然の告白に気が動転してしまう。


「きゅ、急に何言って」


「実はねずっと君のことが好きだったんだ。……このタイミング言うのは卑怯だと思うけど」


「阿久比が……俺のことを好き」


「うん。大好き」


 そう言って阿久比はようやく離れると俺の肩にポンと手を置く。


「君が頭がいい子が好きって言ったから勉強を頑張った。君が運動ができる子が好きって言ったからスポーツを頑張った。君がスタイルがいい子が好きって知ったからダイエットとか美容を頑張った。君の彼女になる為に僕はここまで頑張ってこれたんだ」


 とても真っすぐな目で俺を見つめる阿久比。顔も赤くなっているように見える。


「ね? あんな女より僕の方がいいでしょ?」


「…………」


「返事を聞かせてほしいな?」


 阿久比には感謝の気持ちしかない。落ち込んでいる俺を励ましてくれて、俺のためにいっぱい努力もしてくれて……。


「その…………こんな俺で良ければ付き合ってください」


「……嬉しい。やっと君と恋人になることができた」


「ごめん。今まで阿久比の気持ちに気付いてあげれなくて」


「謝らないでくれ。僕は今人生で一番幸せなんだから」




 ■



 すっかり日も暮れてしまい、夜道は危ないので阿久比を家まで送っていく。


「あのさ阿久比。その……」


「なに?」


「阿久比はさ……突然別れてくれとか言わないよな?」


 阿久比に限って言うはずがないとわかっていても、阿久比の口から『言わない』って直接聞きたい。


「…………さあどうだろう」


「あ、阿久比?」


 阿久比からの返事は俺が欲していた返事とは違った。予想外の返事に気が動転してしまう。


「今みたいにこうやって僕のことを繫いでおかないともしかしたら僕も誰かに取られちゃうかもしれないね?」


 そう言って阿久比は意地悪気に笑みを浮かべる。


 阿久比を誰かに取られてしまったことを想像したら不安に駆られてしまう。……嫌だ。阿久比が他の誰かに取られるなんて。


「どうしたの? 握ってる手の力がすごく強くなったけど」


「ご、ごめん……」


 不安から阿久比の手を強く握ってしまっていた。


「……っ」


「ふふっ大丈夫だよ。私が君に別れてなんて言うわけないから安心して」


「阿久比……」


「僕だけは君の側にずっといてあげるから。だから君も僕以外の女には近づいちゃ駄目だからね」


「……わかった。約束する」


 俺の返事に聞いて阿久比はとても嬉しそうに微笑んだ。





 ◻️■◻️




 <幼馴染の部屋>


「小さい頃から変わらないね。レースゲームで僕に勝てるわけないでしょ」


 ゲームに負けて悔しがっている彼の背中を叩く。


「ぐっ……もう一回」


 彼とは小さい頃からの幼馴染で小学校から大学まで一緒だ。好きなことやものも似ていて、今でもたまにお互いの部屋に集まってゲームとかをして遊んでいる。


 彼の優しくていざって時には頼りになるところが大好きだ。周りの女子は彼の魅力に気づいていない節穴しかいないのが幸いだ。


「せっかく大学生になったんだからキャンパスライフを謳歌したらどうなんだい」


「うるさいな」


「ほらまずは彼女でも作ったら? 君には難しいかもだけどね」


 彼が僕以外の女子と話しているのをほとんど見たことがない。大学に行ってもそこは変わらずだ。


 そんな彼に彼女なんて出来る訳がないってわかっているが意地悪で言ってみただけだ。


 まあ彼の恋人に相応しいのは僕しかいない。


「まあもしどうしてもって言うのなら僕が────」


「あー彼女ならいるよ」


「え? は、ははっ……冗談だよね?」


「冗談じゃねえよ。この前告白したんだ」


「この前……」


 あまりにショッキングな事実に手が震えてゲームの操作が疎かになる。


 彼が僕以外に親しくしている女子なんていなかったはずだ。


「そ、そうなのか……。君にも彼女が出来たんだ」


「そうなんだよ俺にもようやく……よっしゃ俺の勝ち!」


 ゲームに勝って彼は喜んでいるが僕としてはゲームどころではない。


「ね、ねえ……その彼女さんってどんな子なのかな? 幼馴染なんだから教えてくれてもいいだろ?」


「同じ学部の子だよ」


「可愛いのかい?」


「そりゃまあ可愛いよ」


「……写真とかないの?」


「あるけど次のゲーム────」


「いいから早く見せて」


「は、はい」


 彼が彼女の写真を見せてくれる。


「ほらこの子だよ。可愛いだろ」


 満面の笑顔で肩を寄せ合っている彼と彼の彼女が写真に映っていた。


「ふーん。ずいぶんと浮かれているね」


 僕以外の女子にこんな笑顔を見せているなんて……。


「まあこれは一緒に遊園地に行ったときの写真だから」


「……ありがとう」


 彼にバレないように血が滲むのではないかと思うくらい強く拳を握る。


「僕そろそろ帰るね」


「なんだよもう帰るのかよ」


「うん。ちょっと用事があったこと思い出しちゃって」


「そっか。じゃあまた遊べる時連絡くれよ。時間空けとくから」


「わかった。彼女さんによろしく言っておいて」


「おう」



 彼の恋人になるべきなのは僕だ。あんなブスなんかじゃない。




 ◻️■◻️




 <大学近辺>



「……いた」


 写真で見たから見間違いようがない。あの女が彼の彼女だ。


 彼女が一人になったのを見計らって話しかけに行く。


「ねえ。そこの君」


「はい?」


「ちょっと道を聞きたいんだけど……今大丈夫かな?」


「いいですけど……」


 もしかしたら彼が僕のことを彼女に伝えているかもしれないので念のため変装をしてきたが、反応を見るにどうやら僕のことは知らないみたいだ。


「本当に? よかった。話しかけたのが君みたいな優しい人で」


 目的の場所まで向かっている間、大学の事などの話をして彼女の警戒心を解く。


「ここですね」


「ありがとう。助かったよ」


「い、いえ……」


「そうだ。よかったらお礼に何かごちそうさせてほしいな」


「え、えっと……」


 チラチラと僕の方を見ている。まだ警戒はしているが僕のことは気になっている感じかな……。これはもう一押しすればイケるな。


「駄目かな?」


 グッと彼女に体を近づけ顔を見つめる。


「だ、駄目じゃないです」


「……よかった。もっと君のことが知りたいんだ」


「や、やめてくださいよ」


「ふふっ」


 面白いように上手くいった。これなら思っていたよりも早く彼とこの女を別れさせることができるかもしれない。




 ◻️■◻️




 <カフェ>


「あっ志希さん!」


「ごめんね待たせちゃって」


「い、いえ全然待ってないです」


 彼女に会ってから二週間ほどが経った。この二週間で彼女との仲はかなり深まり、今では彼女の方から毎日連絡をしてくれる。


 何十分か話していると彼女の携帯が鳴った。


「電話じゃないかい?」


「……いいんです。後で掛け直します。今は志希さんとの時間ですから」


 彼女はスマホを一度確認だけしてカバンに戻した。


「そっか」


 今の反応……恐らく彼からの電話だろう。……そろそろかな。


「ねえ花菜ちゃん」


「なんですか?」


「花菜ちゃんは今付き合ってる人とかいるの?」


「えっ……。え、えっと……それは」


「いるんだね」


「…………」


 ばつが悪そうな顔をしている。僕や彼に対して彼女なりに罪悪感みたいなものでもあるのだろう。


「今からすごく意地悪なこと言うね。その人と別れて僕と付き合ってほしいんだ」


「えっ」


「駄目かな? 僕花菜ちゃんのこと大好きなんだ」


「ほ、本当ですか?」


「うん本当だよ」


 ここ数日のやり取りで彼女の心は彼よりも僕に傾いているのがわかっている。


「もし無理なら無理って言ってもらって構わないよ。その時は彼氏さんに悪いから花菜ちゃんとはもう関わらない」


「えっ……か、関わらないって」


「こうやって二人きりで会うのも止めるよ。花菜ちゃんの彼氏さんに悪いからね」


「そ、そんな」


「花菜ちゃんは彼氏と僕どっちを選んでくれる?」


「…………」


 彼女が僕の両手を強く握る。


「わ、私も志希さんのことが大好きです! 彼とは別れます! だから私と付き合ってください!」


「……ありがとう」


 彼女の手を握り返す。


「あと難しいお願いをしちゃうんだけどその彼氏と今後は話さないでほしいな」


「どうしてですか?」


「その……嫉妬しちゃうから」


「わかりました。私志希さんだけいればいいんです」


「僕もだよ」


 ようやく彼からこの女を離れてもらうことができた。跳んで喜びたい感情をグッと我慢して注文したコーヒーに口を付ける。




 ◻️■◻️



 <阿久比の部屋>



「ふぅ……」


 彼女とのデート終えた後、部屋で一人深く息を吐く。


 結局あの女も彼のことを心の底から愛してはいなかった。ちょっ僕が誘ったらすぐに彼を裏切る程度の愛だったんだ。僕が行動しなくても彼女は顔だけしか取り柄のない大学の男といずれ浮気をしていただろう。


 ………あんな尻軽な女に彼を奪われたのか。


「くそっ!!」


 悔しさや怒り、色々な感情が込み上げてきてベッドを思い切り叩く。


 ……でももう大丈夫だ。


 あの女が彼に近づくことはもうない。あとは僕が彼の支えになってあげるだけ。


 絶対誰にも彼は渡さない。彼を支えるのは僕しかいないのだから。



『志希さん。今日はありがとうございました。志希さんとお付き合いできるなんて夢見たいです。明日もよかったら一緒に出掛けませんか?』



「…………」



『僕の方こそ今日もありがとうね。今度一緒に出掛けるのは花菜ちゃんが彼と別れてからにしようか』


『わかりました。明日彼と別れてきます。だから今度またデートしてくださいね』


『もちろんだよ』



「…………ウザいな」




 ◻️■◻️



 <幼馴染の部屋>



「お邪魔するよ……ってうわっ何だいこれは。すごい散らかってる」


「…………」


 暗い部屋の中で彼は酷く落ち込んでいた。彼にとってあの女がここまで落ち込む原因になっていたことに少しイラついたが、一呼吸おいて気持ちを整える。


「何かあったのかい? 元気がないじゃないか?」


「…………振られた」


「え?」


「振られたんだよ彼女に」


「どうして。あんなに仲良さそうにしていたじゃないか」


「好きな人が出来たから別れてくれって」


「好きな人って……そんな勝手なこと。別れた後は連絡はしたのかい?」


「連絡しても返事が来ない。大学でも話しかけないでって言われてる」


「そんな……酷い」


「…………」


 彼を見ると目から涙が零れそうになっていた。ああ……なんて愛おしいのだろう。


「はあ……仕方ないな。傷心中の幼馴染の為に僕が特別に慰めてあげるよ」


「えっ?」


 ベッドに腰を掛け彼を抱きしめる。


「阿久比何して」


「いいから。今は大人しく僕に抱きしめられてればいいの」


「んぐっ」


 始めは恥ずかしいのか少し抵抗も見られたが、背中を擦ってあげたり優しく叩いてあげたりしている内に抱きしめられることを受け入れて行った。


 久しぶりに彼のことを抱きしめた。小学生以来かな。あの頃と違って男の子の体になっている。


「……あんなに好きだって言ってくれてたのにな」


 抱きしめてから何分か経つと彼がポツリポツリと小さな声で我慢していたであろう気持ちを漏らし始める。


「そんな浮気性な尻軽女に君が騙されなくてよかったよ」


「返信くらいしてくれてもいいじゃんか。ずっと待ってたのに」


「うんうん。返事も無視するのは僕もおかしいと思うよ」


「……俺は何も魅力もないどうしようもない人間なんだ」


「そんなことないよ。君には魅力的なところがたくさんある」


「…………ぅう」


「大丈夫だよ」


 彼の涙が止まるまで僕は言葉を掛け続けた。


「ありがとう阿久比。阿久比のおかげでなんかすごい軽くなったよ」


「それはよかった」


 彼は離れようとしているが僕が抱きしめたまま離そうとしないので困った表情を浮かべている。


「あの阿久比、そろそろ離してもらえると」


「ねえ……僕と付き合ってよ」


「えっ」


 不意な僕からの告白に彼は目を泳がせている。


「きゅ、急に何言って」


「実はねずっと君のことが好きだったんだ。……このタイミング言うのは卑怯だと思うけど」


「阿久比が……俺のことを好き」


「うん。大好き」


 一度彼から離れ、肩にポンと手を置き彼の顔を真っすぐに見つめる。


「君が頭がいい子が好きって言ったから勉強を頑張った。君が運動ができる子が好きって言ったからスポーツを頑張った。君がスタイルがいい子が好きって知ったからダイエットとか美容を頑張った。君の彼女になる為に僕はここまで頑張ってこれたんだ」


 ドキドキして顔が熱い。これ絶対に顔赤くなってる。


「ね? あんな女より僕の方がいいでしょ?」


「…………」


「返事を聞かせてほしいな?」


 彼は少しの間俯いた後、顔を上げ僕の顔をまっすぐ見つめる。


「その…………こんな俺で良ければ付き合ってください」


「……嬉しい。やっと君と恋人になることができた」


「ごめん。今まで阿久比の気持ちに気付いてあげれなくて」


「謝らないでくれ。僕は今人生で一番幸せなんだから」


 恥ずかしそうにしている彼を強く抱きしめた。彼に顔が見られなくてよかった。幸せ過ぎて今の僕はとてもだらしない顔をしてしまっているから。



 ◻️■◻️



 すっかり日も暮れてしまい、名残惜しいが帰ろうとすると彼が『夜は危ないから』と僕の家まで付いてきてくれることになった。


「あのさ阿久比。その……」


「なに?」


「阿久比はさ……突然別れてくれとか言わないよな?」


 不安そうな顔で僕を見つめている。彼は僕にこう言ってほしいのだろう。『大丈夫だよ』『言うわけないじゃないか』と。僕の言葉で安心したいのだ。言ってあげれば彼はきっと笑顔になるに違いない。


 ……でも言ってあげない。


「…………さあどうだろう」


「あ、阿久比?」


 僕は心が歪んでいるみたいだ。


 彼の不安で不安で仕方ないっていう顔を見ると胸がキュンキュンをするし、体も熱くなってくる。


 彼には僕なしでは不安で仕方ないようになってもらいたい。


「今みたいにこうやって僕のことを繫いでおかないともしかしたら僕も誰かに取られちゃうかもしれないね?」


 幼馴染である僕にまで離れてしまったら今度は立ち直るのも難しいだろう。


 自分の欲しかった言葉をもらえなかった彼はとても動揺している。


「どうしたの? 握ってる手の力がすごく強くなったけど」


「ご、ごめん……」


 彼は僕の手を痛いくらい強く握っている。まるで行かないでくれと言っているみたいに。


「……っ」


 ああ……堪らない。この行動だけでも彼の中で僕という存在が大きくなっていていることを感じられ、嬉しさで胸がいっぱいになる。


「ふふっ大丈夫だよ。私が君に別れてなんて言うわけないから安心して」


「阿久比……」


「僕だけは君の側にずっといてあげるから。だから君も僕以外の女には近づいちゃ駄目だからね」


「……わかった。約束する」


 僕の事だけで頭がいっぱいになるようになってもらうから覚悟してね。








 終わり



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彼女に振られてしまった俺を慰めてくれるとても優しい幼馴染/幼馴染の視点もあり ハイブリッジ @highbridge

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